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《エピソード35・傷で得た安心》弱冠20歳で1000万超えの借金、鬱、自殺未遂、親との確執。からの逆転人生を実現させたリアル話。

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Mとの距離が遠すぎず、そして触れ合ったにも関わらず近すぎずにその間で心地よさを感じると同時に、腫れ物に触れるようなおどおどしさもあった関係。得ることもない、失うことのない関係はある意味ゴールのない不確定な不安が付きまとった。そんな中訪れた過去。S子との再会だった。

不器用

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おそらく、器用な人間はどんな場面でもうまくやり

過ごすのだろう。2つのことが同時に起きても、あたかも1つのことだけのような振る舞いをみせる。僕にはそんな能力はどこにもなくて、起こった2つのことをお手玉のようにうまく手の上で踊らせることなんかできない。

そうやって不器用な心はみごとにかき乱された。

目の前にある電源の見当たらない不安定な光と、スイッチの場所がわかる忘れかけていた薄暗い光とが目の前に現れて、どれが本当の光なのかが分からなくなってしまう。光はどれも魅力的に映る。

使い分ける勇気も、一方を塞ぎ一方を奪い切る勇気もなくて、都合のいいようにできるか考えても思い浮かばなかった。

そう。そう思うってことはS子の安心にどこか惹かれてしまった僕がいたんだ。あの頃とは違うS子がいて、どんな時間を過ごそうとも今は違うS子がいて。

もうそこは薄暗くもなかったし、惹かれると同時にそうやって変化したS子に嬉しさと喜びと安堵感があったんだ。

S子と再会してからは頻繁に連絡を取るようになっていた。目の前には相変わらずクールなMがいる。

不器用な僕の心はS子と繋がれば繋がるだけ振動を増していた。冗談じみて何度も言った「好きだよ。付き合って」に対するMの反応に「付き合うことはないな」と諦めていた気持ちがその振動の幅を増やしていたし、縮まりきらない距離感に言い訳するかのように気持ちもS子に戻っていった。

僕はあの時、不器用なままにMに長いメールを打った。

サヨナラの向こう側

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「どう、調子は」そんな冒頭で始まったかはわからないけど、面と向かってMに言えない女々しさはメールの文章にも現れていたと思う。

Mのことをどう思っているのか。今までの冗談じみた「付き合いたい」に本音も混じっていたこととか。S子のことも。

そうやって言わなくていいことを保身のために言うことが人を傷つけて不安にさせるのもわからずに、ただただ自分の好き勝手な気持ちをだらだらと並べた文章として表現すること。それがいかに相手にとって不快なものだったってことはその後にくるMのメールで容易に実感した。

クールなMらしい簡単なメールで返ってきたと思う。

「そういうのめんどくさいからもういいよ」

僕はまた誰かを傷をつけることで安心を得ようとしていたんだ。そしてどこかで「なんで?付き合って欲しい」っていうMの言葉を欲しがっていたんだと思う。

思いを詰め込んだ形の歪なボールを、クールに切りつけたMの気持ちは、僕に対しての警告のようなものに感じられたし、あの出来事でいかに男らしさがないのかもわかったし。Mの潔さに、うなだれた僕もいて。

そのけじめかどうかもわからないけど、僕はS子と付き合うことはしなかった。もう、同じことは繰り返したくなかったし、それでもどこかでMのことを思っていたから。

Mに送っただらだらとした文章の中に、僕の中にあった女性に対する女々しさみたいなものが吐き出されて、失意よりもなぜかスッキリとした気持ちになっていたような記憶がある。

夢を追いかけていたし、新しいことへチャレンジの中に女々しさなんか必要なくて。

あれからMとは距離が離れたけど、微妙な距離感にいるよりも逆に心地よさがあることに気づいたし、再会してから仲がよかったS子にも戻らなかったことで心が白紙になったようなかんかくだったし。

しばらく、“傷つける優しさ“を使わなくていい・・

そんな思いになっていた。

愛を握り、いつのまにかそれがなくなっていた掌で夢を掴みにいってた。

僕の恋はピリオドを迎えた。

続きはまた。




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