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映画『マイ・ダディ』主演ムロツヨシTCP独占インタビュー

映画『マイ・ダディ』が本日9月23日(木・祝)全国劇場公開。

TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016において準グランプリを獲得された金井純一氏が監督・脚本を務めた2021年期待作。今回は、本作で御堂一男(みどう かずお)を熱演された主演ムロツヨシさんをお招き!

意外にも本作で映画初主演となる俳優ムロツヨシさんの素顔に迫ります。

◆「こんなまっすぐなストーリーを背負わせてもらえるのか」と

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――脚本を読まれて、出演を即決されたそうですね。

ムロツヨシ:はい。飛行機の中で読んで号泣しました。物心ついたときから、僕は「作り物くらいは幸せなもの、いいものを観たい」とずっと思ってるんです。テレビをつけると、みんなで楽しめるバラエティなんかがありますが、ドラマや映画、舞台といった作り話も、いい作り話が観たい。今回、脚本を読んだときに、なんて素敵なお話しなんだろうと思いました。どこか王道なところもあって、決して斬新だったり奇抜なストーリーではないけれど、それをまっすぐに届けようとしている、描いている脚本に出会えた。プロデューサーに「このお話に興味ありますか?」と聞かれて、「私がこの父親になれるのであれば、ぜひならせていただきたい」と答えました。素晴らしい脚本でした。

――ムロさんが演じたことで、一層魅力的な主人公・一男になりました。お話しされた通り、王道な面もありますが、そうした物語の主人公にオファーされたことは?

ムロツヨシ様

ムロ:嬉しかったです。オファーをいただいたのは3年くらい前かな。そのときは41~42歳くらいでしたが、まだ父親役のオファーはほとんどないころでした。そこでこうしたお話をいただいた。それから、今回のプロデューサーの村上公一さんは、僕の映画デビュー作(『サマータイムマシン・ブルース』)にもいてくれた方で、こうして長い年月見ていてくれた方からお話をいただけたのも嬉しかったです。そして、今回は『マイ・ダディ』というタイトル通り、作品を背負うというか、物語を背負うというところまで、私ムロツヨシが来たのかという思いもありました。こんなまっすぐなストーリーを背負わせてもらえるのかと。私がこの物語のなかに生きていいと言っていただけるのであれば、すぐに飛び込みたいとお伝えしました。

◆俳優として、『マイ・ダディ』で初めて行ったアプローチ

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――主人公の一男は、教会の牧師でありながら、悟りをひらいているようでいて、ひらけていない人物です。

ムロ:そうなんですよ。多少はひらけていると思っていたんでしょうけど、実際ひらけてないんですよね(笑)。「愛は絶対にある」「この世界は愛に満ち溢れている」と、嘘なく思っていたと思うんです。それが自分の身の回りで一番信用していたものが揺らいだとき、自分の信じていた愛の存在、愛そのものを信じられなくなり始めた。そして、そんな自分を恨み始めるんです。愛を信じられなくした相手、人を恨むのではなく、ね。そこがすごく人間臭くて深い。今回僕は、これまでの役者としての成功体験や、失敗の経験といったことを1回全て捨てて、そこに頼らずに臨みました。初めてのことです

――そうなんですか!?

ムロ:今までの経験や小劇場からやってきたもの、自分なりのデータ、そうした過去のものは全て選択肢から外して、現場で生まれたものを最優先しました。こういう芝居をしようとか、こういうセリフの言い回しをしようとかっていうのは、正直、ある程度あるものなんです。どの映画でも「してない」って言ってますけどね。そのほうがカッコいいときもあるので(笑)。でも、今回は本当にしませんでした。

――そうしたアプローチは、経験や年齢的なものから来たのでしょうか。それともこの作品だったから?

ムロ:キャリアを積んで、40代に入ってということも影響はしているでしょうが、でもこの作品だからが大きいです。まず僕は父親になったことがない。でもこの作品に“父親のふり”はいらない。どこかの映画や周りにたくさんいる父になっている人から盗もうにも盗めないものがあって、自分のなかから出てくるものを信じるしかなかった。だから、役者としての経験の失敗や成功を捨てたんです。本当にこの物語のなかで、この父親として生きなければいけないと思いました。

