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”スマホ普及率100%を目指す”高知県日高村を視察してきました!

高知市内から16km、車で約30分のところに位置する、高知県「日高村」。2021年5月、「日本で初めてスマートフォン普及率100%を目指す」と宣言した村です。人口4,812人、高齢者の割合43%、子どもの割合9%の村が、64.5%だった普及率を79.7%に、なんと15%も押し上げ、高齢世代へのスマホ普及を大幅に進めたのです。

8月末、「熱意ある地方創生ベンチャー連合(熱ベン)」の一員として、日高村へのスタディツアーに参加。全国の多くの自治体が抱える課題「少子高齢化&人口減少」を解決するヒントが、日高村の取組から少し見えてきました。

赤ぶちメガネ男の登場

集合場所は日高村にあるトマトレストラン「Eat & Stay とまとと」。ピースをしながら現れたのが、日高村役場企画課主幹の安岡周総(やすおかまさふさ)さん。
一瞬、どこの芸人さん?と突っ込みたくなるような、赤ぶちの眼鏡をかけ、交換した名刺には「友達つくる担当」「テントサウナ―」とユニークな肩書。おおよそ、いや、どう見ても公務員には見えないんですが、この人こそスマホ100%普及率の仕掛人。名産のシュガートマトを使ったカレーでランチをともにし、3時間におよぶマシンガントーク(プレゼン)を聞き、その後の印象がガラッと変わることになります。

トレードマークは名産、シュガートマトをイメージした赤ぶちメガネ。日高村役場の安岡さん。
トマトレストラン「Eat & Stay とまとと」

デジタル化推進の社会的背景・課題

プレゼンの冒頭、安岡さんが語ったのが、日本が抱える、そして村が抱える「背景」についてです。
人口4,812人、高齢者の割合43%の日高村ですが、2060年には、人口2,000人を切って60%が高齢化する予測が出ています。日高村に限ったことではないですが、人口減少によって、歳入は減るし、マンパワー(働き手)はどんどんなくなる。行政サービスを維持継続するためのリソースは、圧倒的に不足していくことが予測されます。2060年と言えば、今から37年後、安岡さんは70歳を超えています。安岡さんは、ふと考えたそうです。その時(2060年)になって、現役世代から「安岡さん、これまで公務員やってきて、人口減少で村が大変なことになるのが分かっていたのに、何をしていたんですか!」と、言われたくない。公務員として、将来世代、村の未来の為、やるべきことをやるのが自分の使命だ。将来、後ろ指をさされないように必死に頑張ろうと思ったそうです。
行政サービスを維持するために必要な事、そして将来圧倒的に不足するもの、それは「カネとヒト」です。
その解決手段として、デジタル化、DX化による効率化・費用削減が必要で、これは日本全体も同じ。だから、政府はデジタル庁を設置し、マイナンバー制度ができました。デジタル化の流れは止められないし、止まらない。2026年3月、3G回線が停波されると、2,000~3,000万のスマホ難民が出ると言われています。日高村の村民を難民にするわけにはいかない。

①デジタル化、DX化のためのソリューション導入 
②デジタルディバイド層(情報格差)の解消に向けての取り組み

これらデジタルの具体的な取り組みが必要だと考えたのです。この2つ、①のソリューション導入だけでは不十分で、①と同時に必要なのが②の取り組みである、と安岡さんは語ります。

デジタルディバイド層解消

令和2年5月、日高村全世帯向けにスマホ普及率を調査したところ、64.5%という結果がでました。この数字は当時の日本平均とほぼ同じ。ただ、人口の多い、60代が70%、70代が41%、80代が11%にとどまっており、高齢者層かつ低所得者層にスマホが普及されていない事実が浮き彫りになってきました。こうなると、いくらDXを推進したとしても、情報格差は解消されない。
「日本のDXの前提条件として、優先すべきはスマホを持っていただくこと」だと感じたそうです。そして「デジタルディバイド層解消」を「スマホを持ち、常時オンライン化状態」であると再定義しました。
こうした背景の下、日高村は

