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幸運の代償

盛大に腹を壊して、ホッとした。
分不相応な幸運に巡り合った時、それを素直に喜べる人と、その後にどんな不運が待っているだろうと心配する人とがいる。私はどちらかといえば後者で、幸運にぶち当たるや否や不運を待ち焦がれてしまう残念なタチである。

昨日私は、懸賞で当てた和牛を友人と彼氏の三人で囲んだ。
午前中には推しに推しているきりえやさんの個展を見にジュンク堂池袋本店へ行き(2回目)、ブックカバーや展示を見て、雨が降る前に彼氏の家へ行った。

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本当は牛肉は昼ごはんとして食べるつもりだったが彼氏が解凍を忘れていたため、スーパーで買っていった鶏むね肉ともやしとエリンギを焼き肉のタレで炒めてビールを飲んだ。

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牛肉は夕飯に回すことにして、それまでの時間は彼氏の部屋でひたすらゲームをすることに。

友人にやってもらったのは、『The Stanley Parable』というゲーム。
決められたボタンを押す作業を仕事として生きてきた主人公、スタンリーがある日突然指示が来なくなったことに疑問を抱き部屋の外に出ると会社には誰もいなくなっていた……。という、RPGというべきかノベルゲームというべきか、よくわからないゲームだ。ナレーションとの掛け合いが痛快で、妙にハマる。
とはいえ私たちは、「一人一つ個室与えられてんの、めっちゃ羨ましい」
「ていうか上司の部屋すごい高待遇。風呂ついてんじゃん」
等々、あまりゲームの本筋とは関係ないところで盛り上がった。
途中から忍者を操作して若様を救うゲーム『SEKIRO』に切り替えて、お菓子を食べながらわいわい遊んだ。

なんだろうこの感じ。
久しく感じていなかった、暇を暇としてダラダラと消費する喜び。
どうしようもなく「休み感」を感じて、「ひぅひぅひぅ」とはしゃぎたくなる。

ちなみに、この吹けていない口笛は過去の自分に向けてのものである。
学生の頃こうやって友人の家で鯨飲しながらくだらないことを喋ったり漫画を読みふけっていた時、「今はこんなに幸福だけれど、きっと社会人になったらみんなバラバラになって、こんな楽しい時間を過ごすことも難しくなるんだろうな」と心に隙間風が入る瞬間があった。
が!社会人になった今、私は昔の自分に言ってやりたい。
あなたが思っている以上に、友情というものはゆるく続くものだと。

社会人になってからも、私は。
中学時代の友人とインドへ行った。
高校時代の友人から『忍たま乱太郎』を布教されまんまとハマり、今秋には三人で忍たまミュージカルを見に行く予定である(チケットが当たれば)。
そして大学時代の友人と彼氏と、推しの個展を見て牛肉を囲む。

昔自分が予想していたものより、ずっとずっと未来はあたたかかった。
昔自分が想像していたものより、はるかに幸せな生活を今の私は送っている。

ありがたいこったなとゲームに興じる友人と彼氏の後頭部にひそかに手を合わせているうちに、夕方になった。
ほどよく小腹も空いている。
満を持しての牛肉だ。 

\でーん!/

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ついに牛肉のお出ましだ。
脂がとにかくすごかった。
フライパンに並べると油を引いていないにもかかわらず、ジュージュー出てくる。
そして、みるみる焼ける。
最後まで焼けたかどうかが怪しくて、ついつい菜箸で肉を裂いてみたくなる鶏肉とは大違いだ。
「牛すげー」と何度も呟きながらすべて焼き終えて、ナスと一緒に焼肉のタレに絡める。
そしてみんなで食卓について、手を合わせた。

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焼いている時から思っていたけれど、脂がすごい。ごめんなさい、食べ慣れていなさすぎてさっきから感想がそれしか思い浮かばない。

たぶんウコン的な何かを飲んでおくべきだった。ちくしょう、しくじった。
柔らかいなぁとも、おいしいなぁとも思いつつも、結局早々にお腹いっぱいになってしまった。
少し前に同じメンバーでスイパラに行って、いまだに100分間食べ続けられたことに安堵したばかりだったのに!
悔しい。とても悔しい。
せっかく当てた牛肉なのに、胃もたれ胸焼けに負けてしまうなんて。

とはいえそれは私だけではなかったようで、その一時間後に彼氏が自律神経の異常を訴えはじめた。かわいそうに彼にはよくあることだが、「暑いんか寒いんかわからんくなってきた」と腹を抱えてベッドに寝転んでしまった。
彼に同情しつつ、私と友人は20時ごろ彼の家を出た。
歩きながら語り合うのは、脂の苦しみ。
まだ若者のつもりでいたのに、身体の衰えを感じている27歳(私)と26歳(友人)であります。

そして今朝方盛大に腹を壊し、一日胃もたれが抜けなかった私は豆腐とぬか漬けのきゅうりとゆで卵とビールで一日を過ごした。
思いがけない幸運に、身体がついていけていなかったのかもしれない。
ちゃんとした牛を食べる機会なんて、三年ぶりくらいだったからかもしれない。
しかもなぜか今、カナブンが一匹部屋の中に入り込んでブンブン飛び回っている。何度も天井を見上げたせいで目がしぱしぱと痛い。
さらにTwitterを見たら、私たちが個展に行った数時間後にきりえや高木亮さんがジュンク堂にいらしていたらしい。マジか。

けれど。そこそこに積み重なっていく不運に、なんとなく気が楽になっていく自分がいる。
カナブンが部屋におはしましても、高木さんに会えなくても、いいじゃないか。
牛肉にかき乱された日常が、また小さな不運とともに普段どおりの生活に戻っていく。
そのゆるやかに低空飛行に切り替わっていく感じは、妙に心地良い。
それに私には、幸運も不運も一緒になって楽しんでくれる友だちがいるのだ。
それこそを幸運と言わずして、なんといおうか。


なんていい感じにまとめてはみたものの、やっぱり幸運はほしい。忍たまミュージカル当たらないかなぁと欲深く願ってみる、夏の夜である。

お読みいただきありがとうございました😆