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上へ (3) - 自分の時間を -

「岩大」に行くベゴちゃんはずぅっと僕たちとの「学校が休み」の時の麻雀を欠かさない。「弘大」のせいのちゃは「ベン(勉強)がおもしくてよ」と、面子がなかなかそろわない時、誘いづらい。

そんな中、今度は仙台支社で内定者連絡会があるという。東北地方の内定者で顔合わせをするのだそうだ。

「はつかり」「やまびこ」なんかは、中学の修学旅行から「特急、新幹線に乗る練習」を何度もさせられた馴染み深い列車で、今回は先立てる交通費を、以前から「必要なら貸すよ」と公言していた桜庭先生から借りて出席することにした。

外欠。長渕剛のアルバム、「逆流」「乾杯」「STAY DREAM」を何度も廻し聞きしながら、窓側の指定席にいる。

昼の時間。「やまびこ」の車内販売を何度も見送った。何となく気恥ずかしくて「声がかけづらい」のだ。僕は意を決して、一番下の段のサンドウィッチを指して、「これください」と、言った。

「500円になります」
「…高い、いいです」

きっと、売り子の女の人は「なに、この人?」と思ったことだろう、と、もっと恥ずかしい思いにかられることになってしまった。

仙台。

すみかけ、やっしー(専高)、のりぴー、なりぼう(八大)、ねこ、そして僕。あだ名は独身寮からであるが、仙台支社に出向してきた人事の千々松さんの進行で「現在の進捗状況」の報告会になった。

「じゃーまず手前から」

「…何もしてません」と、いきなり僕からの報告。

一同「……」

「今は、勉学に力を入れてるんですね」と、千々松さん。

すみかけ「PC98で、ゲームを作ってます」
やっしー「花子、一太郎のワープロで文章を作成したりしています」

ねこ「情報処理技術者試験一種の資格取得のための勉強をしています」
言っておきたいが、彼は高卒である。

僕は「何もしてません」と応えてしまったことで、社員としての評価がかなり下がってしまったと思った。

そんなことを気にしていた帰りの「やまびこ」で、岩手のすみかけとのりぴーが、洗面所に入っていった。
煙草を吸うのである。「やつら、すごいな」と、思った。

彼らと軽く会釈を交わして、素っ気なく別れ、一人「はつかり」に乗る。

…もうだいぶん遅くなってしまったが「夕刊」を配りに行く。
そろそろ新聞少年も5年が経つので「3万円」が奨励金として新聞社から出るそうで、助かる。

交通費は水増し請求できないまま、明くる日、職員室の桜庭先生に「これ」と、言葉少なに返す。
「おー。またいつでも貸すぞ。そのかわり返してくれよ(笑)」
それから、借りていない。

仲間内で、学生時代の打ち上げの雰囲気か、酒盛りをする機会が増えてきている。
にぎやかで、皆それぞれに楽しそうである。

その年の夏、大学のキャンパス生活で「自分の彼女情報」を交換したかったベゴちゃんは、嬉しさ楽しさもあってか執拗にせいのちゃに迫ったそうだ。が、「いないものはいない」と、応え続けたという彼は若干、羨ましそうにみえた。

そんな僕のほうは、アタックばかりで「彼女」なるものはできない。ギターで長渕剛ばかり弾いていたのは知るひとぞ知るところだろう。

僕はまだ、荷物をまとめていない。

仲間たちも、それは何となく聞きあわないでいられているようだ。

皆んな、心は次に向かっているのだ。そう、思う。

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