「スマートフォン普及率100%、さらにスマートフォンアクティブ率100%」

を宣言したのです。
スマホを持たない理由を、村民にアンケート調査したところ

①スマホは必要ない
②スマホの使い方がわからない
③スマホの価格が高い

という残念な答えが返ってきました。細かくお話を聞いていくと、これらの理由は1つ1つが個別のものではなく、複合的に絡みあっていることが見えてきます。
つまり、①スマホが不要だという方の傾向として、元々、情報弱者で、現状維持のバイアスが強い。そして情報弱者であるがゆえに、③いまだに価格が高いと思っている。また、どうせスマホを持っても②使い方がわからない等、各々の理由が微妙に絡み合っていることがわかったのです。
この、スマホを持たない強い意志(理由)のため、スマホ購入支援(日高村はケータイショップがないので出張販売所を設けた)や、スマホ教室を開いても、住民への説明会を大々的に用意しても、まったく集まってくれない、とにかく人が来ない日が続いたそうです。安岡さん自身がケータイキャリアからの回し者ではないかと疑われ、住民の皆様も説明会に参加すると行政や業者に丸めこめられると思われてたようです…と、笑い話として当時を振り返っていました。

大規模集会から個別説明会に

いくら説明会を開いても、あまりにも人が集まらないので、戦略を変更します。大規模な集会はやめて、小さな個別説明会を開催。安岡さん一人で公民館をまわって、これから起こることを丁寧に一人一人に説明したたそうです。「2026年、3G停波になると皆さんが困る。ガラケーからスマホに変えないと、そのうちガラケーも無くなるんです、皆さんがスマホ難民になります。そうなったときでは手遅れ。難民への道を選ぶか選ばないかは、自分で決めてください」。訪問した公民館の数は、50を超えました。会話を重ねるうちに安岡さんへの信用度も徐々に増していき、相談会では一緒にスマホの扱いを説明してくれる住民の方も現れるようになったそうです。

普及率15%UP

令和2年5月以降、令和3年11月、令和4年6月と合計3回、紙での全戸アンケ―トを実施。
64.5%だった普及率は79.7%、15%以上UP。
とりわけ、高齢者層が、大幅にUPしました。

60代  69.4% → 89.5%  +20.1%
70代  40.4% → 69.9%  +29.5%
80代  10.9% → 33.1%  +22.2%

日高村の皆さんが、これから起こることに理解を示し、自ら行動を起こした成果が出たのです。そして今、日高村では、この普及率を背景に「村まるごとデジタル化事業」を促進。

  1. 健康事業(KDDI ポケットヘルスケア)

  2. 防災事業(高知県)

  3. 情報事業(LINE)

  4. 普及事業(トラストバンク)

外部のプラットフォームのアプリケーションを活用し、費用をかけず、生活の質向上を目指し、様々な取り組みを実現しているのです。村民の皆さんの満足度も随分あがっているのです。

デジタルディバイト層の解消は「解決可能な社会課題」

今回の取組の中で、安岡さんが「大切なこと」として語ったのが
デジタルディバイト層の解消は「解決可能な社会課題」であるということです。情報格差が大きくなると、分断もうまれてきます。これから、人口が減って、高齢化が進む中でますます助けあっていかないといけない。自助・共助が大事になってくる中、住民の皆さまにしっかり向き合えば、理解を得ることができる問題であるということを、身をもって示したのです。

「一般社団法人まるごとデジタル」設立

日高村は、スマホ普及率UPの実績をもとに、次のステップとして2023年8月「一般社団法人 まるごとデジタル」を設立しました。
デジタルディバイトを解消し、デジタル活用の基盤整備、その結果、住民の生活の質向上を推進していく団体を立ち上げたのです。日高村と包括提携を結んでいた、KDDI株式会社、株式会社チェンジも理事として参画。同じ悩みを抱える、他の自治体に横展開し、異業種連携の促進を図っています。

左:「一般社団法人まるごとデジタル」理事でもある、KDDI株式会社 江幡智広氏

全国では、多くの自治体が、人口減少、少子高齢化に抗うべく、様々な取り組みを行なっています。そこには、デジタル化、DX化(デジタルトランスフォーメーション)は、手段として必須なものになっています。インターネットの世の中になり、この便利さを、老若男女だれしもが享受していただくための政策が、必要になってきます。その第一歩を、日高村は身をもって示したのではないでしょうか。幕末、明治維新の一翼を担った、南国土佐から、新たな流れをつくろうとしている日高村、目が離せない自治体です。

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