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役に立たない花束を

最近、地下アイドルのメンタルヘルスを考察するファンのnoteを見た。

地下ならではの規模やライブ本数、オタクとの距離、そしてチェキ列の長さ等わかりやすい他者評価など、地下アイドル特有のストレスも当然あるだろうし、以前の記事で書いたことがあるんだけど、規模に関係のない、表現者として避けて通れないストレスもあるんじゃないかと思う。

多くの場合、強すぎる完璧主義は幸せにつながらないし、たいていの仕事においては1時間かけて90点をとるより5分で80点を目指す方がよいとされるなかで、アスリートとアーティストは、納得いくまで時間をかけて100点を目指すことが求められている、というか、自分にそれを課している職業だから、メンタルのコントロールがそもそも難しい、という話。
さらに、アスリートとちがい、アーティストの場合、明確な点数もつかなければ対戦相手もいないから、アスリート以上に自分と向き合う孤独な戦いになりやすいと推測する。そして、表現自体は自分の思うままであるべきで他者評価に左右されるべきではない一方で、食べていくにはやはり人気という他者評価を得ないといけないという矛盾も存在し、そこに折り合いをつけないといけない。メンタルヘルスの維持がとても難しいことは表現者でなくとも容易に想像できる。

引用記事の最後の部分、目標とはつまり自分自身の力だけで完結する将来像、そして夢は自分自身の努力だけではどうにもならないところも含めた願望を指している。長く活動を続けている表現者ほど、高い次元で両立しつつも、目標自体は他者評価と離れたところにおいている気がする(つまり、フォロワー数とか動員とか箱のキャパとかではなく、純粋にステージパフォーマンスの良し悪しで自己評価できているように思う)。
というか、活動を続ける上で、少なからずここに折り合いをつけることは不可欠だし、だから、現在進行系で活動を続けているアイドルたちはみんな、そこにうまく折り合いをつけているんだと思う。8割を10割にもっていく努力が全くできない自分にとっては尊敬しかない。


ただ、他者評価とうまく折り合いをつけるバランス感覚と、ネガティブな評価をなるべく気にしないようにする強靭なメンタルがあったとしても、謂れなき誹謗中傷に継続的にさらされていたら、どんな人でも心が弱ってしまうし、幸福度が下がってしまうから、つらい思いをしてまで活動を続ける意味を見失ってしまう。

今日、とてもとても悲しいニュースを見た。
つい先日、結婚を発表したばかりの羽生結弦さんが、相手の方や親族に対する誹謗中傷やストーカー行為、許可のない取材などのストレスに耐えかね、離婚したという報道。
相手が嫌がっていても自分がしたいと思ったら平気でやる人というのは少数ながら一定の割合で存在し、彼ほどの知名度と人気があるとファンの総数が増えるから頭のおかしいファンの人数も増えていく。旧ジャニーズの若手グループに対するストーキングもえぐいレベルだと聞くし、これはいわば有名になると避けて通れないものなのだろう。

そして、誹謗中傷というものは、されなれていない人にとっては、全く根拠のない言いがかりだから気にする必要なんかないと頭ではわかっていたとしても、心にはやはりダメージを受けてしまう。子どもが小さいとき、電車や飛行機の中で子どもが泣いていると、にらまれたり舌打ちされたりしたことを未だによく覚えている。大多数の乗客たちは微笑んでみてくれたりあやそうとしてくれたりして、あたたかさを感じたけど、100人の厚意より1人の悪意に、やはり心を削られてしまうし、遠出が億劫になってしまう。

だから、この手のストレスは数の多寡ではないんだと思う。アイドルオタクの多くは良識があって推しのために何かすることを自分の幸せとして感じられるひとがほとんどだと思う(思いたい)んだけど、そのなかにひとりでも、謂れなき誹謗中傷をしたりセクハラや説教をしたりするようなオタクがいると、推しはきっととても傷ついてしまうし、なんでこんなつらい思いをしてまで活動を続けているんだろうと思ってしまうかもしれない。

これは、個人のメンタルが強いとか弱いとかの問題ではない。メンタルが強い人だって、主観的幸福度が下がれば、活動に対するモチベーションも下がってしまう。
できれば運営側の方々に対策を講じてほしいところだけど、旧ジャニーズほどの大手事務所ですら手を焼いているような迷惑行為に対して、マンパワーの限られる地下アイドルの運営が対応するのは本当に難しいことだろうと思う。出禁にして逆恨みされないとも限らないし、主催イベントを出禁にしたって違う対バンまで出禁にすることは難しいだろうし。そして、そういう、活動とは全く別のめんどくさいやりとり自体、著しくモチベーションを下げてしまう。


そのやっかいなオタクに対して、自分たちオタクができることはほとんどない。誹謗中傷から推しを守ってあげることができないのはとてももどかしいけど。

オタクの自分にできることは、やっぱり、応援することだけだって、改めて思う。誹謗中傷という銃弾から推しを守る防弾チョッキにはなれないけど、せめて、なんの役にも立たない、一輪の花を贈りたい。100人の厚意より1人の悪意に傷ついてしまうなら、コツコツと1000回の感謝と好意を。それが、推しの心にわずかでも支えになってくれるなら、こんなうれしいことはない。

と思っていたら、とてもタイムリーに、今日お誕生日のEMOEのさちゃんが、こんなポストをしてくれていて。

この「一人一人」に自分が入ってるとまでは自惚れられないけど、でも、自分の推しがこんなふうにオタクを大切に思ってくれているというのはとてもうれしいし、推しの力になれているんだって思わせてくれるこんな発信をしてくれるさちゃんのこと、やっぱり大好きだし尊敬できる推しだなと思った。

自分はこれからも極力ポジティブな発信を続けていきたいと思う。一輪の花でも、積み重ねて花束になったら、直接的には役に立たない花束だけど、ほんの少しは推しのモチベーションになれるかもしれないよね。

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