◆脚本の推敲や、娘役のオーディションにも参加

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――今作では、作り手としても参加したと聞きました。

ムロ:初主演をやらせてもらう人間が、そこまで口を出していいのか分かりませんが、聞いていただいたものですから。「脚本をこう変えようと思います」といったことをね。なかでも、一度、脚本が大きく変わったことがありまして。そのときに「僕は元に戻したい。この大きな変化は演じ手としてもプラスにはならないと、僕は思います」とお伝えしました。この物語を生きたいと思った立場から、その変化は受け入れがたかったんですね。そしてその意見を聞いて戻してもらえたんです。そういうことを演じ手が言っていいものなのか、いまだに分かりませんが、まず撮影に入るまでの脚本作りに関しても意見を聞いていただき、その意見が通った。だからさらに責任が生まれました。あと、娘役のオーディションにも参加しました。

――娘のひかりを演じているのは、中田乃愛さんですね。

メイン

ムロ:僕の相手役でもありますが、僕は審査というよりは、この物語で一緒に生きていける人を選んでいるところがありました。その場には、技術というとあれですけど、しっかり人前に立つことへの覚悟を持った方も大勢いました。そのなかで、中田さんは一番不器用で、でもどうあったらこの物語に生きられるだろうかと必死に考えていました。もちろん僕の意見だけではありませんが、「僕は中田さんがいいと思います」と伝えさせていただきました。結果、中田さんになったわけですが。すごい責任ですよね。物語の主演としてだけでなく、共演者を選ぶだなんて、そんな偉そうになっちゃいけませんけどね、役者は。と思うんですけど、またさらに責任を担ったわけです。

◆金井純一監督とは同じ熱量を持って作品に挑めた

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――クランクイン前から深くかかわった作品になりました。金井純一監督はどんな方でしたか?

ムロ:物静かなようで、とても熱い方です。この作品をいいものにするという強い思いを、しっかり伝えてくれる方。だからしっかり頼ろうと思いました。この人のためにも、ひとりの役者として、今回は主演でしたが、「この場所の責任をしっかり全うしよう」と思わせてくれる人でした。当時はまだお酒も飲めるご時世だったので、お酒を飲みながらいろんな話をしましたよ。映画だけではなく、「モノづくりとは」といった話もしました。面白いものを作る、いいものを作るということが、どれだけ難しいかを身に染みて分かっているもの同士、この作品にかけてみようという同じ思いを、同じ熱量を持って作品に挑めたのは大きかったです。あ、あと、こんなこともありました。

――どんなことでしょう。

ムロ:プロデューサーが、監督もいらっしゃる場で「ちなみに一緒にやりたいスタッフさんはいますか? 特にカメラマンさんで」と聞かれたんです。僕はそんな選べるような立場にはないけれど、でもこの物語を描くにあたっては、女性目線が大事になるんじゃないかと思いました。そこで、一度深夜ドラマでご一緒していた伊藤麻樹さん(『ミッドナイトスワン』『Iターン』)を「どうでしょう」と言ったら、監督もぜひとなって、麻樹さんもOKで。そうした話ができたことも大きかったねと、監督とお話ししました。

◆オリジナルはゼロから1、10、100、もっとの可能性を秘めている

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――ムロさんは、ご自身で舞台を手掛けていますし、オムニバス映画の監督(『緊急事態宣言』『MIRRORLIAR FILMS』)もされたりと、クリエイターでもあります。TCPのように、オリジナル企画が映画になることの大切さをどう感じていますか?

ムロ:日本だけでなく、映画やドラマ、舞台も、原作があってのものが多いですよね。面白い原作があって、1回出来上がっているものを、新しく面白く見せるチャレンジももちろん面白いですし、そうしたことの大変さも分かっています。そのうえで言いますが、原作があるものは10できているものを、11、12、13~と増やしていくものだと思うんです。そのとき11マイナス10(原作部分)は「1」です。

でも、オリジナルは0から1にしていくこと。そして1マイナス0は1ではなく、モノづくりにおいては「100」だと思うんです。つまりそれくらい、0から1にするのは大変だということ。そしてそこがオリジナルの面白さ。いかにゼロをプラス1にしていくか。10、100、そしてもっとの可能性を秘めているのがオリジナルだと思います。

(文・望月ふみ / 撮影・いわなびとん)

本ポスター

映画『マイ・ダディ』
9月23日(木・祝)TOHOシネマズ日比谷他全国劇場公開
出演:ムロツヨシ 奈緒 毎熊克哉 中田乃愛
監督:金井純一
脚本:及川真実、金井純一
TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016 準グランプリ受賞作品
©2021「マイ・ダディ」製作委員会
公式サイト:https://mydaddy-movie.jp/