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2019年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

結論から言ってしまおう。

2019年、いや、2010年代のポップ・カルチャー史における最大の事件が、ビリー・アイリッシュの登場、そして音楽シーンの頂点への君臨だ。

もちろん、それだけではない。この一年、世界の音楽シーンは絶えず変革を繰り返し続けてきた。決して大げさな言い方ではなく、1日ごと、いや数時間ごとに、ポップ・ミュージックの「リアル」はアップデートされている。今まさに、この瞬間だってそうだ。

2019年の間に、数え切れないほど多くの「時代」の歌が生まれたが、今回は、その中でも特に、僕が心を震わせられた10曲をランキング形式で紹介していきたい。


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【10位】
Selah/Kanye West

カニエの「ゴスペル宣言」、および、実際に届けられた新作『JESUS IS KING』の衝撃は、やはり、あまりにも大きなものだった。今作に通底するゴスペル・クワイヤーの響き、その原始的なパワーは、言葉を失うまでに壮絶的である。伝統的なゴスペルという音楽フォーマットでさえ、彼にとっては越境すべき対象なのかもしれない。そうでなければ、こんなにも新しいゴスペル・サウンドは生まれなかっただろう。このゴスペル路線を、カニエは本当に踏襲し続けるのだろうか。いずれにせよ、彼には僕たちリスナーの期待を大胆に裏切り続けて欲しい。


【9位】
UFOF/Big Thief

今年2枚のアルバムを立て続けにリリースし、瞬く間に音楽シーンにおける台風の目となった彼女たち。直情的なバンドアンサンブルを響かせた『Two Hands』も素晴らしかったが、僕は、この"UFOF"を推したい。背筋が凍るような冷徹なサウンドスケープ。その中に、温かな光を灯すメロディが、あまりにも美しい。


【8位】
Everyday Life/Coldplay

長きにわたり敢行されたワールドツアー。歓喜の季節の先に、彼らが新たに切り開いた旅路。そこに鳴る音は、言葉を失うほどに美しく、壮大で、そして原始的なヴァイブスに満ちていた。この星の起源にまで遡ってゆくようなスケール感と、静かに放たれてゆく祝祭感。あまりにも無垢だからこそ、この現代社会においてスリリングな響きを孕む、圧倒的音楽体験がここにある。


【7位】
Harmony Hall/Vampire Weekend

USインディー界の最後の希望、VWの新作は期待を裏切らなかった。混迷の時代、多様性の時代、変革の時代、あらゆるテーマが一つに収束してゆく2019年に、彼らは最も純音楽的な形で「調和」を表現してみせた。世界中のグルーヴやサウンドを織り交ぜ、そして多彩なゲストを迎えて制作された新作『Father of the Bride』は、彼らの「調和」への真摯な願いの深さを強く感じさせる。いやむしろ、清廉なオープンマインドとユニティの意志を示さなければ、彼らは再びこの混沌の世界に対して音楽を鳴らせなかったのかもしれない。表面上の響きは、至高のポップネスに満ち溢れているが、その表現姿勢は、2019年の今、何周も回って一際ロックだ。


【6位】
EARFQUAKE/Tyler, The Creator

世界の音楽シーンのメインストリームを制圧したラップ・ミュージックが、今、次の変容を迫られている。他ジャンルとのクロスオーバーや原点回帰など選択肢はいくつもあったのかもしれないが、タイラーが選んだのは、メロディアス&エモーショナルな「歌」志向の作品だった。恋愛という普遍的なテーマ選定も相まって、もはやラップ/ヒップホップのジャンルには収まりきらない「ポップ」な魅力が爆発している。


【5位】
Cellophane/FKA twigs

前作において、圧倒的なまでに高度な音楽性を称賛されたFKA twigs。全世界待望の次回作で、彼女はシンプルにして深淵な「うた」に辿り着いた。僕は、彼女のボーカリストとしての才能に惚れていたからこそ、そのことが何よりも嬉しい。深い深い霧の中から、やっと掴んだ一縷の望み。その切なき眩さに、心が震える。


【4位】
iMi/Bon Iver

幾重にも折り重なる透徹な美声と、大地と呼吸し合うようなピースフルで豊潤なアンサンブル。そして、そこに降り注ぐ「未来」の音色たち。3年ぶりとなった待望の新作『i,i』は、本当に素晴らしい作品であった。前作における過激で過剰なハイブリッド性は影を薄め、今作では、多層的な至高のハーモニーがより前面に強調されている。まさに、この多様性の時代にこそ、僕たちは彼の音楽を必要とするのだろう。1月の来日公演に期待したい。


【3位】
Last I Heard (...He Was Circling the Drain)/Thom Yorke

現代ロックの、いや、現代音楽の至宝・トム・ヨーク。彼が極限まで追求し続けてきた「美学」が、純粋なソロ作としては5年ぶりとなる『ANIMA』において、見事に結実していた。2020年、レディオヘッドとしてのネクストアクションを期待したいところだが、この奥深き作品(および、今作にまつわる映像作品)は、まだまだ時間をかけていくらでも堪能しがいがある。


【2位】
Hollywood's Bleeding/Post Malone

新時代の"rockstar"、ポスト・マローンは、やはり今年も強かった。もはや、ジャンルのカテゴライズ不能なバラエティに富んだ音楽性。その中に一貫する圧倒的なカリスマ性は本当に凄い。オジー・オズボーンとの共演さえも叶えた彼は、もはや無敵感すら放っている。僕が十代だったら、きっと、ロックバンドではなく真っ先に彼に惹かれていたかもしれない。


【1位】
bad guy/Billie Eilish

この曲が1位にならないはずがない。そう断言してしまえるほど、2019年はビリーの年であった。もはや、「ニルヴァーナの再来」という言葉でさえも、彼女の破竹の勢い、および、ポップ・ミュージックとしての圧倒的な正しさを説明することはできないだろう。ビリーの登場によって、ポップ・ミュージックの潮流、勢力地図、いや、その概念そのものが、不可逆的に変わってしまったのだ。こんな出来事、いったい何年ぶりだろうか。渋谷の街中で、"bad guy"がティーンエイジャーたちのアンセムとして鳴っている光景を見た時、僕はこの曲のポップの魔力に言葉を失くしてしまった。このビリー現象は、既に(洋楽離れが叫ばれて久しい)日本のカルチャーシーンをも飲み込んでしまっているのだ。僕には、ビリーを取り巻く一連のムーブメントが単なる一過性のものであるとはどうしても思えない。2020年以降のネクストアクションが、もはや怖い。


2019年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

【1位】bad guy/Billie Eilish
【2位】Hollywood's Bleeding/Post Malone
【3位】Last I Heard (...He Was Circling the Drain)/Thom Yorke
【4位】iMi/Bon Iver
【5位】Cellophane/FKA twigs
【6位】EARFQUAKE/Tyler, The Creator
【7位】Harmony Hall/Vampire Weekend
【8位】Everyday Life/Coldplay
【9位】UFOF/Big Thief
【10位】Selah/Kanye West



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