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2021年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

昨年の「洋楽」ベスト10の記事の冒頭において、1年前の僕はこのようなことを綴っていた。

《コロナ禍だからこそ生まれた作品もあれば、特に上半期の作品の多くがそうであるように、コロナの影響を受けていない(背景として設定されていない)作品もある。その意味で、2021年こそが、ポップ・ミュージック史における「ウィズ・コロナ時代」の真の幕開けになる、とも言えるだろう。》

たしかに2021年は、ウィズ・コロナ時代の2年目へ突入した年となったが、ポップ・ミュージック・シーン全体のムードは、決して悲観的ではなかったように思う。もちろん、混迷を極める世界の在り方をダイレクトに映し出した楽曲も数多く生まれたが(それも、ポップ・ミュージックの大事な使命の一つである)、その一方で、こうした逆境をポジティブな意志をもって乗り越えていく意志を示す楽曲も非常に多かった。

音楽は、衣食住に与することはできないけれど、それでも、確かに輝かしい存在意義がある。今回1位に選出した楽曲をはじめとした数々の新曲を聴いて、僕はその確信を深めた。

今回は、2021年にリリースされた洋楽の中から、特に、僕が心を震わせられた10曲を厳選して紹介したい。このリストが、あなたが、新しいアーティストや楽曲との出会いのきっかけとなったら嬉しい。


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【10位】
Noah Yorke/Trying Too Hard (Lullaby)

これまで匿名で音楽活動を行なってきた彼が、ついにその本名を明かした。「トム・ヨークの息子」という肩書きは、彼の活動に相当なプレッシャーを与えるはずだが、僕はこの曲を聴いて、2世アーティストとしての出自を受け入れ、自分自身の創作の道を歩むという深い覚悟を感じ取った。実質的なデビュー曲となるこの曲で、ノアは、物憂げなアコースティックギターの調べに乗せて、そのイノセントで深淵な歌声を披露している。シーンからの期待は高いが、それを越えていく大きなポテンシャルを感じる。今後の活動に注目していきたい。


【9位】
James Blake/Say What You Will

鮮烈なデビューから10年。今回の5作目のアルバムにおいて、またしても未知なる境地へと辿り着いたジェイムス・ブレイク。彼の創造性は、まだまだ枯れることはないばかりか、むしろ今作においても新しい開花の季節を迎えている。60年代風の温かなフィーリングに包まれるのは、ブレイク自身の剥き出しのエモーションであり、彼の作品史上最もリアルで、等身大の作品であると感じた。これまで幾度となくポップ・ミュージック・シーンに革新を起こしてきたブレイクは、まだ33歳だ。本当に恐ろしいし、キャリア第2章への期待が止まらない。


【8位】
Big Red Machine/Phoenix (feat. Fleet Foxes & Anais Mitchell)

今やフォーク・ミュージックは、制作環境が著しく制限されたコロナ禍において一つの共通フォーマットと化しており、そうした時代の流れと、2010年代から続くUSインディー・シーンの系譜が、美しい形で折り重なったのが今作である。ジャスティン・バーノン(ボン・イヴェール)とアーロン・デスナー(ザ・ナショナル)によるプロジェクトの新作ではあるが、昨年に同シーンへ大きく接近したテイラー・スウィフトをはじめ、2人のもとに集結した数多くのミュージシャンによる共同プロジェクトとしての側面が強い。まさに、USインディー・シーンの「連帯」を象徴する作品である。


【7位】
Maneskin/Zitti E Buoni

2021年、全世界的な「ロック復権」のムーブメントを最も象徴していたのは、間違いなくマネスキンだったと思う。70年代を思い起こさせるハードロックのギターリフや歌メロは、2010年代以降のポップ・ミュージックの潮流、文脈と直接的に接続しているとは考えにくく、その意味で、マネスキンはあまりにも異端な存在ではある。しかし彼らは、さも当たり前かのように、瞬く間にしてメインストリームで大成功を勝ち取った。2020年代に刻まれるべき痛快なロック・スター誕生の物語であり、僕はここから加速していく「ロック復権」のムーブメントにワクワクしている。


【6位】
Tyler, The Creator/Corso

2020年代のポップ・ミュージック界において、今もなお覇権を握り続けているジャンルはヒップホップであることは言うまでもない。そして、そうした追い風を受けて、ヒップホップの王道を闊歩しながら更なる革新を目指す最重要アーティストの一人が、タイラー・ザ・クリエイターであることにも異論はないだろう。前作『IGOR』は、メロディアス&エモーショナルな「歌」志向の作品であったが、今回の新作『Call Me If You Get Lost』からは、その反動か、ラップ・ミュージックの可能性を懸命に追求する姿が見てとれる。ヒップホップの世界基準を、またしても何段階も押し上げた凄まじい傑作だと思う。


