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セパタクロー熱中時代。vol.11

「なんで正面からの写真がないの?」

それは思いがけない指摘だった。普段のスポーツ撮影では400mmの望遠レンズを使用することがほとんどだ。競技中は安全面も考えて5メートルは離れている。これは10年かけて培った感覚で心地いい距離感でもあった。

もちろん、ドキュメンタリーだから、競技以外のシーンでは50mmの標準レンズを選び、なるべく近くに寄るように心がけてはいた。しかし、実際には3mより近づくことができていなかったのだ。

表情を大きく切り撮りたいときは望遠レンズを使ったけれど、正面に回り込むことには躊躇いがあった。気が付くといつも横顔ばかり狙っていた。この頃にはプライベートな話もできる間柄にはなっていたけれど、どうしても踏み込む勇気がなかったのだ。

そこである日、覚悟を決めて寺島に話すことにした。

このままではドキュメンタリーとして成立しないこと。
これまで撮ってきた写真も発表できずに終わる可能性が高いこと。
その理由は僕が勇気をもって踏み込めていないこと。
そもそも人見知りだから向き合って話すことも実は苦手なこと。
でもどうしてもセパタクローで写真展をしたいこと。
それが選手たちへの恩返しになると信じていること。
これからは厳しく辛い状況でも突っ込んでいきたいと思っていること。
撮られて嫌なときもあると思うけどそこは許してほしいこと。

だいたい、そんなことを話した。

「何でも撮ってください。実は俺も人見知りですよ」

寺島はそう言って笑ってくれた。この日を境に僕はより突っ込んだ撮影ができるようになった。

少しだけ光が見えた気がした。

(続く)

TPW_20160629_1140のコピー2

※ファインダーを通して、初めて目が合った瞬間。タイトル画とこの写真は同じ50mmで撮影。被写体との距離感は心の距離感だったのかも知れない。

SPOAL「セパタクロー熱中時代。」を一部加筆修正して転載>

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