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抗わず流されず包み込むように流れていけ

vol.92【ワタシノ子育てノセカイ

見通せる未来は学んだ過去の幅。想像できる過去が想像できる未来で、これを「今」というのかも。

自分のスケールは学びによって培われる。誰かが口にする実現不可能そうな未来は、だいたいスケールの違いによる景色観なんだ。

だから不可能な未来じゃなくて、今を語っているだけかもしれない。

そもそも世界というところは、矛盾だらけなんだから。

ところで私には「実子誘拐」で6年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。

次男ジロウと音信不通となりまもなく2週間。ほんのり黄色味を帯びてきた稲が穂を揺らし、お盆の終わりを告げている。

ジロウと繋がったはずのDiscordが、ある日を境に機能しなくなった。長男タロウはLINEで生存確認できており、ジロウの存在をほのめかしてくれるので元気に過ごしてはいるんだろう。

我が子と音信不通となる異常が、日常となりつつある実子誘拐7年目。親子の引き離しが日本社会の文化なんだと、年月を重ねるほどに染み入ってくる。単独親権制度の社会しか知らない日本人は、親子を引き離しにする野蛮さや残忍さを気づける瞬間がくるんだろうか。

社会の大きな慣性力に、ちっぽけな人間は抗えない。

わかっている。頭ではわかっているんだけれど、心がどうしても追いつきたがろうとしないんだ。

実子誘拐直後の2010年代後半。面会交流のたびに私はタロジロとどこかへ出かけようとした。唐突に我が子をあいまいに失い、母子で会うことを特別な日だと勘違いしていたんだ。

日常ではない親子時間を自分でわざわざ重ねていくうちに、私はだんだんと心の歪が強くなっていく自分に気づきだす。何かがおかしい。だけど何がおかしいのかわからない。

我が子との面会交流をくり返すほど、辛くて、苦しくて、痛くて、自分がどこにいるのかわからなくなっていった。タロジロに会えているのに、どうして私は素直に喜べないどころか、身体がまったく動かなくなってしまうんだ?

愛する我が子と再会をくり返す日常は、日常じゃなくて異常だったんだ。実子誘拐という日本の文化に染まりきっていた当時の私は、親子の引き離しの異常性を理解するのに、3年ほどかかってしまった。

2024年の夏、タロジロとの海外旅行を計画。マレー半島をバックパックで縦断しよう、と私は我が子にもちかけた↓↓

矛盾がすぎる社会を7年ほどじっと見つめて、浅はかな想いを私は抱く。旅という非日常にいけば、私たち親子のおかしな日常が相殺されて、ありふれた日常になるんじゃないか、っと感じたんだ。

浅はかながら、旅の計画にノリノリで興味を示すタロジロに、ありふれた親子時間をかみしめた私は、今の日常を反転させる意義をしかと感じたんだ。

親子のささやかな日常すらないのに旅行になんていけるはずがない、と思い違いしてはいけなんだ。「できない」と勘違いが増えゆく思春期のタロジロにとっては、慣れてしまった日常を揺らす瞬間が大切だと心が訴える。

結果として、想いを分かち合いたい人に、自分の想いを伝えられない痛みの時間を、タロジロはこの夏に改めて過ごすことになった。

慣れた日常は、重ねるほどに、非常識となってゆく。

縦断旅行したいと言い切るタロジロに、私は自分たちでどうにか夢に辿り着く体験をしてほしかった。だけど結末は、7年近い軟禁生活の経過をまざまざと見せつけられることとなる。

制限されて生きる人間がどんな風に育っていくのか、子育てを失った私は、私の産んだ子たちを眺めながら経過をつぶさに追えるんだ。日本のありふれた教育を受けた子どもたちが、どんな人間になっていくのかを。

子育てを諦めないことは、どんな我が子も受け入れることで、理想の子育てを手放すことだ。

警察への通報でタロジロが事情聴取を受けて以来、母である私は父子関係にほぼ介入しない2.3年を過ごしていた。父親への連絡については、すべてタロジロと相談してからにしているんだ。

そしてこの夏、私は3回の連絡を父親にいれた。

マレー半島縦断旅行が宙ぶらりんのまま、パスポートの再発効が間に合う最終期限がやってくる。タロジロは親がなんとかしてくれるのを、じっと待ち続けているようだ。

誰かがしてくれることは、だいたい誰もしてくれないから、自分がすればいいんだけど、誰もしてくれない世界では、だいたい誰かが自分になってしまっている。自分が、いなくなっているんだな。

だから、何も、なかったことになる。だからこそ、なかったことにしてはいけないんだ。

「今夏のマレー半島縦断は延期やな!パスポートの再発効がうまくいかんかったね」

私はタロウに、ポトン、と事実をLINEした。

ジロウと音信不通になる前、Discordでたわいのない会話を母子で交わし「ジロウには世界を創る力があるからね!」と私はまとめのメッセージをふった。

実子誘拐から4年が過ぎた4年生のジロウにも、似たような言葉を伝えた過去がある。そのときのジロウの返事は「そんなことない…」。

2024年の夏。3人でワクワク計画した旅行はどうやら遂行できないけど、一緒に探した夢はなくなったわけじゃないんだな。きっと未来でかたちを変えて待っている。

私の延期LINEに、15歳のタロウはくすっと苦笑えるスタンプを。私の宣言Discordに、12歳のジロウは「うん!」と返してきた。

大丈夫。大丈夫。大丈夫。

親の行先はいつだって、子どもたちが、ちゃんと示してくれるんだから。



2017年9月@マレーシア
実子誘拐3ヶ月前
優雅に漂うタロウ8歳↑ ↓ジロウ5歳


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