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SpotifyデータでVaundyさんのアーティストネットを可視化してみる

ネットワーク分析から見える潜在的リスナー層

ふと思い立って大学生に「私がいま注目している音楽アーティスト」を最大3組まで挙げてもらう、という実験アンケートを行ってみました。

そしてそのデータを使ってアーティストネットワーク図を作ってみたのがこちらです。

表記揺れで優里さんが二回出現しているのはご容赦を。各ノードからパスが二本出ているのは正しく加工する時間がなかったためで、一本として見てください。

今回は「最大3組まで」「超メジャーなアーティストというより、個人的に注目していたり、気になるアーティスト」という条件をつけたので、Official髭男dismさんやLiSAさんなどは入っていません。

なのでけっこうバラけたのですが、それでもネットワーク分析を行うと、TWICEさんと布袋寅泰さんがいくつかのノードを介して繋がっていたりすることが見えてきて、おもしろい…!

大学生の実験で最も媒介中心性が高かったVaundyさん

そしてこれらのアーティストの中で最も媒介中心性が高かったのは、Vaundyさんでした。

よい曲ですねえ…2021年の曲でありながら、どこか70年代の空気も纏っているように感じます。

さて、「媒介中心性が高い」というのは、それがなければネットワーク全体がバラバラになってしまうようなノードのことです。


別の言い方をすれば、

「今までしゃべったことがない学生同士でも『最近Vaundyに注目しててよく聴いているんだよね』ということがきっかけで、友達になれる可能性がある」

というように表現できるかもしれません。

そしてそのことがきっかけで、Vaundyだけでなく、同じ島の中の端っこにある、世代も音楽性も異なる布袋寅泰さんも聴くことになる可能性がある...

ということです。

いってみればこの図は、このクラスの

「音楽的趣味を通じた、潜在的友人ネットワーク」

を示しているとも言えるかもしれません。

実態のところ大学生の皆さんからは、

選曲から人の趣味が分かり、この人がこれが好きだからここにもつながるといった新たな発見が知れて良かったです。

あの図を見た際私が知らない曲や私があげた人からこんな人に繋がるんだと言うのがすごい面白かったです。

また、奇遇で私の友達と選んだアーティストが同じでそこから話も広がったのですごいいい体験だったなと思いました。

といった声が聴かれました。

おお、まさにネットワークのおもしろさ!

人数制限をなくしたり、実際の自分のスマホのサブスクで聴いているアーティストやプレイリストと連動させたりすると、もっとおもしろいネットワークが現れそうです。

このネットワーク実験、Google Formsでアンケートを取って、結果を縦持ち化し、ピボットで隣接行列にして、つながりの存在しないアーティストのペアを削除し…と何工程か加工して、ノードリストとエッジリストにしてCytoscapeで読み込めば作成できますので、おすすめです。

SpotifyのビッグデータでVaundyさんの聴かれ方を分析してみる

さて本題です。

この実験で、最も媒介中心生が高かったVaundyさんを対象に、今度はSpotifyのビッグデータを使ってVaundyさんを起点としたアーティストネットワークを作ってみました。Python+Cytoscapeを使用しています。

その全体図がこちらです。

クリックすると拡大してご覧になれます。各島の名付け、もっとよいネーミングがあったら教えてください…!

海外ボカロPからアニソン、昭和歌謡までが現れていて、非常におもしろい...!

左下の国内ボカロPを中心とした島は、海外ボカロPを経由して、海外エレクトロ島へ。
Vaundyさんの下にはアニソン系のアーティストさんを中心とした島が。

順を追って考えてみたいと思います。

重要な役割を果たすBoAさん 宇多田ヒカルさんCHiCO with HoneyWorksさん

このネットワークの中で、媒介中心性が高いアーティストは、

BoAさん
宇多田ヒカルさん
CHiCO with HoneyWorksさん

の3組でした。各ノードとその第一隣接ノードを黄色でハイライトしています。

媒介中心性が高いということは、この3組がいなければ、ネットワーク全体がバラバラになってしまうというとですね。

宇多田ヒカルさんの周辺にはオフコースさんや佐野元春さん、中森明菜さんといった、昭和のニューミュージックを視聴する歌謡曲のコミュニティや、

ヴィジュアル系のコミュニティが広がっています。

したがって、彼女を経由してVaundyさんのリスナーが、こうした全く異なる世代やジャンルのアーティストを聞く可能性が開けている…あるいは逆に、昭和歌謡のリスナーがVaundyさんを聴くようになる可能性も開けている…というふうに言うことができるかもしれません。

Vaundyさんとは直接のリンクを持たないことの意味

いっぽうで、Vaundyさんは、この3組とは直接のリンクを持っておらず、Vaundyさんのノードの媒介中心性もそれそど高いというわけではありません。

よく見るとVaundyさんとCHiCO with HoneyWorksさんや宇多田ヒカルさんの間には、直接繋がったリンクがありません。

なので、現在のところVaundyさんのリスナーは、このネットワーク集団全体の中では、むちゃくちゃメジャーなコミュニティというわけではなく、ちょっと独立した中規模な存在…といったところでしょうか。

Vaundyさんは現在二十二歳の大学生で、やはり同世代の学生などからよく聴かれれているようですが、この先、BoAさん、宇多田ヒカルさん、CHiCO with HoneyWorksさんのような媒介中心性の高いアーティストと共演したり、同じバンドメンバーを起用したりすることで、一気にリスナーの層が広がるかもしれない。

そのように見立てることもできそうです。

ネットワーク分析を行うことで、

「いま、そのアーティストが誰にどのような聴かれ方をしているのか」

ということに加え、

「今後どのようなリスナーにまで広がる可能性があるか」

という「未来」が浮かび上がってくる。

ワクワクしますねえ…

「棚」から「曼荼羅」へ

それにしてもこういうネットワーク分析の際に、各島の特徴を言い当てるのが本当に難しいです。

まずそこに出現する無数のアーティストの音楽性にある程度通じていないと、その塊や繋がりが何を意味するのか、さっぱりわかりません。

加えて、CDショップの棚のように「ロック」「メタル」みたいな伝統的なジャンルだけで島が形成されているわけではない。

すべてではないにせよ、少なくとも部分的に楽曲のジャンルで分節できないコミュニティもあります。

これは音楽だけなく書籍のような業態についても言えることかもしれませんが、いわゆるZ世代のように、こうした情報環境の中で音楽や本に出会っていくこれからの世代にとっては、「棚」という概念が消失していくのかもしれません。

そして今後は、このSpotifyのインドラの網のような世界が、物理的な空間に逆流していくような気がします。

「商品が収められた棚」ではなく、「未知と出会うための曼荼羅」が立体化されたような情報空間…

以上、徒然研究室でした。

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