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わたしは泣きたいくらい【組織】に憧れてきたんだね

はじめての会社を人間関係のこじれで辞めて、はじめてのフリーターになった時、わたしは大型書店員のアルバイトを選んだ。

本が好きという理由もあったが、会社を辞める時に言われたのだ、当の辞める原因となった同僚から、こう。
「アルバイトするなら書店がいいんじゃないかな。あなたは本が好きだろうし、それだけでなくチームワークに助けられる仕事だから」

お前が言うな、と、そのときは正直思ったが、思えば同僚も、わたしが組織のなかで生きていく第一歩を潰してしまったことに、なんらかの後ろめたさがあったのだろう(といまは思う)。

が、そう勧められ書店員になったはいいが、結局は、個人プレーが求められる「注文カウンター」に配属になってしまったので、結局はそこでもチームワークとやらに救われることもなく、結局はその後も、再就職するたびに組織に馴染めず、最後は組織恐怖症になって、いまのギャラリー経営&ライターという、個人事業主に至るのだが。

だからわたしはずーっと組織が嫌いで、なるべく近づかないように、生きてきた。関わらないように生きてきた。向いてないんだと、チームワークなんて求めてないんだと、思い込んで生きてきた。一時何かのプロジェクトや仕事で属することはあっても、在宅仕事を貫いてるし、組織嫌いが高じた末に、自己主張の強さが際立ってしまったようで、それが災いして、また一緒に仕事しようと言ってくれる人もほぼいない。(とくに主にライター業において)

だがほんとうにわたしは組織が嫌いなのか。
チームワークなんて求めてなかったのか。
個人プレー万歳、フリーランス最高っていうのは本当に本心なのか。

最近とみにそれに疑問を感じるようになってる。
それどころか、わたしは泣きたいほどに組織に憧れているのではないか。

そう思うようになっている。

その契機は、なによりかにより、このコロナ禍においてである。

ギャラリーの仕事において、いろいろなことを1人で決断しなければいけないことが山のように生じた。
コロナ禍における展示の開催やその方法についての判断である。それも、感染がどうなっているのかもわからない、何ヶ月も、ときによっては一年後のことの決断を迫られる。そして、自分1人で決めていい問題ではないものばかりだ。なにしろ、展示は作家さんが居ないと決して成り立たない。作家さんに意見を聞き、話し合い、ときには行き違い…
そのうえギャラリー主として最終的に決断をする責任からは逃げられない。

その結果、わたしは心身ともに疲れて果ててしまったのだ。

…そして、その末、わたしはこう思うようになっていた。

あぁ、ひとりでなく、スタンドプレーでなく、問題をいっしょに考え、決断をともにし、時に責任を共に取ってくれるひとがいたら、どんなに楽だろう。
チームワークで仕事の責任を分かち合い、喜びにはハイタッチをし、苦しみにはいっしょに取り組む。そんな存在がいたら、どんなに救われるだろう。

そしてそれは、考えてみれば、あんなに嫌っていた組織で働いていれば、叶えられることだったのだ。人間関係の軋轢さえ我慢できれば、わたしにだって、それは叶えられたはずだったのだ。

そして、気づいてしまった。
わたしは、泣きたいほどに組織に憧れてる。
いや、憧れてきたんだ。ここ何十年も。

大昔に脱落してしまった、あの“会社”という存在に。
組織に合わない、んじやない。合わせられなかっただけなんだ。
わたしが、わたし自身が。

動揺した。もちろんいまの自分の仕事にプライドもやりがいも持っている。それを続けていこうという覚悟はできてるし、なにしろ、組織に戻るのはもはや遅過ぎる。気づいたことでどうなる話でもない。
それでも動揺した。涙が出た。

わたしは、ずっとずっと子どものように、仕事が上手くいったら「よくやったね」、上手くいかなったら怒ってくれる、そしてアドバイスをくれたり解決策をいっしょに考えてくれる人間関係を、心の底では求めて、飢えていて、恐ろしく孤独だったのだ。

つまり、わたしは常に側にいる人に存在を認められたかったのだ。
今更、都合良く、組織の扉を叩くことはできないというのに。
…でも認めて、認めて。わたしを。

そうひとしきり泣いて、どうすればいいか、どう生きるべきか考えてみれば、ギャラリーなら一つ一つの展示の作家さんたちと、ライター業なら、その度のクライアントさんと、一期一会でも信頼関係を築いて、進んでいくしかない。今までのように。後悔はせずに。
それしかわたしの孤独と飢えを埋め、癒し、前に進む糧にする方法はない。

ひとりだけど、ひとりじゃない。
ひとりじゃないけど、ひとり。

この矛盾を乗り越えていくのはわたしの人生の課題。
今回感じた狂おしいほどの組織への憧れを、そう受け止めて、わたしは、自分が選んだ道を進んでいくんだろう。…大丈夫、何事も「ひとり」で成し遂げられるほど、物事は甘くも辛くも、出来ていない。そう心して。



いろいろがんばって日々の濁流の中生きてます。その流れの只中で、ときに手を伸ばし摑まり、一息つける川辺の石にあなたがなってくれたら、これ以上嬉しいことはございません。