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香川大学とSaka-Bizに訊く「稼ぐ力」

誰も経験したことのない未曽有のパンデミックが、経済に多大な打撃を与えている。ニューノーマルは、地域創生が掲げる「稼ぐ力」を高める、新たな価値提供のチャンスと捉えるべきではないだろうか。
パンデミックを越えて、花開くためには? 地域創生のフロントランナーとして道を切り拓くお二人に、ビジネスのヒントを訊いた。

坂出ビジネスサポートセンター「Saka-Biz(サカビズ)」晄 直紀センター長
2月28日に開設した四国初のビズモデル。企業の売上アップに特化した無料のビジネス相談所で、結果が出るまで徹底的に支援を行う。
香川大学 城下悦夫副学長(産官学連携・特命担当)
産官学による連携協定締結の数々、イノベーションデザイン研究所での共同研究推進などに取り組む。
このインタビューは、かがわ経済レポート2021年6月25日号の特別対談より一部抜粋・再編集してご紹介しています。


2月28日の開所後、サカビズの反響は?

晄センター長(以下、晄) 予想以上の大きな反響があります。1日5回、1時間の相談枠が、平均的に2週間先まで埋まっている状況です。実に様々な業種の方が利用され、小規模事業者はもちろん、売上規模の大きな企業からの相談も多いです。

サカビズを開設した理由は、企業の付加価値向上に向けた新たなチャレンジを支援するため。坂出市はかつて大手企業が番の州に存在することで潤っていましたが、競争のグローバル化で盤石ではなくなってきました。同市に存在する企業のうち中小企業は99%を占め、地域の元気をつくる重要な役割を果たしています。

ビズモデルは「中小企業が元気になれば、地域の再生につながる」という信念で、中小企業や小模事業者、創業を希望される方の支援に取り組んでいます。お金をかけずに知恵をしぼり、売り上げアップにつながるご提案をします。1回の相談で終わりではなく、必要に応じて2回、3回と無料で何度でも、目標を達成するまでお付き合いします。私のビジネス経験と、全国のビズのノウハウを駆使して、販路開拓や新サービス開発、新規事業など、経営を総合的にサポートしています。

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坂出ビジネスサポートセンター 晄 直紀センター長
● 大阪府出身。大阪市立大学商学部を卒業後、P&Gに入社し13年間勤務。セールスおよびマーケティングを軸にキャリアを築き、日本ヒルズ・コルゲートで副社長を務めるなど、グローバル企業5社で活躍。その経験から、様々な業界における「成功のカギ」を見つけ、戦略を策定することを得意とする。地方創生・中小企業支援に強い関心をもち、サカビズセンター長に応募。2021年3月より現職。
サカビズ事例「ホテルのサブスク」
晄 ホテルニューセンチュリー坂出(坂出市久米町)からは、「大きく落ち込んだ稼働率を改善したい」とご相談を受けました。そこで、同ホテルの交通利便性に着目し、瀬戸大橋を一望できるシングルルームに、「30日間5万円で使い放題」というサブスクをご提案しました。6月からは、定額住み放題サービス「ADDress」と提携をスタート。新規顧客の開拓や稼働率の向上につながることを期待しています。

経営者は孤独

城下副学長(以下、城下) 経営者は孤独です。すべて自分で経営判断しなくてはなりませんから、サカビズのように身近な相談相手がいると有難いですね。

晄 そうですね。具体的な経営課題を誰かに真剣に相談した経験は初めてという方も多くいらっしゃいますし、相談中に涙ぐまれる方もいらっしゃいます。家族にもなかなか相談できない話題もありますので、信頼関係がないとできません。

城下 私もVC在籍中にはハンズオン(付加価値創造による経営支援)をしていましたが、当時は夜中にも悩み相談の電話が鳴るような状況。「資金決済できない」「人が辞めた」といったことが日常茶飯事でした。

