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透明な夜の香り 〜千早茜〜

なんだろう…面白くて共感できる作品はたくさんあるのに、そのどれとも違う読後感。他の作品も心動かされ、余韻がすごい作品もあったが、その類とは別の興奮と余韻がある。

あらすじ

香りは、永遠に記憶される。きみの命が終わるまで。

元・書店員の一香がはじめた新しいアルバイトは、古い洋館の家事手伝い。
その洋館では、調香師の小川朔が、オーダーメイドで客の望む「香り」を作る仕事をしていた。人並み外れた嗅覚を持つ朔のもとには、誰にも言えない秘密を抱えた女性や、失踪した娘の手がかりを求める親など、事情を抱えた依頼人が次々訪れる。一香は朔の近くにいるうちに、彼の天才であるがゆえの「孤独」に気づきはじめていた――。

「香り」にまつわる新たな知覚の扉が開く、ドラマティックな長編小説。

感想

執着と愛情

冒頭で記載した感情になったのは、この作品に描かれている主人公たちの深く暗い部分に触れたからだろうか。それとも、マイノリティな立場の人達の感情等にのめり込んだからだろうか。シーンがより鮮明に思い出され、何度も何度も読み返したくなるストーリーだった。

本作については、作者である千早茜さんのインタビュー記事がいくつかあり、その中で「執着と愛着」についてを考え書いていると記載がある。確かに読んでみると調香師である朔の一香に対する感情は「好き」だけではなく、恋愛でもなく愛着というには納めきれず、執着にも足を突っ込んでいるような、言い表すことのできない感情だなと私は思った。

正直、最初は「それって愛着以上じゃない!?好きってことじゃない!?」とテレビ画面の主人公に話しかけるような勢いの感情が湧いてきて、不器用で未熟な朔に言いたくなっていたが、そんな感情でもない気がする。

恋、愛、愛情、執着、そんなシンプルな言葉だけでは言い表すことができない感情や関係性だからこそ、こんなにもこの作品に惹きつけられたんだろうと思う。

選択して自分の人生を生きることの大切さ

本作品の中で、主人公一香が朔から頼まれた買い物をしているシーンでこのような言葉がある。

胸に抱いた袋からは焼きたてのパンの香ばしい匂いがしている。片手にはずっしりと思い高級スーパーの紙袋。どちらも朔さんの指定した店だった。個人でやっているパン屋で予約していた食パンを受け取るのも、ポリ袋ではなく厚手の紙袋に商品を入れてくれるスーパーに入ったのも、ずいぶんひさしぶりだった。自分はずっと、口に入れるものを選ぶのではなく、手近なもので済ませてきたこのに気づかされる。

透明な夜の香

このご時世、コスパ、タイパなどでいかに効率的に仕事をするか、過ごすかが重要視されているような気がする。判断力を仕事に使うために、ご飯や洋服はいつも決まったものにする。確かに間違ってはいないだろうし、ご飯や洋服の優先順位が単純にその人にとって低いだけなのかもしれない。

しかし、それではどこに喜びを感じているのだろうか?ささやかではあるものの、仕事以外で自分で選択して手間をかけて、小さな喜びを感じれるもは大事にしたい。「今日はお気に入りのカップで、ハーブティーと〇〇屋さんのスコーンを食べたい」「晴れの日だから、起き入りの黄色のバックで散歩したい」そんな感情があるからこそ、人は頑張れると思うのに。作中でも、その日の体調や天気によって食べる物、飲む物を変えているシーンが特徴的だった。

こんな人に読んでほしい

もともと香水が登場するお話になっているため、香水好きの人に読んでもらいたい。(かくいう私も、香水系の本が読みたいと思って辿り着いた1人)
また、人には言えない悩みを持っていたり、忙しくて自分の趣味や欲求にむあえていない人にも読んで欲しいなと思う。


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