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Biz人材のオンボーディング日記②

Tech系のスタートアップに転職して、「スプリント」という言葉がスポーツ以外の場面でも使われていることを知った。スポーツで用いられるスプリントは、ご存知の通り全力疾走を意味するが、エンジニアリングの世界では、プロダクト(ソフトウェア)の開発期間の区切りとして使われる用語で、僕が転職した10Xの場合はスプリントの単位を1週間に設定している。

プロダクト開発は数ヶ月〜年単位におよぶ実装(実際にコードを書いて機能を作ること)と改善の積み重ねであり、日々の地道な努力の結晶である。理想の姿から逆算して、週次スプリント、日次タスクまで落とし込み、本当にやるべきことにフォーカスして小さい実験を積み重ねていく。スプリントの中で小さく実験し、ダメならまたやり直す。時間をかけて実装したプロダクトが途中でダメだと気づけば、びっくりするほどあっさり壊してしまう。

10Xでは、今週「タベリー」以来となる新プロダクト「Stailer」をリリースした。Stailerとは、食品小売事業者が、システム開発をすることなくネットスーパーアプリを立ち上げられるサービスである。僕が入社するずっと前から開発に着手し、ついにリリース!という喜びも束の間、開発チームは息をつく間もなくStailerの改善と新たなプロダクトの開発を始めている。

「スプリント」という言葉は、開発期間の区切りとしての意味だけでなく、1週間後のあるべき姿に向かって開発チームが“全力疾走”している姿をよく表している。そんな言葉とともに仕事に向き合う姿勢を観察していると、真のプロフェッショナリズムを感じるし、「フォーカス」「小さく実験」という面で自身の働き方を見直すきっかけにもなった。

我々の会社では毎週水曜日、前週のスプリントを振り返り、今週のスプリントのゴールを全員で確認する。更に、毎朝10分ほど時間をとり、朝会という形で社員全員で集まってその日のタスクを共有している。

大抵の場合、エンジニアの方々の日次タスクは多くて一人3つくらい。その日に終わらせるタスクが明確で、次の日になるとまた別のタスクが出現する。一方、自分を含むビジネスサイドはタスクが5〜10個に膨れていることが多い。社外の関係者を巻き込む事業開発などでは、同時並行で複数のプロジェクトやコミュニケーションを進める必要があり、タスクが増えがちだ。

入社当初は、「開発側のメンバーはタスクが少ないから結構余裕ある感じなのかな」と勝手に決め付けていた。しかし、これは完全に間違っていた。高いパフォーマンスを出すためには、むしろフォーカスする必要があり、重いタスクは1日に何個もこなせるものではない。

事業開発においても、フォーカスする=やらないことを決めることは非常に重要だと感じている。限られたリソースの中で事業を大きくしていくために、「今重要なこと」よりも「将来より大きなインパクトを残せること」の優先度を上げて、日次タスクまで落とし込んで取り組む必要がある。

こうして生まれた日次タスクは、一見地味だったり「今重要なこと」でないように見えることもあるが、タスクの派手さは将来的な事業のインパクトには関係ない。

前職ではどちらかと言うと逆の働き方をしていた。見栄えの良い仕事、短期的に成果がわかりやすい仕事をサクサクこなしていたように思う。重要なことにフォーカスするというよりは、どちらかというと全方位的で、来た球をバシバシ打ち返しつつ、手数をかけて片っ端から仕事を片付けていくスタイルだった。

また、「小さく実験する」の数は前職時代、圧倒的に少なかった。文言やエクセル上での検討に多くの時間を費やし、色々な部署と社内調整しながら数ヶ月かけて「申立書」ならぬ稟議書を準備する。しかし、実験が足りないとファクトが十分に収集できず、やってみないとわからない不確実性はどうしても排除できない。

結果として、決済者(常務などの偉い人)が承認するのに十分な材料が揃っていないことが多々あった。稟議を通すことが目的化して、本来追求するべき事業の成功に対する検証が疎かになってしまっていた。

とはいえ、商社のビジネスは権益や国が絡んだり、関係する組織が多かったり、小さく実験ができない(地中に埋まっている鉱物の権益などは最たる例)案件も多く、スタートアップにはない難しさがあるのも事実である。

どちらの働き方が良いという話ではなく、リソースが限られているスタートアップにおいては、フォーカス外のことを捨てる勇気を持ち、小さく実験してファクトを集めることが重要だと思っている。今はそんな働き方がとても新鮮で、日々成長を感じるし、やっていてワクワクする。

働くフィールドや環境に合わせて、過去に囚われずその時々に応じた最善の判断をするためには、unleranがとても重要だと思っている。言い換えれば、自分の成功体験が判断軸の中心にあったり、偏ったモノの見方をしていると、新しい環境で高いパフォーマンスを出すのは難しい。常に初心に返ってlearnするためにこそ、適切なunlearnが必要なのだ。

unlearnとは、自分の中から消し去るということではなく、今いる環境でより活躍するために、過去の学びを一旦「押し入れにしまっておく」ことではないか。今後、商社での学びが活きるときがくるかもしれない。そうしたら、必要に応じて一度unlearnした過去の学びを押入れから引っ張り出してくれば良い。この時引っ張り出してくる過去のlearnは、一度unlearnしたことでアップデートされ、一段高いレベルに進化していることだろう。こうしてスキルや経験を積み上げていくことが、本質的なunlearnの価値なのではないかと考えている。

大手の小売事業者向けに事業開発をしていると、先方の社内意思決定が遅いと感じることがある。それは、例えば、複数の部局の同意や協力を同時並行で取りながらプロジェクトを進める必要があるなど、大企業ならではのフリクションポイントがあるからだ。そんな時は、前職での経験(社内調整の順序やスキル)が活きるに違いない。大企業特有の問題を理解しつつ、スタートアップで学んだ逆算性や「フォーカス」や「小さく実験」をミックスさせて、プロジェクトや事業を成功に導いていきたい。

上記のようなことを考えるきっかけとなったのは、10Xが掲げるValue(価値観)の一つである「10xから逆算する」の存在が大きい。社内では、判断の中心に常にこの理念が存在し、どうやったら世の中により大きなインパクトを与えられるかを考え続けている。僕自身のunlearnも、このValueに引っ張られており、良い感じに会社のカルチャーに染まってきたなぁと感じている。

これまでの働き方をunlearnして、新しい環境に適応する。それ以上に、社員13名のスタートアップにいるからこそ、自身がValueを体現し、会社のカルチャーを作っていく存在でありたい。これが今僕が目下取り組み中のチャレンジだ。


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