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2021年上半期、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

2020年、新型コロナウイルスの影響を受けて、多くの作品の公開が延期となった。一時的に、長きにわたる映画史において、痛切な「空白」期間が生まれてしまったが、その後、少しずつではあるが、新作の劇場公開が次々と再開されていった。

2021年に公開された作品の多くは、もともと昨年に封切られる予定だったものである。その公開を待ち続けた長い日々の中で、僕は、「映画」の存在意義について何度も立ち止まって考えていた。

だからこそ、ついに劇場で新作と出会えた時の感動は大きかったし、また、このコロナ禍において、新しい作品の製作が次々と進んでいることは、とても希望的であると思う。

今回は、2021年上半期、僕が特に強く心を震わせられた新作映画10本をランキング形式で紹介していきたい。

このリストが、あなたが新しい作品と出会うきっかけとなったら嬉しい。


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【10位】
ミナリ

今年のアカデミー賞において、作品賞を含む6部門でノミネートされた話題作。『ムーンライト』『レディ・バード』『ミッドサマー』をはじめ、次々と驚異的な傑作を世に送り出してきた「A24」が手掛けた今作は、やはり、強烈な求心力を秘めるただならない作品だった。この映画は、韓国人キャストが韓国人一家を演じる作品でありながら、まぎれもない「アメリカ映画」である。韓国から移住してきた一家の目線を通して、アメリカ社会の本質を射抜く。その批評性の高さに圧倒された。


【9位】
ファーザー

今年のアカデミー賞で、主演男優賞の大本命とされていた故・チャドウィック・ボーズマンを差し置き、今作の主演を務めたアンソニー・ホプキンスが同賞を受賞した。間違いなく、彼の長きにわたるキャリア史上、最高級の演技だったと思う。そして今作は、上質なヒューマン・ドラマであり、同時に「信頼できない語り手」の目線で展開されるニューロティック・スリラーでもある。その2つのジャンルを一気に高次元へと押し上げた脚本の力は、本当に凄い。


【8位】
騙し絵の牙

約9ヶ月の延期を経て、ついに公開された吉田大八監督の最新作。『桐島、部活やめるってよ』で大成功を収めた後、『美しい星』『羊の木』をはじめとする変化球的な作品を撮り続けてきた吉田監督が、今回は、一切の衒いなき超王道エンターテインメントに挑戦した。今作は騙し合いの物語ではあるが、同時に、「編集者」たちの揺るぎない信念が詰まった出版社映画でもある。劇中に出てくる「戦え、物語」という言葉に、強く心を動かされた。


【7位】
Arc アーク

『愚行録』『蜜蜂と遠雷』と、次々と傑作を生み出してきた石川慶監督の最新作は、やはり今回も期待を大きく超えていく素晴らしい作品だった。「永遠の命」を描いた今作は、生命倫理を巡る壮大な思考実験であり、同時に、そう遠くない未来へ向けた警鐘、そして願いでもある。そうした何層にもわたる数々のSFテーマが、静謐で端正なヒューマンドラマを通して紡がれる後半の展開には、思わず息を呑んだ。日本から、これほどまでに堂々たるSF映画が生まれたことが嬉しい。


【6位】
あのこは貴族

今、全世界的な潮流として、そして、新しい時代の到来を願う私たちの総意によって、一人ひとりの「生き方」を巡る価値観は、大きく変わり始めている。そうしたタイミングだからこそ、今作が描いた「分断と連帯」、そして「抑圧と解放」の物語は、広く受け入れられ、強く支持されたのだと思う。今作は、女性同士の連帯を謳った「シスターフッド」映画であるが、僕は、とても普遍的な人生賛歌として今作のメッセージを受け取めた。


【5位】
花束みたいな恋をした

日本テレビドラマ界が誇る稀代の脚本家・坂元裕二。『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』などと同じように、今回、彼がオリジナル脚本を書き下ろした今作も、やはり、観る者の人生観を強く揺さぶるような驚異的な作品だった。今作を観て、恋愛は素晴らしいと、心からそう思える人が一人でもいたら、もしくは今作を通して、この先にそう思える人が一人でも生まれたら、この映画には揺るぎない存在意義がある。そしてそれこそが、恋愛映画の使命なのだと思う。


【4位】
すばらしき世界

約30年前の原作小説の中に、今この時代において語り直すべき必然を見い出した西川美和監督の批評性に、まず圧倒された。残酷で不寛容な社会、マイノリティーの人々が抱く生きづらさは、悲しきことに、この令和時代においても極めて有効な映画的テーマであり続けている。その意味でこの物語は、まぎれもなく2020年代の痛切な寓話として機能するのだ。そして同時に、今作に込められた微かにして確かな希望は、いくつもの時代を超え得る普遍的なメッセージなのだと思う。


【3位】
ノマドランド

この映画が映し出すのは、路上生活を営む人々が抱く絶望だけではない。むしろ、そうした人々の誇り高き選択と生き様は、追い込まれた先の路上にも、輝かしい希望があることを伝えている。そう、今作が描く新しい形の「連帯」は、表裏一体の絶望と希望の象徴でもあるのだ。その意味で今作は、「アメリカ映画」、より具体的に言えば、「自由の国=アメリカのリアルを映し出す映画」の系譜の最新型であり、同時に、現時点における頂点に君臨する一本だと思う。


【2位】
ヤクザと家族 The Family

2019年に『新聞記者』を観て衝撃を受けてから、僕は藤井道人監督を絶対的に信頼していて、今回の『ヤクザと家族』も、本当に鮮烈で凄まじい作品だった。今作が描いた孤高な魂は、3つの時代を超えて、僕たち観客が生きる2020年代へと共鳴し続けていく。そしてこの映画は、僕たちが生きる不条理で不寛容な現実に懸命に抗い続ける。藤井監督の次回作は、Netflix版『新聞記者』。きっと、より深く、鋭く、この時代に斬り込んでくれるはず。全力で応援したい。


【1位】
るろうに剣心 最終章 The Final

本来は2020年に封切られる予定だった今作は、約1年の延期を経て公開に至るが、その公開日の翌日から緊急事態宣言が発令される。そうした逆境の中で、大友啓史監督は「嵐の中、覚悟の船出です」「エンタメの灯を無くすわけにはいかない」という力強い言葉を残してくれた。その鮮烈な意志と覚悟に、今作の公開を待ち続けていた僕は、強く心を震わせられた。また、スクリーンで作品に触れた時、温かく報われたような思いをした。このウィズ・コロナ時代において、「エンターテインメント」の灯を絶やすことなく守り続けている全ての人々に、最大限の敬意を表したい。そして、日本が世界に誇るアクション超大作を、僕は全力で支持する。



2021年上半期、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

【1位】るろうに剣心 最終章 The Final
【2位】ヤクザと家族 The Family
【3位】ノマドランド
【4位】すばらしき世界
【5位】花束みたいな恋をした
【6位】あのこは貴族
【7位】Arc アーク
【8位】騙し絵の牙
【9位】ファーザー
【10位】ミナリ




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