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分娩室で手渡したクリスマスプレゼント。FLORIOGRAPHYに込めた思い

皆さんには、思い出に残るギフトはありますか?

2018年の冬。
わたしは、図らずも分娩室で妻と生まれてくる子どもにクリスマスプレゼントを手渡すことになりました。

先日、この出来事についてお話をする機会に恵まれましたが、時間の関係で一部しかお話しすることができなかったため、改めてこちらに綴ってみようと思います。

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青い髪結び

2018年12月26日。

厚手のコートを羽織っても寒さを感じる冬の日、わたしは焦燥感に駆られていた。

本来であればクリスマス当日に、"FLORIOGRAPHY"(フロリオグラフィ)というギフトを妻にプレゼントしようと思っていたのだが、年末の忙しさに気を取られて買いそびれてしまったのだ。

"FLORIOGRAPHY"は、特別なテキスタイルで作られたコサージュがメッセージカードに包まれて花束のようになっているもので、贈り主がメッセージカードに言葉を書き込むことで完成する。

つまり、未完成の状態で購入するギフトだ。


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クリスマスシーズン限定の品だったので、もう購入できないのではないかと心配しながらお店に行くと、案の定すでに店頭には並べられていなかった。

半分諦めながらスタッフの方に声を掛ける。


数分後。


バックヤードから戻ってきたスタッフの方の手に、わたしが購入しようと思っていた青い髪結びタイプの"FLORIOGRAPHY"があった。

ちょうど店頭から引き上げたところだったらしく、売り切れになってしまった色もあるようだ。

残りわずかになっていた青い髪結びをすぐに購入した。

これから起きる出来事は、このときから始まっていた。


妻から来た突然の連絡

さて、このギフトは購入しただけではプレゼントできない。

贈り主が、メッセージカードに言葉を書き込まないと完成しないのだ。

長々と感謝の言葉を書き込むのは恥ずかしいので、一言だけ添えようと喫茶店で考えていたとき、妻から連絡が入った。


「陣痛がきたかも」。


時間は13時。

すでに正産期に入っていた妻の身体には、いつその時が来ても不思議ではなかったのだが、まさかこのタイミングで来るとは思いもしなかった。

メッセージカードに書き込むべき言葉がわからなくなったわたしは、一旦"FLORIOGRAPHY"をショッパーの中に仕舞った。


それから数十分ごとに妻から連絡が入ってくる。


「病院行くことになったらゴミ出しとお布団干しをお願いします」。

「病院行ってまた戻されることもあるから仕事してて」。

「マックのポテト食べたかった」。


本当に陣痛が来ているのだろうか?と思いつつ、その時点でわたしにできることは無かったので、ひとまず仕事を続ける。


18時。

妻から入院することになったと連絡が入る。お産が順調に進んでいるということだ。

このとき、実はメッセージカードのことを忘れていた。

妻の容態、子どもが生まれてからのこと、年内に終わらせないといけない仕事について考えていたらすっかり忘れてしまっていたのだ。

妻が入院することになったと社内メンバーに伝え、バッグを持ってオフィスを出ようとしたとき、ふと思い出した。

「あ、メッセージ書かなきゃ」。


1日遅れのクリスマスプレゼント

オフィスから病院までの移動中に、頭の中で言葉が廻る。

このギフトは、妻のために買ったクリスマスプレゼントだ。

子どもが産まれたら髪を切りに行くことが中々できないかもと言っていたから、この髪結びにした。

だけど、妻しかいない空間で使う物にはならないだろう。

この髪結びを使って髪を結えている姿を想像すると、その横にはわたしがいる。まだ見ぬわたしたちの子どももいる。

そうだ。これは、わたしたち家族にとって大切なギフトになるものだ。

FLORIOGRAPHYとは「花言葉」を意味する。

わたしがいま持っているこのコサージュには、まだ「花言葉」が無い。

わたしは「FAMILY」と言う言葉をこのコサージュの「花言葉」にしようと思い、電車の中で書き込んだ。


20時。

分娩室に到着した。


「大丈夫?どんな感じ?」。

「いまは少し落ち着いてるよ」。

「そっか。ひとまず安心した」。

「あの、こんなときに渡すものじゃないかもしれないけど、クリスマスプレゼント。一日遅れてごめん」。


その場でメッセージカードを開いてもらえるような状態ではなかったが、分娩室に入ってすぐに"FLORIOGRAPHY"を手渡した。

驚いた表情を見せつつ、笑顔で受け取ってくれた妻の表情が、わたしの不安を和らげた。

母子ともに健康でいて欲しい。

出産が無事に終わることは、決して当たり前のことではない。

妻が妊娠したとわかった日から妊娠に関する書籍を読んだり、安心できる病院を探したり、新生児に関する様々な事例について調べた。

知れば知るほど、何が起きても受け入れなければならない覚悟が必要だと思わされた。

文字通り、命を賭ける。

妻が笑顔でメッセージカードを開いてくれるときが来ることを願い、お産が本格的に始まる前に手渡したかったのだ。


12月27日 0時29分。

息子が誕生した。

産まれたばかりの息子を助産師の方が妻の胸元に連れて来てくれたとき、抱えていた不安は綺麗に消えていった。

あのときに感じた喜びは、言葉ではとても言い表せられない。

無事に新しい家族を迎えられることが、何よりも嬉しかった。


出会いを引き寄せるギフト


2019年1月2日。

妻と子どもが退院して3人の生活が始まった日に、大切なギフトと共に息子の写真を撮った。


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後日、"FLORIOGRAPHY"を生み出したチームを率いるTakramの渡邉さんとは、この写真をきっかけに交流が始まり、いまでも続いている。

渡邉さんの著書"コンテクストデザイン"に息子を登場させていただいたり、NHKのTV番組「DESIGN TALKS plus」にも取材していただいた。

このギフトが、クリスマスプレゼントとしての機能に特化してデザインされたものだったら、このような出会いも奇跡のような出来事も生まれなかっただろう。

デザインの力は、人に大きな感動をもたらす。

わたしもデザイナーの端くれとして、このような感動を生み出すものをいつか作ってみたいと強く思う。


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2020年現在。

本をおもちゃ代わりに遊ぶ元気な息子に育った。

彼が大人になったら、自分が登場する書籍"コンテクストデザイン"をプレゼントしようと思っている。

その日が来るまで、本棚の中で眠らせておくことにしよう。

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