見出し画像

今日も1行目と戦っている

1行目は第一印象だ。

私たちは何かを読むとき、この書き手となら心を通わせられそうか、情報と体験を約束してくれそうか、つなぎ合わせた数単語から敏感に相性を探りながら判断している。だから全国に配布する取材記事も、コンテストに応募するエッセイも、twitterの140字だって、真っ白のディスプレイに初めて文字を打ち込むときは「よいご縁がありますように」と祈るようにして言葉を選んでいる。

中でもnoteにおける書き出しは、特別だ。

最初の数行がヘッダー、タイトルとともにタイムラインや検索画面に表示されるので、知名度のない私でもたくさんの人に読んでもらえる大チャンス。逆に言えば、駆け出した一瞬で心を掴めなければあっという間に見放されてしまうということでもある。既視感のないエッジの効いた1文をぶっ放して、都村ってこんな変わったことを考える人間なんだと興味を持ってもらわねばならない。

他のコンテンツにはない異様な緊張感を胸にパソコンに向かう。あえて常識と反対のことを言ってみたり、下書きの第1段落をばっさり切ってみたり。あれやこれやと思いつく限りの手を尽くし、書いては消して書いては消して。


でも本当は、ちょっと違うタイプの始まり方に憧れていたりもする。

しずるのコントの幕開けはいつもうっとりするほどスマートだ。たとえば『ボス』(Youtubeしずる公式チャンネルより)。



明転と同時に男がステージに駆け込んでくる。張り詰めた空気の中、たったひとこと。

「くそ、なんで、なんでばれたんだ。計画は完ぺきだったはずなのに」
(Youtubeしずる公式チャンネル『ボス』より)

セリフが放たれた瞬間、情景がぱっと立ち上がる。何かが起こる予感と躍動。追ってゆっくりと相方がステージへ。

「落ち着け」
(Youtubeしずる公式チャンネル『ボス』より)

ふたりの関係性がありありと繰り広げられ、一気に物語が動き出す。

かっけえ。かっこよすぎる。

変わったセリフではないけれど、幕開けから3言で過不足なくシチュエーションを説明し、ぐっと観客を惹きつけ本筋へなだれ込む。私が初めてこのネタを生で見たとき、衣装は白シャツに黒パン。セットといえるものは2脚の椅子だけ。それでも、最初の一言が魔法のように世界を作り上げる。

このコントは池田さんが台本を担当してるのだが、村上さんが書いたネタも、いや、どれを見ても起承転結の〝起〟があざやかで惚れ惚れしてしまう。(中には最後までシチュエーションが理解不能なものもあるのだが、その振り切り具合もいい)


文章も、こんな風に書き出せたらいいなあと思っている。インパクトやエッジだけに頼らない、少ない描写で自ずから世界が立ち上がり、最後まで一息に導いてくれるような、そんな書き出し。だって、本当に読んでほしいのはその先だから。

興味を引くために書いてるわけじゃない。胸のうちでくすぶる思いを共有したり、新しい視点や感情を発見したり、読んでくれた人の心にちょっとだけ何かを残したくて書いているのだ。とにかくクリックしてもらおうと冒頭で大きなテーマを掲げても、開けてみたら内容が伴っていない、軸がずれている、では本末転倒。自分の伝えたいことに誠意をもって推敲しなければ。

とはいえ、読まれない文章は存在しないのと同じ、というのもまた事実。神聖なる1行目に意図を持って挑む精神もまた書き手の誠意だろう。

書きたいものを書きたくて、でも、ちゃんとあなたに届けたくて、今日もまた1行目と戦っている。


頂いたサポートは書籍代に充てさせていただき、今後の発信で還元いたします。