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2019年、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

2010年代が、終わる。

単なる10年ごとのタームの区切りでしかないが、一つの時代が終わるという確信、そして、新たなる時代が始まる予感を、僕はたしかに感じ取った。

MCUシリーズの驚異的な台頭。『ジョーカー』公開時における社会的な厳重警戒。そして、Netflix新時代の到来。全世界的な潮流として、映画の在り方、映画の価値、そして僕たち観客の映画への向き合い方が、加速度的に変容している。そして、長年にわたり権威として力を誇り続けてきたアカデミー賞でさえも、そのスタンスをシビアに問い直されている。

そうした動きは、この日本においても同じだ。そうでなければ、これから紹介するようなチャレンジングな作品は生まれようもなかっただろう。今まさに幕を閉じようとしている2010年代は、本当に凄まじい時代だった。

今回は、そんな「変革」のディケイドを象徴する2019年の作品の中でも、特に僕が心を震わせられた10本をランキング形式で紹介していきたい。




【10位】
新聞記者

ジャーナリズムの在り方を鋭く問うた今作は、あくまでも完全オリジナルストーリーとして製作されたものではある。しかし、誰の目から見ても明らかなように、ここで描かれる物語は、僕たちが生きる現実社会の問題と強く共振している。その意味で、この映画は単なるフィクションではなく、メディア/ジャーナリズムとしての役割を果たしているといえる。これほどまでに大胆でリスキーな企画が実現したこと自体が奇跡的ではあるが、本来「映画」は、いや、あらゆる「表現」は、このように自由であるべきものなのだ。決して同調圧力に屈することなく、今作を公開させた全ての製作者たちの想いが、いつか報われることを信じたい。


【9位】
アメリカン・アニマルズ

まさに、青春版『ファイト・クラブ』。まだ何者でもない自分に葛藤する全ての人たちにとって、今作は劇薬として作用するはずだ。そしてこの映画は、フィクション/ドキュメンタリー、作為/無作為、虚構/現実といったいくつもの壁を融解しながら、最後には圧倒的に普遍的なメッセージを刻み付ける。その意味で今作は、単なるティーンエイジャー向けの青春映画などでは決してないといえる。いやむしろ、今作を必要とするのは、青春の季節を終えたはずの僕たち大人のほうなのかもしれない。


【8位】
マリッジ・ストーリー

「離婚」の過程を丁寧に描いた先に、静かに「結婚」の本質が浮かび上がる展開に、ああそうか、だからこの作品は『マリッジ・ストーリー』と名付けられていたのかと気付き、強く胸を打たれてしまった。特に、夫婦と息子の3人で一緒に「門を閉める」シーンが本当に素晴らしい。「離婚」という共同作業は、時に辛辣で残酷なものなのかもしれないけれど、その過程さえも愛とユーモアをもって描き切ったノア・バームバック監督の手腕は見事。そして、この作品がNetflixから生まれた、というその事実こそが、映画産業の不可逆な変革を物語っている。


【7位】
海獣の子供

ライターとして白旗を振る形にはなるけれど、僕はこの映画が伝えようとする壮大なメッセージを形容する言葉を、今も、どうしても見つけることができずにいる。そして開き直るようではあるが、その「畏れ」の念を持ち続けることこそが、今作に向き合う姿勢として最も正しいものなのかもしれないと思う。何か分かったようなことを言うのは憚られるけれど、これだけは伝えたい。「言葉では表せない」からこそ、クリエイターたちは「アニメーション」という表現手法に想いを託し、その可能性を信じ、全身全霊でこの映画を創り上げたのだろう。今作に携わった全てのクリエイターたちに、僕は最大限の敬意を払う。


【6位】
ホットギミック ガールミーツボーイ

とても詩的な表現で恥ずかしくなってしまうけれど、映画に「恋する」感覚を抱いたのは久しぶりだった。もちろんそれは、演出、演技、脚本、それぞれの完成度に惚れた、という意味でもあるが、さらに言うと、それら全てが渾然一体となって生まれた映画そのものの人格に、僕は思わず心を奪われてしまった。山戸結希監督が描き出す「女の子」像は、そう思えるほどに圧倒的にリアルで、等身大で、それでいてファンタジックな魅力を放っている。今年、日本映画界では突出した輝きを放つ青春映画が次々と生まれたが、『ホットギミック』はその頂点に君臨し続けていたと僕は思う。


