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三体

これを書いているのは2021年の5月下旬です。
いやー、完結しちゃいましたね。噂通り3巻が最もしびれる内容でした。

1巻では地球人は、ひいては読者は、"三体"と呼称される異星文明に翻弄されまくります。なぜかというと、それが完全に異なる世界だから。理解できないのも当たり前です。こうして世界観を根っこから揺さぶられるのがハードSFならではのスリルですね。そして様々な登場人物たちが大きな運命に翻弄されていくダイナミックな展開にただただ引き込まれます。

2巻『黒暗森林』はさらにすごい。三体星人に完全に王手を指されて死に体であるはずの人類が様々な打ち手を講じるんです。宇宙からの攻撃に対する反撃の案、地球を脱出する案…。テクノロジーが発展し、人間の意識ももちろん変わっていきます。あらゆる思考実験とその結果を描き出す、これまたSFの醍醐味です。
一方で人類は宇宙への進出を果たし、こっちはこっちでエライことになっていきます。そして明らかになる宇宙社会の最終法則、"黒暗森林"…。

そして3巻『死神永生』です。さらにいくつもの大きなイベントが繰り出されるのみならず、前二巻を前フリにして、全部のストーリーラインががもうひと展開する怒涛の作劇。
そしてすべてが明らかになります。"すべて" っていうのは、ほんとにすべてです。つまり宇宙の法則がね、明らかにね、なっちゃうの。明らかになるとどんな世界が開けると思う?

という圧倒的なスケールのクロニクルなんですね。圧倒的すぎて、いわゆるあらすじを紹介するのは不可能でした、ごめんなさい。なので一言「面白い!」とだけ言わせてください。

ただ、ひとつ無いものねだりをすると、
宇宙を、ひいては物理法則をも変えてしまうのが "文明" 、ひいては "生命" なわけですが、「"生命"って一体何?」という問いにはとうとう触れずに終わるんですよね、この作品。

その断片は作中で何度も示されるんです。
死こそが、灯台のあかりのように唯一不変に示されるものだ、とか、
生きる次元を変えてでも死ぬよりはましだ、とか、ね。
死を前にした人間の醜いあがきも何度も描かれますし、冬眠やその他のかたちをとった、生命の "スリープ状態" も当たり前のように存在しています。
これらの描写は当然以下の疑問をさそいます。

なぜ生命はこうも短く有限なのか?

始まりと終わりがあったり、改変や損失があるという点で、宇宙と生命とは相似形なわけですが、ということは生命の有限さも宿命なのか?それが、物理法則をHackするように生命をHackできない理由?「時間が存在しない世界」も提示されてますが、そこでは生命の時間も存在しないのか?

もしこれらの問いに対する答えが一部でもほのめかされていたら、さらに偉大な作品になっていたでしょうね。
しかし(言うまでもなく)そんなの無くてもいい。
疑問は、読後のデザートですから。

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