【5位】
Kanye West/Jail

超巨大スタジアムで鳴り響くことを想定しているかのような、いや、実際に鳴っていると錯覚させるようなサウンドプロダクションに驚かされた。新作『Donda』のリスニングパーティーがスタジアムで行なわれたことが何よりも象徴的だが、カニエは、この新作を鳴らす上で破格のスケール感を要請していることは明らかで、そこに僕は、パンデミックの閉塞感を打破しようとする彼の意志を感じた。前作から引き続き、ゴスペルを基調としたサウンドデザインを追求しており、数えきれないほどのラッパーを迎えたことで完成した今作は、まさに唯一無二の傑作となった。これほどまでに過剰な作品、カニエ以外には作れないだろう。


【4位】
Adele/Easy On Me

アデル、全世界待望のカムバック。前作から6年のブランクが空いたが、やはり、彼女の存在感は不変であった。真のポップ・スターとは、自らのリアルな生き方を綴った「私の歌」を、そのまま「時代の歌」へと昇華させることのできる存在であり、そうしたヒットの構造を10年以上にわたって機能させ続けることができる歌姫は、広い音楽シーンを見渡しても稀だ。そして言うまでもなく、その構造の裏には、上質なポップスを作り上げるスキルとセンスが前提としてあり、今回の新作は、その意味でもやはり信頼に値する傑作であった。


【3位】
Little Simz/Introvert

まず、イントロの求心力が破格的である。まるで超大作映画のサウンドトラックのように壮大で、ドラマチックな物語の幕開けを想起させる。そして、一つの世界を丸ごと創造しようとする気概に圧倒されたと思った矢先、怒涛のリリックが次々と繰り出されていく。『Sometimes I Might Be Introvert』を通して描かれる世界は、幻想的で、同時に圧倒的にリアルであり、その鋭さは、2021年に生まれた数ある作品の中でも随一であったと思う。怒りや哀しみを抱えながらも、そのネガティブな力に打ち負けることなく、この現実という世界に向けて新しい物語を描いていく。その深い決意に心を打たれた。


【2位】
Billie Eilish/Happier Than Ever

2年ぶりの新作『Happier Than Ever』は、2021年の音楽シーンが求める時代性と、いくつもの時代を超えていく普遍性が、非常に高い次元で両立した大傑作であった。そして、サウンドは明らかに前作以上に開かれていて、時代のポップ・スターとしてステージに立ち続ける彼女の自信と覚悟を強く感じた。伝統と革新。そして、「私の歌」と「みんなの歌」。こうした2つのテーマを同時に掲げながら、極上のポップ・ミュージックとして結実させた兄妹の手腕に、改めて圧倒された。やはり、2019年の衝撃のデビューと破格のブレイクは、ここから加速する快進撃の序章に過ぎなかったのだ。


【1位】
Coldplay × BTS/My Universe

ColdplayとBTS。現行のポップ・ミュージック・シーンにおいて、想像し得る限り最も至高のコラボレーションが実現した。両グループがお互いに抱く愛とリスペクトに満ちた、極めて幸福な楽曲だと思う。最新作『Music of the Spheres』において、何度目かのポップ路線への回帰を果たしたコールドプレイが、2021年の現行覇者であるBTSとタッグを組んだことで生まれたエナジーは、はっきり言って尋常なものではない。

どのような逆境の中においても堂々と希望を歌うこと。そして、言語や世代をはじめとしたあらゆる差異を超えて結束を導くこと。それはまさに、ポップ・ミュージックの至上命題であり、この楽曲が、特大ヒットの熱狂と共に全世界で鳴りわたった事実に、僕は強く心を動かされた。2021年という時代のテーマソングとして、そして、極めて普遍的なポップ・アンセムとして、この楽曲は、これからも数多くの人々の人生を照らしていくのだと思う。


2021年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

【1位】Coldplay × BTS/My Universe
【2位】Billie Eilish/Happier Than Ever
【3位】Little Simz/Introvert
【4位】Adele/Easy On Me
【5位】Kanye West/Jail
【6位】Tyler, The Creator/Corso
【7位】Maneskin/Zitti E Buoni
【8位】Big Red Machine/Phoenix (feat. Fleet Foxes & Anais Mitchell)
【9位】James Blake/Say What You Will
【10位】Noah Yorke/Trying Too Hard (Lullaby)



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