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喃語の言語学的分析


分析の目的

乳児は喃語のプロセスを経て、言語を修得していきます。
大人が喃語を聞いても意味を理解することはほぼできませんから、喃語は言語ではないと考えておられる方が多いのではないでしょうか?

ここで一点疑問が出てきます。
それは、「喃語は学問的には言語なのか?」ということです。
この疑問を言語学の視点から考えてみたいと思います。

その前に一点お断りしておきますが、今回の目的は、喃語が言語であるか否かを学術的に白黒つけることではありません。
私は言語学の専門家ではないので、正確な議論には恐らくなっていないと思います。

大切にしたいのは、分析を通じて言語というものの本質に近付くこと、そして子どもの発語について興味・関心を持つきっかけ作りをしたいという思いです。
投稿を読んで、発語について新しい視点をゲットできた!という方がいらっしゃれば、とても嬉しいです。

喃語の定義

まず喃語とは何か、共通認識をもつことから始めましょう。
Wikipediaによれば、喃語とは、乳児が発する意味のない声を指すようです。
また、いわゆるクーイングは喃語に含まれず、多音節からなる音(「ばぶばぶ」など)を発声する段階が喃語と呼ばれます。
喃語の使用によって乳児は口蓋や声帯、横隔膜の使い方を学び、より精密な発声の仕方を覚えていくとのことです。

以上を、今回の喃語に関する共通認識とさせていただきます。
それでは、言語学の視点から喃語に迫りたいと思います。

参考文献

考えるに当たっての参考文献は以下です。

参考文献によれば、言語にはコミュニケーション機能、意味性、超越性、継承性、習得可能性、生産性、経済性、離散性、恣意性、二重性という十の大原則があるとのことです。
以下で、喃語が大原則に当てはまるかを考えていきましょう。

分析

①コミュニケーション機能
発信の目的が、コミュニケーションに特化しているという性質です。
喃語は意味のない声であり、また発声の仕方を覚えるという意義があるため、コミュニケーションに特化しているとは言えなさそうですね。
よってコミュニケーション機能は当てはまらないと考えられます。

②意味性
特定の音形が特定の意味に結び付く性質です。
喃語は意味のない声ですから、意味性は当てはまらないと考えられます。

③超越性
モノや事柄がイマ・ココに存在するか否かに縛られず、時空を超えて物事を語ることができる性質です。
喃語は過去や未来を話題にできませんから、超越性は当てはまらないと思われます。

④継承性
特定の伝統や文化の中で教えられ習得される性質です。
継承性に関しては判断が微妙だと感じます。
乳児が大人の真似をしようとして喃語を発しているとも捉えることができますよね。
また、喃語は言語を習得する準備とも考えられるため、継承性がないとは言い切れないと思われます。

⑤習得可能性
母語以外でも学ぶことができる性質です。
大人が喃語を習得できるかという観点で考えた時、凄く難しいのではと思います。
確かに、喃語を聞いたまま声真似することは可能なのですが、乳児がどのような意図で喃語を発したかは分かりません。
音と意味が繋がらないのであれば、それは学んだとは言えないでしょう。
よって習得可能性は当てはまらないと考えられます。

⑥生産性
新たな発話を次々に作り出せる性質です。
乳児は新しい喃語を次々に発するわけですが、それが意味を持った発話ではないため、生産性は当てはまらないと言えるでしょう。

⑦経済性
形式が単純であった方が良いという性質です。
喃語は必ずしも単純を良しとするものではなく、むしろクーイングが複雑化していますので、経済的は当てはまらないと考えられます。

⑧離散性
表現の仕方が連続的でない性質です。
喃語は意味のない声ですから、アナログ的かデジタル的かの概念が適用できないと思われます。
よって、離散性は当てはまらないと結論付けました。

⑨恣意性
形式と意味の間の関係は必然性がないという性質です。
喃語は意味がありませんから、恣意性は当てはまらないと思われます。

⑩二重性
音の一つ一つは意味を持たないものの、その連なりは単語や部品として意味を持つという性質です。
喃語は意味を持ちませんから、二重性は当てはまりませんね。

まとめ

以上、言語の大原則を考えてきましたが、ほとんど当てはまらない結果となりました。
よって私は、喃語は言語学的に「言語ではない」と考えます。
多くの方が予想された通りの結果かもしれませんね。

もちろん、喃語の定義の仕方によっても若干変わってくるでしょうから、喃語は言語でない!と断定するものではありません。
しかし、子どもが喃語というプロセスを経て言語を修得していくのはとても興味深いと感じますよね。
皆様がそんな面白さを少しでも感じていただけたとしたら、非常に嬉しく思います。

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