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帰り道、ちょっと一駅歩いてみる。

今日はやけにタクシー乗り場がにぎやかだ。

その時点でなんとなく予想はできていた。電車が止まっているのだろう。
駅に着くと、思った通り、電光掲示板が点滅する赤い文字で「運転見合わせ」と教えてくれた。理由はわからないが、しばらく動かないらしい。

今日は朝から夜までのアルバイトで疲れている。正直、早く家でゆっくり温まりたい、そんな気持ちだった。しかし、そんなことを言ってみても、電車が動かなければ帰れない。

「しょうがない、どうせ動かないなら一駅分あるいて時間をつぶそう。隣駅から電車に乗って帰ればいい」そう思った。


結論から言えば、ちょっと後悔した。電車なら3分でも歩けば30分以上。
都会というほど栄えている街でもない。「こんなお店あったんだ」という出会いも正直なかった。舗装された道を歩き、階段を上り下りし、信号を待つ。ただでさえ疲れているのに、寒さまで襲ってくる。やっぱりちょっと後悔。まぁいい運動にはなったと思う。

ただ一つ大きな収穫があった。解けた靴紐を結び、上を向いたとき、満天のというには不足はあるが、確かに多くの星が輝いていた。冬の澄んだ夜空に輝く星。ありきたりな表現だがそれで十分だった。

ふと、歩きながらどこかで聞いた豆知識を思い出した。今、地球から見えている星の光は数えきれない年月を経て、地球にやってきたもの。今輝いて見えても、実はもうその星は存在しないかもしれない。確かそのような内容だったと思う。

「人間も同じかもしれない」

他人の目には輝いてみえても、そう取り繕っている、なんていうこともあるだろう。そう考えると、周囲の人々に対しては、できる限りどんな些細な変化にも気がつきたいと思った。輝きを完全に失う前に。


隣駅に着くころには、電車は動き出していた。電車に乗ると「やっぱり文明の利器は偉大だ」そう感じた。ただそれと同時に「そういえば星空を眺めることを売りにした村があったっけ。家に帰ったら調べてみよう」と考えていたのである。

ふと目線を上にあげると、車内のモニターが遅延情報を伝えていた。
この日の運転見合わせは、架線に障害物が引っ掛かったからだそうだ。

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