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香川大学 城下悦夫副学長
●香川県出身。香川大学経済学部を卒業後、大和証券入社。外資系金融機関(英・仏・独)に移籍し、機関投資家向けホールセール業務やトレーディング業務などに従事。野村アセットマネジメントのシニアトレーダーを経て、朝日ライフアセットマネジメントにおいて日本初のSRI社会貢献ファンドの設定に関わり、資産運用部門の執行役員として伝統的4資産運用やオルタナティブ資産運用を担当。地方ビジネスに注力するため、京都の独立系VCのフューチャベンチャーキャピタルの常務取締役として、全国で地方活性化ファンドを組成しベンチャー企業を支援。愛媛銀行に入行し、ベンチャー投資、ハンズオン、地域創生関連業務に関わった後、コンサルタントとして独立。2018年香川大学 地域・産官学連携戦略室 特命教授就任。2019年10月より現職。
香川大学の目指すエコシステム
城下 そもそも香川には大規模な産業集積がありません。大学という中立な立場を利用して、さまざまな外部リソースを取り込みながらハブ機能を高め、アウトプットし、アウトカムにつなげる仕組みが必要なのです。
そして、本学にアクセスすれば、答えが見つかるということになれば、さらに人・情報などが集まってきます。産官学連携はその手段の一つだとも言えます。
将来を見据えた際に、持続可能な地方分散型社会の構築は不可欠でして、それには学外との連携のなかで、自立したエコシステム(人材、資金、仕組み)の構築が求められます。そのためには第二、第三の「希少糖」、すなわち将来への事業化シーズを見出し、産官学連携により研究から社会実装へと展開する道を切り開くことです。
瀬戸内海はよく地中海に例えられます。そして幅広い事業領域(MaaS、観光、食、農業、教育、芸術、環境、防災など)で高い可能性を秘めていますので、今後も様々な産官学連携が誕生することでしょう。

何のために会社経営を続けるのか

晄 新型コロナを受けて、国が企業の事業再構築を支援する補助金を準備しました。一部の企業の中には、この補助金獲得を主目的として条件に合うような事業プランを検討してしまっている方や、自社の強みがまったく生きない新分野に、確信を持たないまま飛び込もうとする方も。
そんな時は「本質から離れていませんか?」と素直に意見を申し上げ、相談者と目線を合わせて、伴走させていただきます。

城下 何のために会社経営を続けているのか、経営者が本末転倒してしまうパターンですね。

晄 新しく広がっている市場は、一見ブルーオーシャンに見えます。しかし、実際には既に多くの企業が参入している。そこに本当に行きますか? ということなのです。自分の足元にチャンスが宿っていることも多い。本業の深掘に立ち戻っていただきたいですね。

会社の生死を決めること

城下 最終的にはすべて資金繰りに関わってきます。銀行から融資を受けるための関係資料作成は、銀行目線(貸し手目線)で作成する必要があります。ちょっとした書き方ひとつで、融資を受けられるか否か分かれる。それによって会社の生死が決まってしまうケースもあります。サカビズは、そういったところの温度感をぜんぶ包み込んで、寄り添うわけですね。なかなかそこまで寄り添える人は少ないですよね。

晄 そのような存在になれたらいいなと願っています。サカビズでは、企業・地銀の担当者との三者相談を行うこともあります。お金に関するチェックは専門家にお任せしながら、こちらは売り上げを伸ばすポジティブなご提案をします。

城下 ご相談のなかには「このまま事業を続けていいのか?」というケースもありますよね。「廃業」という選択肢もあることをお伝えした事例もあったのではないですか。ビジネスサポートというのは、相談者の人生に関わる、重い仕事ですので。

晄 サカビズでは、ご本人が事業を継続したいという強いご意向があれば、できるだけサポートをしていきたいというスタンスです。また、現時点ではお子様たちに事業を引き継ぐ意志がない場合でも、売り上げが伸びるなど企業としての魅力が増せば、あらためて次世代への事業承継の意欲が湧くこともあります。しかし、どうしても事業承継をできない場合に、売り先を考えたり、業務提携をするなどのご相談にも応じています。

城下 会社の生死に直結はしませんが、社会的な要請事項が企業側にのしかかっていると思います。例えば、カーボンニュートラルです。すべての企業が必ず視野に入れなければならない課題でありながら、中小企業にとっては設備投資の資金負担が非常に大きいので、それをサポートするお金の仕組みが必要になってきます。化石燃料の代替手段として、再生可能エネルギーがあります。それを導入する際に事業計画を立てますが、計画通りにいけばよいのですが、インフラが故障したりすると発電が止まり、計画は水の泡。そのためのインフラ保険が充実していればよいのですが。またそんな時に行政からの支援の仕組みがあればもっと普及していくのではないかと思います。

パラダイムシフトをどう捉える?

