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虹の根もとを見た日

今月初めて自分で調理し、食べたナマズ。


その美味しさに魅了されて、「自分でも釣ってみたい!」と新しくルアーを買ってみた。今私が住んでいる地域でこのルアーを使う場合はナマズ系の魚を釣るのに使用する。この日はとにかくナマズのルアー釣りに専念することにした。

水面で引っ張ると、尾鰭部分がくるくると回転する。
まるでお風呂で遊ぶおもちゃみたいでかわいい。

踏んだり蹴ったり

とても爽やかな朝。
今日は釣り日和だねーと言いながらウキウキで湖に到着。
いつもの通りコーヒーを入れて一服。見渡すと、この広い湖に私たち以外他の釣り人が全くいない。貸切状態だ。
これは歩き回って釣りをするのにも最適と、私は新しく購入したルアーをつけた釣竿を持って湖の淵のあちこちを歩き回って釣りを始めた。

微風がふき、晴れたり、曇ったり、空の動きがある日。これは雨は降るだろうなと予測できる。

根がかりをしないように、でも湖の淵側を沿うようにルアーを動かす。新しく買ったこのルアーは、まるでお風呂で遊ぶアヒルなどのおもちゃのように水飛沫をあげて、フィヨフィヨフィヨ…と音を立てながら、ナマズを誘き出そうとする。その動きが私には面白く、夢中で投げてはルアーを引き戻す動作を繰り返した。

と、ルアーをとある場所に投げた時、「コツっ!」変な引っかかりを感じた。まるでルアーがどこかにしっかりと固定され、向きを変えようともちっとも引っ張れないのだ。
湖の水面スレスレに沈んでいた古木に突き刺さっていた。

夫にSOSをしてみたものの、淵から約5メートルくらい先の古木は水の下だったので、すぐに諦めて釣り糸を切ることにしようと私は提案した。

実は3ヶ月ほど前、チェンマイで高価なルアーを使って釣りをしていたおじいさんが、根がかりをしてしまったルアーを水中に取りに行って溺れて亡くなってしまったというニュースがあったばかりで、私も夫も命には代えられないよねと話していたのだ。どんなに泳ぎが得意だったとしても、チェンマイの自然の場所では水中に蔦のような植物や古木があるので、それに足を取られてしまったら危ないのだ。それに、私は高価なルアーは今の所必要ない(技術面でも知識面でもまだ追いついていないため)ので買わないのだ。


ところが夫は、このぐらいの距離なら太陽の陽が出て水面下の地形が見えるようになったら、浅い場所を歩いてルアーを外しに行くというのだ。

「危ないからやめようよ。これは諦めてまた新しいルアーを買えばいい」

と私は言ったが、鍵と財布を私に渡し、ズボンを膝まで捲り上げて夫は水の中を歩き始めた。私は本当に怖かった。その先が見えている川や海の浅瀬とは違うのだ。私は湖や池の水中にはなぜか恐怖を感じるのだ。

そして最初の3歩くらいで、ズブズブと腰まで水に浸かってしまった。

「本当にやめよう!!危ないから戻ってきて!」

というのも聞かず、夫はそのまま進んでいく。

ルアーの引っ掛かった古木に到着した時にはしっかりと腰上まで浸かっている。突き刺さっていたルアーを外して、私に「ルアー回収して!」と指示を出したその瞬間、夫はバランスを崩して深みにハマり、顎まで水に浸かってしまった。無論、戻ってきた夫はずぶ濡れ。

「こんなことは釣りをしていればよくあること!ここの湖は、街のと違って水が汚れていないから大丈夫だよ〜。ルアー大切にしよう。」

と後悔しまくっている私に笑顔で言ってくれる。着ているもの全てずぶ濡れでも、そこはトロピカルタイランド。そのまま着衣した状態で1時間もすれば、すっかり乾いてしまった。

ちょっと消沈した私は、落ち着こうと再びコーヒーを飲む。


そこに、牛飼いのおじさんに声をかけられた。しかもかなり、遠くからだ。
ここまで広々とした湖だと、数百メートル先で話している声も普通に聞こえてくるので不思議だ。

「お〜〜〜〜い!そっちに牛たちが行きそうになったら、止めて違う方向に行くように促してくれる〜〜〜?」

と。夫はそれに対して「了解〜〜〜〜〜〜!」と手を振りながら答える。

そして、牛飼いのおじさんが声をかけてきた通り、牛たちが私たちの方向に向かってきた。この日の牛たちは、なんだかいつもと違うルートで行動しているなぁと私ですら気がついた。牛たちは、夫が止めようとするのだが、結局私たちのところに来たがって、牛飼いのおじさんも
「あぁぁぁ、いいや、いいや。好きなように行かせてやって。でも、向こう側の柵の扉を閉めて、あっちには行かないようにしてもらってもいい〜〜?」と、なぜか私たちに牛の誘導を手伝わせるおじさん。今日はなぜ牛たちと一緒に歩かないのか、ちょっと疑問に思った。

牛たちを刺激させないよう、
彼らが通り過ぎるのをゆっくりと眺めた
子牛は私にビクビクとして、さっと走り去った。
ボス的存在の牡牛は、かなり大きくて圧巻。
私たちのHONDA125ccバイクの幅1.2倍、高さ2倍の大きさだった。

牛たちが、のんびりと私たちの周りで草を食べ、満足をして別の場所へ移動した後、私は再び釣竿を持って湖の周りを移動しながら釣りを始めた。

ナマズは一向に釣れないけれど、「あぁ、なんて綺麗な景色だろう」と空とその空が映る遠くの水面をうっとりと眺めながら歩いていると、、


ぬちゃ...!ズルっ!!!!


