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ロシアがウクライナ侵攻を開始したのは2022年2月24日、そして一方的に南部の州の併合を宣言してからは1年経った。戦争は、終息のシナリオを描けぬまま続いている。

秩序は、対立から消失へ

 ほぼ、欧米や国内メディアの情報を受け取っているだけの私たちの立場だと、この紛争は、ロシアが圧倒的な悪の存在である。しかし、戦争や紛争には、それぞれの「正義」がある。そして、正義を維持して強固にするために、それぞれの秩序(order)がある。二度の世界大戦を終えた世界は、秩序の対立という冷戦を経て、次第に一つに収斂していくかのようだった。しかし今、世界各地で起こる紛争は、秩序の対立に戻るというより、秩序を失う「渾沌(カオス)」の海の中のようだ。とは言え、戦争は悪であり肯定できない。日常こそ幸せだ。未来への日常を取り戻さなくてはならない。

 既に、グローバルサウスと呼ばれる新興国や発展途上国は、ロシアや中国に接近し始めたりしている。未来に向けて、誰と友好な関係を構築すべきかに聡いそれらの国々は、欧米先進国の経済力の持続性に見切りをつけようとしているのか。工業社会を先導してきた経済力に立脚した欧米型秩序に対する反乱なのだろうか。とにかく「渾沌(カオス)」の時代は明らかに進行中だ。

真の持続可能性を目指して
その中で、欧米先進諸国は、自らの正義の下に、自国成長発展の持続可能性を担保する安全保障として、食糧やエネルギー自給率の向上に躍起となり、可能な限り自らコントロラブルな経済社会環境を整備しようと動いている。その結果、グローバルサウス、ロシア、中国との対立は深まるばかりだ。もはや、経済力の差分によって影響力や支配力を強める世界の秩序では、豊かな世界は成立し難くなった。かと言って、新たな秩序の登場には至っていない。「渾沌(カオス)」の世界が続く。

 世界中が必要とし、様々な場面で表出している「持続可能性(Sustainability)」は、自国ではなく地球生態系の持続可能性を目標とした、より広く、より長いスパンの安全保障ではなかったのか。利己から生まれる持続可能性は、言わば限られた時空間に留まった、小さな持続可能性だ。利他や寛容に根ざしてこそ、長期的な持続可能性になるはずだ。

最適化社会というトンネル時代
ところで、SINIC理論の未来予測では、現在は「最適化社会」の出口に近づいている。最適化社会とは、工業社会から自律社会への最適化の経路の時代である。つまり、パラダイム・シフトであり、秩序の大転換時代なのだ。世界が渾沌の中に入ることを、半世紀以上前に説明していたわけだ。

 もし、SINIC理論の未来ダイアグラムに共感を持てるのであれば、行動すべきは、渾沌というトンネルの先の未来社会への適応のはずだ。自律社会の解像度を上げて、近未来をデザインして構えをつくっておくことだ。

葛藤を怖れず、未来可能性へ
しかし、日本も含めて先進諸国を中心に、トンネルの先よりも、迷い込んでしまった迷路の入口探しに奔走しているかのようだ。だから、先のG7サミットで、各国の意向に強く反して、脱炭素化を遅らせる石炭火力発電の全廃時期を明記すべきと強く主張した日本の首相は、国連「気候野心サミット」で、温室効果ガスの大量排出国であるアメリカ、中国の首脳などと同様に、発言の場さえ与えられなかったのだろう。「自力では変われない国」として、未来への野心を持てない国とされた恥ずかしさを、リーダーは国民と積極的に共有してアクションを打ち出してもいいのではないか。さあ、「葛藤(コンフリクト)」を怖れずに、それを超えて未来に向かおう。

 世界が今いるところは、決して「迷路」ではない。出口のある「トンネル」なのだ。そういう未来への共感を、もっと強くして、長期志向の未来の準備を進める時だ。それこそが、未来予測を豊かな社会づくりに活かすということである。それこそが、私が多くの教えをいただいた動物行動学者の日高敏隆先生からいただいた「未来可能性」ということだと信じている。

ヒューマンルネッサンス研究所
エグゼクティブ・フェロー 中間 真一


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