城下 コロナ禍による急激なパラダイムシフトに伴い、潜在的な経営課題も一気に顕在化して、その対応に苦慮しています。また、厳しい経営を意義なくされている業態や、厳しい環境下ながらもフォローの風が吹いている業態とさまざまです。今は、守りと攻めの両方必要な難しい局面。過去の成功体験を参考に対応するのか、頭の中をまっさらにしてビジネスを立て直していくのか。いずれにせよ、そこには知恵、勇気、そして胆力が欠かせないですし、しっかりと情報収集を行うことが求められます。
「一挙に問題が起きてしまった。どう対処していけばいいのか」。そんな切羽詰まった相談も寄せられていることでしょう。

晄 経営者がパラダイムシフトを認識しながらも、はっきりとしたビジョンを描けていない場合、情報提供や混沌とした考えの整理は、サカビズができる限り支援いたします。しかしながら、最終意思決定はご自身の考えです。ご自分の足で走ってもらうことが何より大切です。

企業の「稼ぐ力」

城下 前提として「稼ぐ力を支えるものは何か?」というと、ビジネスモデルの持続可能性とその“社会性”です。「この事業は世の中に絶対大事だ!」となれば、社会が応援してくれます。その結果として売り上げが立ち、利益が計上できるようになります。社会から求められる企業のビジネスモデルこそが持続可能な「稼ぐ力」を有しています。
そもそも会社は“公的な器”です。そこには従業員とその家族、取引先とその家族、地域社会、顧客、株主などのステークホルダーが存在し、彼らに囲まれて事業を行っているからです。経営者の考えが、「会社は単なる利己的な利益追求の器」ですと、持続可能な経営は実現できません。利益のために環境破壊、パワハラ、虚偽の会計処理等々、何でもありの企業ですと、誰も支援しないですよね。
目先の自社利益のみに走る企業は信頼を失っていき、市場からも社会からも見放されていきます。

晄 稼ぐのは「一義的な目的」ではなく「結果」。自分の仕事によって、誰かのニーズを満たし、結果としてお金が入ってくる。その度合が強いほど、稼ぐ力になっていきます。顧客のニーズに愚直に対応していくことが、結果として持続的なビジネスモデルの構築につながるのかなと思います。
中小企業がニッチな部分で強みを出せば、わりと長い間稼ぎ続けられるもの。メインストリームや伸びていく市場では、競争に巻き込まれていきます。新しいビジネスチャンスを次々に見つけて動き回る俊敏性、嗅覚を持ち続けている人が稼ぐ力を身に着けていると言えます。

ビジネスのヒントは「非常識」

城下 ビジネス書にありますブルーオーシャンは現実には存在していないと思います。チャンスが目の前に来た!と思った時、手を出しても、もうそこにはありません。百億年前の星の光を見ているようなものですね。世界中のビジネスマンは常にビジネスチャンスを探していますから、スペースはないのです。
つまり、ビジネスチャンスやシーズ(種)は「非常識」という誰もが見向きもしない場所の中に潜んでいるのです。その「非常識」を「常識」に変えていくことができる人がビジネスの成功者となるのです。
例えば最近よく耳にするブロックチェーン(BC)ですが、BCは決して新しい技術ではなくて、これまでの既存技術の組み合わせです。技術面の新規性ではなく、新しい思想(発想)なのです。皆で監視すればデータ改ざんができないという考え方が斬新なわけで、大事な情報を皆で共有するという非常識がもたらしたイノベーションが、非常識を常識に変えてしまったのです。
ビジネスのベースは、逆説的な思考から成り立ちます。高級なイメージのあるフレンチを気軽に食べられる場所として誕生させた「俺のフレンチ」(東京都)も逆説思考。まだ誰もチャレンジしていない非常識な市場の穴を開けたら、広大なブルーオーシャンが広がっています。

晄 資本主義の世の中でこれだけ情報が透明化されたら、ブルーオーシャンは一瞬です。中小企業は、水がひいた後に残る「ため池」のような場所がチャンスのことも。大手企業にとってはメリットが薄く、手を出さないところに、ゆっくりと魚が釣り続けられる場所があったりもします。

城下 CSV(共有価値の創造)も大事ですね。企業がその本業を通じて社会的問題解決と経済的利益をともに追求し、かつ両者の間に相乗効果を生み出そうとする試みです。
これまでのCSR(企業の社会的責任)のような規範設定順守型をさらに進めた、実践型の取り組みです。一言でいえば社会課題を仕事として取り組むことです。

