繋がる命が愛に包まれると世界は持続するらしい
vol.61【ワタシノ子育てノセカイ】
生命とは愛みたいなもので、多様性そのもの。命を子々孫々と持続可能にするのは、限りある命に多様性があるから。
多様性をなくして、すべてを均質化させるほど、愛が欠乏し、生命がするすると奪われ、心が叫びだす。みんなと同じでなくちゃ。合わせなきゃ。違うとおかしいんだ。
心の多様性は、愛の深さで、生命の強さなんだろうな。
◇
ところで私には「実子誘拐」で6年間離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。
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11月につづいて12月も、母子で過ごす時間がいつもより多い。命をとじたばかりの祖母のおかげなんだ。
長男タロウも次男ジロウも、49日間の祖母のお参りに、足を運びたいと希望したから。ジロウは密会交流を3-4日/週で設定し、タロウは公開交流を週1で交渉する形に収まっている。
当初の計画とは違うけど、タロジロが心のバランスをとれる、各々の終着点だったんだろうな。ふたりの性格や背景が表れていて興味深い。
なにはともあれ、おばあちゃんがくれる親子時間↓↓に、ひきつづき感謝。
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裁判所に通った2017年からの約4年間、私たち親子には定期的な面会交流があった。だけど離婚して3ヶ月が過ぎたころ、会えなくなる。
当時、タロウは中学1年生でジロウは小学3年生になったばかり。月単位で会えない日々がでてくる。タロウとは5ヶ月間の断絶状態にも陥った。以降、母子で耐え忍び、タロジロは下校時に私と内緒で会うようになる。
なんのために親権を譲ったんだろうと苦笑いだ。裁判にまで発展した離婚係争で、子らの自由と私の親権を引き換えに、私は和解。そもそも親権は子の利益のために行使する。離婚によって親が親権を剥奪され、子が親を搾取される意味はなんだ。
私はふつうのお母さん。もちろんタロジロ父もふつうのお父さん。単独親権制度は、なんでやねんがすぎる。
ちなみに「引き換え」とあるように、裁判所では子どもの人質交渉がアタリマエ。家族友人知人からも「タロジロに親を選ばせられへんの?」とよく質問された。子に親を選ばすとか、どんな罰ゲームやねん。
単独親権制度に呑まれた社会では、なめらかにスルッと何の疑いもなく、子どもをモノ扱いにできるんだ。人質交換をサクサクと提案されるので、私はしばしば半狂乱になったけど、私だって今も何かしらのバイアスだらけ。
社会の価値観を醸成するシステムの歪みは、なんとも恐ろしいもので、無意識で、平然と、人の尊厳を踏みにじるんだ。
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祖母の晩年は一人暮らしだったため、49日のお見送りついでに、祖父母の遺品整理も進めている。
ある日、祖父の空軍時代の手記が見つかった。時系列で淡々と戦時中の記録がしたためてある。だけど書き留めてあることが、まったく淡々としていないんだ。
1944年4月サイパンで参戦、45年2月22歳で特攻隊の命、3月硫黄島で参戦、7月沖縄本島で夜間攻撃40-50回、8月終戦。誰でも知っているような、歴史の狭間で若き祖父は生きていた。
戦地から駐屯地へ戻ると同胞は荷物だけに。持ち主の隙間は次々と新しい人員で埋まる。という類の描写も流れてくる。
祖父は戦争の話をよく聞かせてくれたけど、いつも武勇伝のような語り口だった。戦闘機の操縦や飛行の体験を、幼いタロジロにも話してくれて、乗り物への興味をもたせてくれた。
孫やひ孫に面白おかしく伝える裏で、祖父はどんな想いを抱えていたんだろうか。
◇
タロジロとお線香のかおりに包まれながら、特攻隊で戦死した人々の記録を追った。「神風特別攻撃隊々員之記録」という日本海軍の編纂記もあったんだ。ひとりひとりの最後の瞬間が丁寧に刻まれていた。
11歳ジロウはあんまり乗り気がなさそうで、14歳タロウの肩越しにチラチラのぞく。ジロウに絡まれつつタロウは、食い入るように私と同じページを見つめる。
なんで子どもたちは戦地へ行ったんだろう。なんで親は子どもを戦地へ行かせたんだろう。なんで国は戦争をしたんだろう。どうして今も世界中で争いがなくならないんだろう。
学校では戦争したらあかんって習うで?
寝っ転がって編纂記とは真逆を向き、左足をタロウの膝の上でトントンさせながら、ジロウが口をひらいた。
◇
親子時間の終了が刻々と近づいてくる。
平和な世界で、親子がふつうに過ごせない今を、戦時中の日本人は想像できるのだろうか。国のために命を賭した若者は、どんな未来を夢見たのかな。
タロジロを見つめる視界の隅で、初盆の回り灯篭が、ゆらゆら光っている。
珍しく言葉数の少ないタロウが「パールハーバーってどの辺?」とおもむろに口にしたから、3人して祖母の小さな地球儀で探した。するとジロウが「また行ってみよか」と目をキラキラさせ、人差し指で地球をまわしながらタロウもつづく。
じぃちゃん、生きて帰ってきたん、すごすぎるな。
命が繋がってきたから、命が今もあって、愛する喜びを今、味わえるんだ。
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