【5位】
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

「映画」の可能性、存在意義、使命、その全てが眩い光を放ち続ける鮮烈な159分。まさか、タランティーノ映画を観て号泣する日が来るとは思ってもいなかった。凄惨な事件の被害者として定義され、記憶され続けたシャロン・テート。しかし言うまでもなく、彼女には彼女のかけがえのない人生があった。そして、それこそが「映画」が真に語るべき物語であることを、タランティーノは懸命に伝える。どうしようもなく残酷でくだらない現実に対して中指を突き立てながら立ち向かうために、僕たちは、これからも、いつの時代も「映画」を必要とし続けるのだろう。


【4位】
ROMA/ローマ

2019年、本格的なNetflix時代の到来によって、「映画」は、その在り方を根本から問い直されることになった。劇場で公開される作品だけが「映画」なのか。2時間のパッケージに収められた作品だけが「映画」なのか。違うはずだ。既に次々と生まれているNetflixオリジナル作品たちは、そう訴える。今年、映画業界では様々な議論やムーブメントが巻き起こったが、もし、今作『ROMA/ローマ』を「映画」として認めることができないのであれば、「映画」の歴史は、そこで止まる。


【3位】
ジョーカー

2019年、それは映画『ジョーカー』が強く希求される時代であった。大方の予想を裏切る形で伸び続けた破格の興行記録が、その何よりの証明である。公開前、今作が秘める魔力が、アーサーへの「共感」というメカニズムによって広く伝播し、現実世界へ負の連鎖が波及することが社会的に警戒されていた。しかし、いくら今作がカリスマ的/カルト的な支持を集めようとも、「映画」は「映画」にすぎない。あらゆる「映画」が、そして「表現」が、その可能性を閉ざされずに輝き続ける未来のために。僕たち観客は、受け手としてのスタンスを問われ続けていく。


【2位】
天気の子

新海誠監督は、明確な意思をもって「賛否両論」を巻き起こすようなストーリーを描いたという。たしかに、劇中における帆高の選択は、社会の価値観と決定的に対立するものであり、共感できないと感じるどころか強い嫌悪感を抱いた観客も少なくなかっただろう。その意味で、帆高が選んだのは「正しさ」ではなかったのかもしれない。それでは、「正しくなさ」を讃えたこの物語は、間違っているのだろうか。僕にはそうは思えない。この映画は、帆高の選択を力強く高らかに祝福する。そして、一人ひとりの観客へ向けてこう叫ぶ。狂っているのは「君」じゃない、「世界」のほうだ。無責任かもしれない。甘えかもしれない。現実逃避かもしれない。それでも僕は、『天気の子』が放つこの強靭なメッセージに強く惹かれてしまった。肥大化した「正しさ」に押し潰されそうになる時代に、この「正しくなさ」を内包した物語が生まれ、140億円超えという驚異的なメガヒットを記録したことは、僕は偶然ではないと思う。


【1位】
アベンジャーズ/エンドゲーム

1本の作品を観ただけでは、決して味わうことのできない超絶怒涛のカタルシス。10年以上にわたって紡がれてきた物語が迎えた、あまりにも美しい結実。これから先、この歴史的感動を超える作品が生まれるのだろうか。圧倒的な2019年ナンバーワンの映画体験だった。今作、およびMCUシリーズは、「映画」という概念を否定してしまったのか。もしくは、拡張したのか。同シリーズの功罪については、既に様々な意見が飛び交っているが、『エンドゲーム』が映画興行の歴史を塗り替えてしまったことは、誰にも否定できない圧倒的な事実だ。2020年代、そしてNetflix新時代において、「映画」の在り方がどのように変わっていくのか。それは誰にも分かり得ないけれど、それでも、『エンドゲーム』は正しかったといつか証明される日は必ず来るはずだ。次のディケイドから幕を開けるMCUの「フェーズ4」、その展開に期待したい。


2019年、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

【1位】アベンジャーズ/エンドゲーム
【2位】天気の子
【3位】ジョーカー
【4位】ROMA/ローマ
【5位】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
【6位】ホットギミック ガールミーツボーイ
【7位】海獣の子供
【8位】マリッジ・ストーリー
【9位】アメリカン・アニマルズ
【10位】新聞記者



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