2者の連携で広がるオープンイノベーション

城下 サカビズに持ち込まれる事案のなかに、人の採用、知財周辺、分析・評価など、本学が対応できることがあれば、連携していきたいですね。本学の学生は約6000人。企業から評価が高く実績のある「PBL(課題解決型学習)型インターンシップ」を通して、学生のキャリアにつながればと思います。

晄 中小企業の方々が、ぱっと思いついたことに、実はイノベーションの種がたくさんあります。その種を一緒に育てる力が、香川大学にあるのでは。香川大学から専門的なサポートが得られれば、いくらかコストはかかるとしても、必要以上のお金をかけずに、倍速で売り上げを伸ばすことができるのではないかと思います。
サカビズはリアルな経営の世界に触れることができる場所。勉強になるものがたくさん転がっています。私の悩みを含め、相談事例を香川大学に投げかけて、ともに考えてみるのもいいですね。

城下 まさにオープンイノベーションですね。多くの人の知恵を借りることができると、課題解決に近づきます。経営課題を本学の教員や学生が研究テーマとしてピックアップできる可能性もありますし、対象企業をサカビズからつないでもらい、講義いただくといったことも。こうした連携が広がるといいですね。

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企業が求める人材育成
城下 本学では、デザイン思考、リスクマネジメント、インフォマティクスに取り組む「DRI教育」を全学的に取り入れて、様々な変化に対応できる人材教育を進めております。
おかげさまで上場企業の人事担当者から見た全国の大学イメージ調査2022年版では、中四国のうち本学は3位。新設された創造工学部の卒業生が、社会で活躍する日が楽しみです。
本学では地域グローバル人材育成とともに、社会人の学び直しとも言われる「リカレント教育」の機会を提供することにも力を入れています。地域での大学の役割が高まるなか、このリカレント教育は欠かせないものになっていくと思います。さらには令和4年から文理融合型大学院研究科の設立に向けての準備が進んでいます。

新たなビジネスの潮流は?

城下 新たなビジネス潮流の枠組みとして、最近「成長」から「持続可能」という変化が見られます。これは資本主義の限界を暗示しているのかもしれません。「あらゆるものを商品にする」という考えの資本主義が行き着く先は、資本の枯渇、終焉なのかもしれませんね。
「自然資本主義」という考えにおいては、「人間が地球のオーナーではなく、地球が人間のオーナー」という、当たり前ことを謳っていまして、それはSDGsにも通じる考え方だと思います。
最近、マルクス資本論が注目されています。「人新生の資本論」(著者:斎藤幸平)はポスト資本主義を考えていく点で面白い示唆を与えてくれます。
また、便利と無駄の心地よい境界線をどこに引くのか、『「足るを知る」イノベーション』について考えても、イノベーションの呪縛はどこまで続くのかなど、DXやAIを取り巻くビジネスについては目が離せないですね。さらに、医療領域ではゲノム編集。まちづくり領域ではMaaSあたりも注目領域でして、これは様々な参加者間で合意形成されたプラットフォーム上のビジネス展開です。そして人間が人間らしく暮らすためのサービスとはどんな姿なのか、などが気になるところですね。

晄 すべてが便利になっても、また新たな課題がでてきますよね。不便さがあるからこそ、ありがたみを感じるもの。例えば、あえてアナログな使い心地を楽しめる機能を搭載したカメラアプリが人気を集めたりします。

城下 「NFT」(非代替制トークン)という、アートや特殊なものに紐付いた暗号資産の活用も話題になってきていまして、こうした新たな価値観に支えられたビジネス領域が続々と誕生しています。

これからのビジョンを

晄 サカビズを面白い人が集まる場所にしていきたいですね。自発的なかたちでマッチングが起こり、新しいつながりを生んでいければ。中小企業は、将来の大企業になる可能性を秘めています。そうした方々に、門を叩き続けてもらうことがサカビズの役割だと考えています。
「今よりも良くしたい」「何か小さなことでもチャレンジしたい」という方は、どなたでもお気軽にサカビズへお越しください。

城下 本学の研究教成果や人的なパワーを地域に還元し、貢献してまいります。学外総合窓口として産官学連携統括本部をベースに、企業等との「組織対組織」のお付き合いを軸に、バリアフリーで高度なハブ機能を持った知の拠点として、地域から求められる大学を目指せればと思います。
本学のリソースで対応可能なことでしたら、地域の一市民たる大学として貢献できればと思います。

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