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古い体制の『上下関係』に依存されていたチーム内組織の改革

■先輩と後輩の「上下関係」について

 当時、私がコーチをしていたF大学女子バスケットボールの選手達は、練習中も妥協せず全力で走ります。また、練習と練習の切り替えも早く、全員で必死になって行います。第三者的な方が見れば学生らしい「応援したくなるチーム」と感じると思います。本当に素晴らしかったです。

 さて、ここのどこに隙があるのでしょうか。

 私は、肝心なことを見落としていたのです。それは、「先輩と後輩との上下関係について」です。F大学女子バスケットボール部は、この「上下関係」に嵌っていたのです。

 この上下関係について、フレックスコミュニケーション代表の播磨早苗氏は、日本の社会には「ヒエラルキー(支配関係)が存在し、組織の大小に関わらず「ヒエラルキー」に基づく人間観によって動いています。

 日本は、いまだに過去のヒエラルキーに沿った組織で100年以上に渡り行われ「指示・命令」の歴史が息づいています。中には、この組織改革をした企業や部活動もあったと思いますが、組織が変わったとしても中にいる人間の意識は、そう簡単に変わらないと述べています。

 また、オリンピックを3大会連続で出場した為末大氏は、上下関係がある中で育つことは大事だったなとふと振り返ります。今の世の中の空気では、上下関係を意識することはあまり人気がないと思いますが、私自身が上下関係を重視する環境で育ったことは、とても人生に良い影響を与えていると思います。

 そして、部活に入った時に、これは環境に早く適応するというゲームのような感じがしました。一歩外に出れば違う文化がありまたそこに適応すれば良く、理想の文化圏があるわけではなく、それぞれに偏りがある中で、その都度自分を変えながら適応すればいいと考えられるようになったのも上下関係で学んだと言及しています。

  私自身も、この日本特有の文化において上下関係を否定することはありませんし、私が学生時代の時や社会人になってからも上下関係があることによって、先輩から挨拶の大切さや社会に必要なマナーを教わりました。そして、後輩への気配りも先輩の責任としてしっかり面倒を見る大切さを学んできましたので、「ある程度の上下関係は必要」と思っています。

そのある程度の上下関係が非常に難しいのですが……。

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■暗黙のルール

 当時のF大学女子バスケットボール部には「上下関係」の中に暗黙のルールがありました。前回「心を整えてやる練習と心を整えないでやる練習」は、明らかに結果が違うことを指摘させて頂きました。しかし、選手達は「先輩と後輩の上下関係」があることによって、下級生は早く準備することや先輩達から怒られないように掃除に取り組んでいたのです。

 私は、これをチーム全員でやったと勘違いをして「心を整えてやる」という練習前の準備を間違った捉え方をしていたのでした。

 また、特に後輩達は、練習前、練習中も先輩から怒られないように練習を上手くこなす事だけを考えてやります。例えば、一年生は、練習前に私のところへ来て練習メニューを聞きに来ます。そして、私から聞いたことを白板に書き出します。これは、前監督の時から実施されていたようで、練習メニューを可視化することによって、次の練習への行動を早めるためだそうです。そして、次は、どんな練習があるのかを把握して、練習が始まれば一年生が先頭に立ち、練習内容を後輩が先輩に伝えて迅速に次のメニューへと移行し練習を始めます。

 後輩達は、先輩から怒られないように「練習を上手く熟すことを考えて、練習に参加をしているだけ」であり、練習前の準備は決して「心を整える」ことではなく、「上手くなりたい」と思ってやる練習とは程遠い、ただ先輩に気を使い、怒られないようにするための練習をやっていたのです。

 しかし、このようなチーム状態であれば、主将、副主将に練習メニューを伝えて、先輩が後輩を引っ張って行く組織構造へと変化させれば良いと思っていましたが、このチームはこれだけではありませんでした。

 後輩達は、先輩の機嫌を伺いながら練習をします。例えば、スクリイメージをした時、オフェンスをしていた先輩が強引にドリブルでペイントアタックをします。後輩達は、ディフェンスでコースに入り止めることができる距離でありながら、止めに行こうとせず、道を開けて簡単にシュートまで行かれたのです。

 私は、練習を止め、「なぜ、コースに入ろうと努力をしなかったのか」と尋ねると、「すみません」の言葉だけです。「すみません!では分からない。何故行かなかったのか」と言っても「すみません」いくら言っても一言で終わります。何かここには「暗黙のルール」があるように思ったのです。

■古い体制から抜け出す

 練習後、先輩達を集めて「今、後輩達は先輩達の全てにビビっているよ。俺は、ある程度の上下関係は、クラブ活動をする上で必要と思っているけど、練習中にその上下関係を出して練習をしても公式試合など絶対勝てないと思うし、インカレ出場なんて絶対無理だと思うよ。」と伝えました。

 しかし、この時、先輩達も分かっていました。「私達は、上手く練習をこなしているだけで、『インカレ出場』を意識して練習をしていない。ただ昔からの古い体制を変えず、変えきれず、私達が井の中の蛙である」ということを理解してくれていました。

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 そして、これをきっかけにして、このチームの「古い上下関係」「間違った上下関係」を崩し、私は、全ての練習メニューを行う時、先輩が先頭に立ってチームを引っ張っていく方法へと変えて、そして、先輩が後輩へ気配りや面倒をみさせるようにして、古い体制の『上下関係』に依存されているチーム内組織の改革から始めたのでした。

もちろん、上下関係の中にある「人間の意識」なんて、そう簡単に変えることは難しかったですけどね笑   そこは、コーチの熱意と忍耐かなと思います。
続きは、後日アップします。

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次回は、「指導上における男女の違いを理解してチームのベースを構築する」について書いていきたいと思います。

引用及び参考文献

・播磨早苗(2004)『目からウロコのコーチング』PHP研究所、東京

・為末大『侍オフィシャルサイト』http://tamesue.jp/(2020.8.24)

・二杉茂(2018)『コーチのミッション』晃洋書房、京都

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