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随筆

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ラジオあらし自慢

ラジオあらし自慢

「次は、俺は俺ださんからのお葉書…」

1980年代、ラジオ番組「我が町バンザイ(青森放送)」で、一時期、よく聞いたペンネームであろう。

受験生でありながらこの頃は、授業中もせっせと「如何にカロリーメイトを貰うか」で、ネタに唸りながら内職をしていたものだ。

最初に読まれたのは、我が町、藤崎町の町自慢で、コーヒー味6本だった。
DJの浜ちゃんは、時間の関係か葉書が割愛された後、「最後もすごい、引

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紅葉と百合と彼女

紅葉と百合と彼女

いつもだった。

僕があの木陰の彼の寝床に「来てくれない?」と誘われるのを断るのは。

二か月前になるか。ある朝のちょうど明けきった後の頃、左のゴミ置き場を折れると、烏(からす)が二人背中を向けている。
車のとおりもこの時間だからか、すぐ車道の向かえの歩道に渡ることができた僕はふと、ゴミ袋をあさっているのか、と、だが、気には留めない横顔で正面の横断歩道の赤を見た。

「ア”ー」
「ア”ー!」

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上へ (5) - 紅白まんじゅう一気 -

上へ (5) - 紅白まんじゅう一気 -

卒業式当日、教室に戻ってきた僕たちに、桜庭先生は「じゃーこれを返すー」「今回もトップは、やっぱり石澤でした」と言って、国語の期末テスト採点済み答案用紙授与式をした。

三分の二くらいは、すぐゴミ箱に丸めて捨てに行き、「こらー!捨てるなー。ちゃんと持って帰れ!」と桜庭が叱り飛ばす。
慌てて、くしゃくしゃをのばし始める皆がいた。

ひとりで校舎を出て、焼却炉に向かった。ロッカー、机中につっこんであった

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上へ (4) - 順子 -

上へ (4) - 順子 -

最後の、内定者連絡会。翌日の高校の卒業式予行を外欠して出席する。僕はまだ、スーツを買っていない。その日は独身寮の鍵を渡してくれる日だった。
よみうりランド、若葉台、永山にある独身寮。一人ずつ名前が呼ばれて行く。

……。
最後の最後まで、僕の名前は呼ばれなかった。

担当に聞きにいくと、「あー、若葉台寮の200号室ね」と。
「ここは、特殊なつくりで中で部屋がつながっているんだよ」と。

隣りの20

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上へ (3) - 自分の時間を -

上へ (3) - 自分の時間を -

「岩大」に行くベゴちゃんはずぅっと僕たちとの「学校が休み」の時の麻雀を欠かさない。「弘大」のせいのちゃは「ベン(勉強)がおもしくてよ」と、面子がなかなかそろわない時、誘いづらい。

そんな中、今度は仙台支社で内定者連絡会があるという。東北地方の内定者で顔合わせをするのだそうだ。

「はつかり」「やまびこ」なんかは、中学の修学旅行から「特急、新幹線に乗る練習」を何度もさせられた馴染み深い列車で、今回

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上へ (2) - 男3人冬物語 -

上へ (2) - 男3人冬物語 -

今回の内定者連絡会は、池袋。サンシャイン60にある分室。そこに会場の会議室はある。新宿の本社に行くのに、不慣れでまだ中央線にも乗れなかったし、僕はいつものように山の手線で行くことにした。
上に面接に行って帰って来た同級生たちが口を揃えて言う「東京はひとが多い」…。

求人票にあった人事課に連絡した桜庭が「とても丁寧な受け答えで、石澤があんなふうになるとは、とても思えませんね(笑)」と、初めて向かっ

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上へ (1)  - 顰蹙の外欠(公欠)-

上へ (1) - 顰蹙の外欠(公欠)-

長渕剛の「決心」をくどたかからもらったウォークマンからイヤフォンで聴いていた。

弘前駅から「いまがらいぐんずな(今からいくのか?)」と閉じたデッキの車内に手を挙げて応えたよしたかのスカイブルーの学章を浮かべる。
寝台上段、仰向けで横になりながら着替えなかった浴衣を足で奥の車窓側に踏みやってから、膝を立ててカセットケースに次のタイトルを見返す。

何度目になるか。こうして「あけぼの」に乗り、内定者

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