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スピルバーグ監督が「巨匠」である2つの理由。

【『レディ・プレイヤー1』&『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』/スティーヴン・スピルバーグ監督】

今、スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作が2本同時に劇場公開されている。(※2018年4月26日時点)

スピルバーグ監督は、『レディ・プレイヤー1』の製作を控えていたにもかかわらず、並行して『ペンタゴン・ペーパーズ』を撮ることを決断。製作が発表されたのは、ドナルド・トランプが大統領に就任してから、わずか45日後だった。

2016年の大統領選挙において、フェイクニュースがその結果を大きく左右したと考える人は少なくない。ある調査によれば、選挙期間中、SNSでは、主要メディアの記事よりも「ローマ法王がトランプ候補の支持を表明」「クリントン候補がISに武器を売却」といったフェイクニュースの記事のほうが世間の注目を集めていたという。

報道とは何か、ジャーナリズムとは何か。スピルバーグ監督はアメリカ国民に問うために、わずか約9ヶ月で『ペンタゴン・ペーパーズ』を完成させ、公開に踏み切った。

物語の鍵を握るのは、「History of U.S. Decision-making in Vietnam, 1945-67」という最高機密文書。後に「ペンタゴン・ペーパーズ」として世界中に知られることになるその文書には、トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンの4政権にわたって隠蔽されてきたベトナム戦争に関する膨大な事実が記されていた。

政府は、「この戦争に勝機はない」と認識していたにもかかわらず、国民に平和的解決を追求していると虚偽の報告を重ねながら、秘密裏に軍事行動を拡大し続けた。だからこそ、この機密文書の報道には、ベトナム戦争に身を投じた大勢の兵士を含むアメリカ国民の未来が懸かっていた。

この映画は「報道の自由」を主題としているが、もっと広い意味での「自由」を巡る物語である。歴史を振り返れば、アメリカ国民はこれまでに何度も、名誉、社会的地位、時には命さえも危険に晒されてきた。それでも彼らは、その度に立ち上がり、「自由」を掲げる憲法を守るために戦い続けてきた。

本作で描かれるヒューゴ・ブラック判事による判決文には、「合衆国建国の父たちの願い」、つまり民主主義国家としてのアメリカの理想が凝縮されている。記者たちの「正しいことを正しく為す」というあまりにもシンプルなプロフェッショナル精神が報われるこのシーンに、僕はとても深い感銘を受けた。(もし「ペンタゴン・ペーパーズ」に記された真実が闇に葬られていたら、ウォーター・ゲート事件に関する報道も起こらなかったかもしれない。本作のラスト1分には、そうした意味合いが込められている。)

この映画で活躍が描かれる新聞社ワシントン・ポストは、一時期は経営の危機に瀕していたが、アマゾン・ドットコムのCEOジェフ・ベゾス氏の100%個人所有となって以降、復活の兆しを見せている。同紙は、米大統領選挙中のトランプの慈善活動についての検証報道を行い、2017年にピューリッツァー賞を受賞。今もなお、権力監視の姿勢を強く打ち出し続けている。

そして今、トランプはワシントン・ポストへの批判を強めている。ツイッターで公然と軽蔑の念を露わにして、同紙からの取材を拒否する意向を示した。トランプが最も敵視しているのは、先日、個人情報を不正利用されたフェイスブックよりも今やアマゾンであり、だからこそワシントン・ポストへの風当たりは強い。政権とメディアの関係は、今日においても悪化の一途を辿っているのだ。

「映画は社会を映す鏡である」と言われるが、今このタイミングで今作を公開することこそが、スピルバーグ監督にとっての"ジャーナリズム精神"だったのだろう。


一方、『レディ・プレイヤー1』を創り上げるエンターテイナーとしての矜持と表現姿勢も、また同じように彼の本質である。

僕は『インディ・ジョーンズ』や『E.T.』、『ジュラシック・パーク』をリアルタイムで「体験」することはできなかった世代だ。だからこそ、スピルバーグ監督が描く全く新しい未知の世界を、今こうして映画館で「体験」できたことが何よりも嬉しかった。

この映画は、スピルバーグ監督が抱く80年代のポップ・カルチャーへの愛と敬意で満ち溢れている。劇中には無数のキャラクターたちが登場するが、個人的には、中盤でまさか「あの映画」のワンシーンを体験することができるとは夢にも思っていなかった。

スピルバーグ監督の想いに重ねながら、自分自身の映画への愛を再確認できたような気がして、3Dメガネを外した時には、「映画を好きでよかった」と心の底から思えた。これほとまでに晴れやかな「体験」は初めてだった。


リアルな社会的メッセージとして、そして夢と感動を届けるエンターテインメントとして。その両軸で映画の可能性を広げ続けてきたスピルバーグ監督が、映画界に与えた影響は計り知れない。

そして、それこそが彼が現行の映画界において、「巨匠」と称される最大の理由だと思う。



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