#沖縄妄想滞在記 「恋する小浜島(後編)」
■4日目■
翌朝、ゆりなさんはフェリーで東京へ帰って行った。
その後は仕事モード。リモートミーティングでは、あえて沖縄とわかるように、南国の光が差し込む民宿の窓を背にしてウケを狙った。「沖縄いいな~!」と言われ、場が盛り上がると嬉しかった。が、正直、小浜島だけは独り占めしたく、詳細は語らなかった。セコい俺は健在だ。
打合せしながら、俺はゆりなさんを見送った港でのことを思い出していた――。
「じゃぁ、またね!」と、少し焼けて更に美人に見えるゆりなさん。「ここだけの話だよ。昨日はね、みさきちゃんがど~しても君も一緒に星を見に行きたいって言ってたんだからね」
え、え、そうなの!?それって、もしかして。
「フラれたら、東京でご飯行こうね!」
そんなアツい言葉の置き土産を残して、ゆりなさんは都会へ戻って行った。
夜は、民宿で最後の晩餐。今夜の宿泊客は俺だけということで、みさきちゃんとお母さんと三人でテーブルを囲む。なのだが、俺はなんだか照れ臭くなってしまい、夕食のテーブルでは口数が減ってしまった。中学生かよ!
お母さんが、コロナの時の民宿の苦労や、島の暮らしのことを楽しそうに話しをしてくれたので、なんとか場はもった。しかし、俺の脳内CPUはフル稼働だ。
しっかりしろ俺、好きなら今夜、告白すべし!いやしかし、いつものあれは営業スマイルかもしれないし、万が一、フラれたら二度とこの島にも来れない。それはキツイ!であれば、この際、東京の暮らしを捨てて小浜島で働くという選択肢はどうだ?所詮は派遣の旅ガラス。いや~無理だ。俺なんてプログラミングが無ければただの人、いやカラス以下だ。
こうなったら、今夜は二人きりの星空デートに誘い、せめて一夜の関係を思い出にするのは。って、そんなリア充の勇者ならこんな苦労はしていなし、それこそ失敗のダメージはデカい。何より、俺のポリシーに反する。ポリシーなんかないけど。
と、とにかく時間だ。こうなったら時間を作るしかない!頭をフル回転させて、俺は一つの答えを導き出した。
「あ、お母さん、よかったら台所を借りられませんか?」
「え!いいけど?」
「お二人に、俺の故郷、秋田のデザート『豆腐カステラ』をご馳走したいんです」
「何それ!美味しそう!」ぱっと笑顔になるみさきちゃん。
独り暮らしが長い俺。料理は得意な方だ。中でもこの秋田名物「豆腐カステラ」は、数少ないキラーコンテンツのひとつ。島豆腐で作れるかは謎だが、まぁやってみよう。食は人を笑顔にする!はず。
そうして、3時間後。冷凍庫から取り出した豆腐カステラ、いや島豆腐カステラは予想以上に大成功。みさきちゃんも、お母さんも喜んでくれたうえに、なんと民宿のデザートメニューにも採用された。
結局、その日はデザートの効果もあって、三人で夜中まで盛り上がった。隣家から聞こえてくる三線の音色を聞きながら俺の故郷、東北の話や東京の仕事のことなど、コミュ障の俺らしからぬ軽快なトークを展開した。
コロナで人に合っていなかったから、飢えていたのかな。リモートでコミュニケーションは全てできると思っていたが、違ったのかもしれない。もちろん、みさきちゃんとの進展はないが。まぁ楽しいからいいや。
■5日目■
俺はフェリー乗り場にいた。
失敗した。とにかくワーケーションで5日は短かった。これに尽きる。観光といえるのは夜の星だけ。ゆえに写真もない。せめて港の風景と、みさきちゃんの姿を目に焼き付けよう。
「来てくれてありがとうございました!ホームページも、本っっ当に助かった」と、みさきちゃん。もうお別れか、つらい!
けれど、ここは笑顔だ!
「こちらこそ、ありがとう!明日また来る!」
という俺のギャグは滑りつつも。気分は昔オヤジと見た映画「男はつらいよ」の寅さんだ。彼もまた、女性に手を出すことはなかった。今ならその気持ちが痛いほどわかる。
別れ際「船で読んでね!」と、みさきちゃんから手紙をもらった。
俺の恋は、終わってもいないし、始まってもいないけど、とにかく仕事がどこでもできることが分かった。それと、せっかくのワーケーションであれば、訪れた地に何かを残すことを考えていきたい。そう、気づくことができたのも収穫だ。
そんなことを考えながら、フェリーで手紙を開いてみた。そこにはなんと、
「私、バツイチだけど、それでも愛してくれますか?」
ガーン!!
慌てて二枚目を見ると。
「嘘さぁ!」
セーフ!!いやなんだよ!それ!
最後に「お仕事も料理も、集中しているときの姿、カッコよかったよ!また来てね!」と書いてあった。
俺は海に向かって叫んだ「はい!」
END
以上、実体験を少し交えた妄想物語でした。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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