ハッ!!!!!!!!!
やってしまった。
先ほど通りすがって行った牛の落とし物を踏んでしまったのだ。

あぁぁぁぁぁぁ…と情けない声が出てしまう。涙も出そうだ。

知っている方はよくわかると思うが、牛の糞はかなり大きいのだ。その直径は約40cmほど。普通に歩いていたら見過ごすことのできない大きさ、高さ、臭さなのに、私ったらどうした!?

再び夫にSOSをしながら近づいていくと、
「く…臭いから、、、そっちで靴を脱いで。洗ってあげるから!」

と言ってくれるけれど、まずは自分がしでかしたことだし、夫のサンダルを借りて大切なOOFOSのシューズを自分で洗い始める。どうやら靴下にも少し付着したようで、私は靴下も脱ぎ、結局夫が湖の水で全て綺麗に洗ってくれた。今日は本当に迷惑ばかりかけてしまってすまない、夫よ。

そうしているうちに、雨がパラパラと降り出した。

虹が目の前に伸びる

湖の反対側の森の上に大きな雨雲と、その下に大雨が降っているのが見える。雨が森の上に降り注いでいる音がズゴイのだ。確実にこっちに流れてくる。

「多分、あと5分くらいだ!大切なものはバイクのシート下に入れて!」

大急ぎで準備をする。

リュックサックに一度広げた荷物を大まかに戻し、小さな屋根のついている小屋の中央に集め、持参したレインコートを被せる。自分達は多少濡れても大丈夫だ。

さっきまで晴天だった私たちのいた景色は、あっという間にほぼ白黒になった。

太陽は見えるが、滝のような大雨で不思議な白黒世界になる

そして反対側の湖を見ていると、
目の錯覚か??と最初は不思議に思ったが、

虹の直線が目の前の水面に現れた。

雨の中、湖の淵から伸びる虹の線

夫にそれを伝えて、どんどん景色が変わっていくのを興奮して見つめていた。

雨は降っているが、太陽の光が差してきた
だんだん上に伸びていく
アーチ状になった!雨が少し小降りになり、太陽光が戻ってきた。
二重の虹になった!

私のスマホで撮った写真ではとても薄くて分かりづらいかもしれないが、肉眼ではものすごくはっきりとした虹で、左側は確実に自分の目の前、ほぼ足元の水面から伸びていた。虹の根もとだった!

虹の根もとにはドラゴン

科学的根拠を知らなかった昔、タイでは「水面から始まる虹の根もとにはドラゴンがいる」と言い伝えられてきたそうだ。今でも高齢の方はそう信じているらしい。”水面から始まる”というところ、昔から何回かそういう景色を見てきた人が多かったのだろう。
ここ数年は田んぼがどんどん売りに出され、建物が立ち並ぶようになってきたが、それでもチェンマイは昔から水が豊富な山間地。湖、川、田んぼが美しい景色の地域だ。そして毎年雨季には虹がよく現れる。
そのドラゴンの存在は幸運なのだろうか。
世界各地でも虹の根もとには財宝がある、その財宝をドラゴンが守る、虹が水を飲むカップがある、夢が叶う、幸せになるなどなどいろいろと似たように伝えられているようだ。

私たちは水面から始まる虹を初めてみた。しかもこの日は湖には私たち二人だけで、なんだか随分と、果てしないラッキーな瞬間をいただけた気持ちになった。多分一生に一度くらいのチャンスだったかもねとお互いに話した。

私たちの夢が叶うのか。
これからもっと幸せになるのか。
大金持ちになるのか。

とりあえず、湖からの帰り道いくつも信号を通るのだが、大きな交差点でも小さな道路の信号でも、、、

全て青信号が目の前で変わり、一度も信号で止まらずに家に帰っきた。

その後、一度熱いシャワーを浴びて、夕食のために再び外出。姪っ子の誕生日のお祝いの品を買いに行ったり、それを届けに行ったりして結構街中をバイクで走り回ったけれども、この日は虹を見た後は本当に一度も信号が赤で止まったりしなかった。

今までこんなことも一度もなかったので驚きだったが、青信号に”虹の根元のラッキー”を使ってしまうのははちょっとどうかなと思ってしまった私だが、もしかしたら「このまま止まらずに進め!」というようなメッセージなのかなとも思えた。最近、仕事でちょっと悩んでいたことがあったからだ。

昔、小学生低学年の時に、家の近くまで学校帰りの私を迎えにきた祖母が
空を指差した瞬間、その指さきに鳥の糞が落ちたことがある。
その時祖母は、
「こんな素敵な”ウン”をもらっちゃったよ!ヒャッヒャッヒャ!」
と笑いながら私に言った。私もその命中率と祖母の言葉に大笑いをした。
それ以降ずっと鳥の糞に見舞われた時にはいつもその祖母のことを思い出し”運”をもらったさ!ラッキー!と思ってきた。

この日は、水面下の古木にルアーが突き刺さり、それを夫がずぶ濡れになりながら救出してくれ、牛の巨大なフンにはまり、ダブルレインボーとその根もとをみたという、なんとも壮大な運に恵まれた日だった。

やはり釣りとは、魚を釣ることだけじゃない楽しみがたくさんだ。

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