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サッカー部は空を飛べる

中学一年生の春

サッカー部に入って数週間後
3年生の不良の先輩が副キャプテンの小澤さんをからかっていた

空手を幼い頃から習っていたというその先輩は
よく小澤さんをいじって遊んでいる

小澤さんは部活の時間が地獄だったに違いない

小学校のサッカーチームからほぼ全員が同じ中学へ
なので、ほぼ全員がお互いのことを知っている

それでも、3年生の先輩の不良っぷりは想像を遥かに超えていた

小澤副キャプテンはいじめられっ子だ

めんどくさいことを押し付けるために副キャプテンにされた、と2年の杉谷先輩が言っていた

杉谷先輩も不良ライクな人だ
でも器が小さい

2年生には豊川先輩というとてつもなくサッカーの上手い人がいた

でも彼は中学の部活には入らず
中学からはクラブチームに入った

不良ライクな杉谷先輩は、豊川先輩というエースがいなくなって天下をとった先輩で
正直僕は苦手だった

杉谷先輩が同じ2年の丸さんに威張り散らしてるのも気に食わなかった

丸さんも後輩の僕たちに威張ることはあった

でも、アホなのだ

アホだけど先輩になれたので後輩に威張れる

後輩に威張れるのが嬉しいだけなので
丸さんは後輩の僕らには威張るのだが、そこまででしかないのだ
ただ、威張るのだ

それ以上なにをしていいのかわからないから
一緒にボール拾いをしてくれる丸さん

威張れることに喜んでいる丸さんは可愛い人だ

何より、「杉谷先輩」と「丸さん」

呼び名で僕ら1年生との距離感が違いすぎる

さんきゅーアホの丸さん

「おい!佐藤!」

不慮の先輩が僕を呼んでいる

「津山先輩、なんですか」

直立不動で津山先輩の前に立つ

もちろん、「気をつけ」の姿勢で。

「ちょっとさ、胸の前で両腕をクロスしてくんね?」

「はい?」

「だから、こうやんだよ」

津山先輩が自分の腕をクロスさせ肩をトントンと叩いている

「こうやんだよ」

目がなぜかマジだ。

「こうですか?」

僕は腕をクロスさせ…

僕は重力から突如解放された

音が消え

ただ、青空が視界に広がった

目の前にいた津山先輩の姿はなく
僕の視界は青空になった

ズザ…

ドン…

僕はグラウンドに転がった


何があったのか、一瞬の出来事だった


津山先輩は僕が腕をクロスさせる刹那
片足で跳ぶように間合いを詰め
回し蹴りを放った

ピンと体をまっすぐにし、腕をクロスしたまま、僕は真後ろに吹っ飛んだ
そして、腕をクロスさせた姿勢を崩すことなく綺麗に背中から着地したのだ

「え?」

痛みより驚きが大きかった

自分の状況に気づいたその瞬間

ズサッ…

全く同じ姿勢で僕の真横に小澤さんが飛んできた


体をピンとまっすぐし、腕をクロスさせ、天をまっすぐ仰ぐ僕と小澤さん

アジの干物が並ぶように、綺麗にならんだ僕と小澤さん


小澤さんは腕をクロスさせたまま、天を仰いだまま

「まいるよなぁ」

と呟いた

「まいりますねぇ」

僕は空に向かって返事をした


※体験談ですが、僕の名前以外は変えています
※痛かったです


#部活の思い出

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