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自分に課す制限の枠をとってやりたいことをやろう

20年ぶりに指揮棒ケースを開いてみた。中には地元東村山市の何かのイベントでもらったんだろう、東村山営業所、と刻印のある鉛筆が、20年前に使ってポンと箱に入れたままの状態で出てきた。今はもうない、私が育った家である、東村山の古びた小さな家がふと頭に浮かんだ。そしてその家の黒電話の横のこれまたヨレヨレになっていた鉛筆立てにたくさん無造作に突っ込まれている鉛筆たちをふと思い出した。この鉛筆は、多分そこからなんとなしに10代の私に引き抜かれ、この指揮棒ケースに突っ込まれ、そのまま日の光を浴びないまま、私の引っ越す先へ引きまわされた生活を20年もしてきたのだと思う。よくついてきてくれた。

指揮棒も、昔のままだ。カビてることもなく、劣化することもなく。なんだか、20年前のタイムマシンを開いたみたいで心がキュンとなる。
指揮棒は持ち手のコルクの形がいろいろあって、指揮者は自分の手にあったものを手に入れるのにこだわりがあったりする。かくいう私も都内の大型楽器屋さんで沢山の指揮棒の中からあーでもないこうでもないと、いくつも触らせてもらってこれを選んだ記憶がある。(実はコルクの形がどんなだって、それどころか、鉛筆とか何かの木の棒でも指揮はできる。)そして、指揮中に飛ばしたりするときのために予備まで買ってたので二つ入っている。一つは使い込んで良い色になっている。もう一つは全く汚れておらず、ほぼ新品のままだ。(飛ばしちゃって予備を使わなきゃいけなかったことは一度もないからね。)

指揮棒ケースの中に、使ってない割り箸も3本入っていた。これはお弁当のときに使った、のではなくて、何か手首の動きでも矯正するのに使ったんじゃなかったっけ?どうやって使ったか全く思い出せない。元同級生や先輩で知っている人がいたらぜひメッセージくれたし。

この20年間、本当にたくさんの国、街に移り住んだのだか、引っ越しのたびにバサーっと身の回りのものを結構断捨離をしてきた。その中でこの指揮棒は良くぞ捨てられずに生き残ったものだ。

演出家になるべく進路を方向転換して20年。私がかつて指揮をかなり真剣に音大で勉強していたことを知る人は今住むミュンヘンにはほとんどいない。
なんで今頃、埃の被った指揮棒ケースをひっぱりだしてきたのか、というと、この指揮棒で、ちょっと真剣で楽しい事をしてみたくなったのだ。人に迷惑をかけない『遊び』ならいいだろう。20年ぶりに指揮者用の総譜を読むのは楽しいものだ。そういえば昔も、楽譜を読むたびに作曲家の偉大さにワクワクしたっけか。

先日、卒業後全くと言っていいほど個人的な連絡をとっていなかった高校時代の友達が、突然FaceBookのメッセンジャーで「久しぶりに母校に帰って思い出したんだけど、高校の時の音楽祭の時の指揮、すごかったよねえ」とメッセージをくれた。音楽祭では1クラスたった5分程度の演奏時間。そんな短い一瞬のような時間でも、人生でもっとも輝かしい時間の一つになり得る。あの時に共に音楽を作った楽しみと舞台での感動をまだ覚えていてくれたなんて、嬉しいじゃあないか!そう、私は小さい頃からずっと指揮をしてきた。指揮が好きで、音楽が好きで、それで音楽をもっと勉強したいと思ったのだ。その高校の音楽祭での指揮の経験は、私の人生の進路を決めるとても大きなきっかけになった。

自分はこれをしちゃいけない、と決めつけたり自分の行動を枠にはめるのを少しづつやめてみよう。人生短いのだから、やりたいことはやっておかなくちゃ、と思う今日この頃。時代は変わってきている。人生への気づきが多くなっているのを肌で感じる今日この頃。

海外では最近の30代のアジア人女性の指揮者の活躍が最近目覚ましい。私が学生だった頃はよく指揮科の伴奏の先生などに「女性で体が細いと、オケから、深い分厚い音が出ない」「指揮者は見た目だ、女性の細い肘が棒を振るたびにふらふら見えると気に触る」などとよく言われた。体の小さい私はどっしりした体格の指揮の同級生や先輩たちをみて、「ああ、やはり私には無理か」と思ったものだった。しかし今の30代は、そんなことお構いなしだ。堂々とオケの前に立つ姿を見ると、そんな討論したことなど忘れてしまう。違う時代に生まれるとこんなに常識が変わるのかと目を見張る。

あなたも、本当はしたいのに、何かの理由をつけて「できない」「しちゃいけない」と思っていることがあったら、それをそーっと手放してあげてほしい。その奥に、自分が本当にやりたいこと、魂の声が隠れているから。


釣アンナ (ドイツ在住 オペラ演出家)
オンラインで演技のレッスンとドイツ歌曲のクラスをしています

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