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癌という言葉が急に身近になった ①

 台湾に赴任して4カ月経とうとしている。まだまだだが、中国語も何となく理解できるようになってきた。先月は、健康診断受診のため、初めて首都の台北に行ってきた。日本出国前に受診していたので、改めて台湾で受診する必要がなかったようだが、会社の手違いで受けることになった。間際、事務員に、「会社の間違いだから、行かなくても良い。」と言われたが、台北に行ってみたかったし、検便も採っていたので、せっかくだからと、受診することに決めたのだ。


 そして受診して3週間後の先週、その結果が来たのだが、散々だった。

 いつも引っかかる総コレステロール、悪玉コレステロールの基準値以上、白血球の基準値以下に加えて、心電図、胸部X線、便潜血検査で異常があった。特に便潜血検査の陽性は再検査が必要とのこと。痔とかでも陽性になるらしいので、あまり気にしてはいなかったが、正常範囲100ng/ml以下のところ、437ng/mlと結構オーバーしているので、念の為、再検査を受けに再び台北の病院に行くことにした。

 代休を取得して、8月19日朝、バスで台北に向った。台北の病院までは約45分ぐらいかかる。その間ネットで、「大腸癌 便検査 確率」とかをググって、一応、大腸癌や便潜血検査について調べてみた。便潜血検査で陽性であっても、大腸癌の確率は2%ぐらいであるようなので、そんなに心配はすることはあるまい。
 バスは程なくして、台北の台安病院に着いた。台安病院は国際医療センターというのがあり、受付は日本語で出来るし、診察も日本語の通訳が付いてくれるので安心である。10時30分の予約だったが、少し早く着いたので、受付を済ませロビーで待つことにした。国際医療センターは病院というより、小綺麗なオフィスという感じで、看護師さん達も、白衣ではなく、黒いポロシャツの様なユニフォームで、モダンな雰囲気であった。
 10時30分を少し過ぎたぐらいに、担当の先生が到着し、受付から私の名前が呼ばれ、診察室に入った。
 30歳ぐらいの若い男性の先生だったが、診察といっても、触診されるわけでもなく、ただ、検査結果の説明を日本語通訳に伝えて、通訳から日本語で聞かせられるだけだった。「陽性の人でポリープがある確率が50%ぐらいだが、あなたの数値では、もっと高い確率になります。その中で、癌化する可能性があるものは半分ぐらいです。また、既に癌がある確率は10%ぐらいあります。」私は、「えっ?何%と言いました?」と咄嗟に聞き返した。朝見たネットの記事より遥かに高い確率に少々驚き、俄に信じがたかったが、数値の高い私の場合は、10%癌である確率があるらしいのだ。来週木曜日、8月25日に大腸内視鏡検査と大腸ポリープ切除手術をする事が決まった。急展開だった。癌という、自分には無関係だと思っていた言葉が、急に身近になってしまった気がした。

 私には、職業柄か、最悪のケースを危険予知し、シミュレーションする癖がある。帰りの電車の中で、10%の確率の癌になってしまった事を想定してみた。もし、来週木曜日に「あなたは癌です。」と言われたらどうだろう。平静を保っていられるのか?私は大丈夫だと思う。向き合えると思う。それが今まで目指してきた人間としての強さであると思うし、狼狽えるようなカッコ悪い自分を想像したくない。そして、長生きしたいという願望はもともと持っていない。ただ、NASAが2025年に月に人類を再び送り込むのをこの目で確認したいし、2024年のパリオリンピックは、出場するかもしれない生徒の応援に行きたい。また、絶対にもう一度会いたい人がいる。そして、もし私が早くに死んだら、娘と母親が心配だ。家族親族の中で特に私の事を愛してくれているから。また大学受験を控えた息子にも大事な時に心配をかけたくない。
 と、色々考えているうちに自宅の最寄りの駅に着いた。

 そんなに心配することはないだろう。偶然間違えて受けた健康診断が、早期発見をさせてくれたのかもしれないし、兎に角今週火曜日までは美味しいものを食べて、お酒も飲もう。水曜日からは検査用の下剤をたくさん飲まなくてはならないし、しばらくは自由に飲み食いできなくなるかもしれないのだから。

                   つづく

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