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『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』速水健朗


 1.要約

『本書はショッピングモールを通して、最終的には都市のことを考えたいと思っています』Kindle版39頁


 地方都市の画一化、商店街VSショッピングモール、アメリカの外圧による大規模小売店舗法の制定。ショッピングモールが語られる時、大抵の場合、以上の論点が挙げられる。
 このような手垢のついた議論は、お茶を濁したものか、時代に逆行する実現不可能な結論しか生み出さない。同じ話を延々と繰り返している。
 問題はショッピングモールを敵視している点だろう。


 本書は、ショッピングモールを肯定する。

『ショッピングモールや消費社会に批判的な視点からではなく、むしろ肯定的な視点で書いているのは、筆者がショッピングモールの愛好家であるという側面が強いからだと思います』Kindle版2,047頁



 ただ、その肯定の形は逆張りの発想ではない。素朴に、我々の生活感覚の延長線上で根ざしたものである。
 著者はショッピングモールを楽しんでいるからこそ、議論を展開できたに違いない。

 本書の鍵となるのは表題にも掲げられた『ショッピングモーライゼーション』。
 この概念を使って都市のダイナミズムを描こうとしている。
 『ショッピングモーライゼーション』とは何なのか。

『都市の公共機能が地価に最適化した形でショッピングモールとしてつくり替えられ、都市全体が競争原理によって収益性の高いショッピングモールのようになっていくという変化、現象がショッピングモーライゼーションです。』Kindle版421頁


 具体例として、民間に運営されたサービスエリア、羽田国際ターミナルの江戸小路及び六本木ヒルズ等が挙げられる。
 六本木ヒルズがショッピングモール?そんなバカな。ショッピングモールというのは郊外にある殺風景な巨大な建物だ。都心にダサいショッピングモールなんてあるわけがない!
 このような批判が聞こえてくる。
 しかし、第3章で語られるアメリカのショッピングモールの歴史を読んでいくと、六本木ヒルズ、渋谷ヒカリエや代官山の街そのものですら、世界的に見れば、ショッピングモーライゼーションのダイナミズムの渦中であることがわかる。
 また、第4章では、日本のショッピングモーライゼーションの現状についても語られる。
 著者は以下のようにアメリカの消費社会の変遷をまとめている。
①パサージュ(都市型)、②百貨店(都市型)、③スーパマーケット(郊外型)、④ショッピングモール(郊外型)。③と④が隆盛したことや、そもそも都心は治安が悪かったことから都市の中心部の衰退が進む。そして、都心に人を呼び戻す案として、
⑤都心のショッピングモール化(都市)が生み出されたとなっている。
 ⑤はアメリカだけではなく、ドバイやマレーシア等の東南アジアでも行われ、日本も例外ではない、ということだ。
 そもそも世界においてショッピングモールは、アッパーミドル層の消費の象徴である。セキュリティも安全であるし、ネガティブな印象ばかりではない。ショッピングモールを下層階級の巣窟とみる日本の観点にかなり誤解があるのである。
 ちなみに、ボードリヤールの言葉を引用して、百貨店とショッピングモールをこのように区別する。 

『百貨店はあくまで「現代的消費財」を売る場所であり、目的を持って歩き回ることができる空間であるが、モール(ドラッグストアに例えながら)は「多様な消費活動の綜合を実現する」空間であるといいます。「綜合」される「多様な消費活動」とは、日々の食料品から生活の知恵から、映画から家族での食事まで、商品に限らない「多様」な消費財が「万華鏡式」に「混合されている」状態を指しています』Kindle版1,422頁



 2.評価


 非常に面白い本だった。都市とショッピングモールは親和性の低いものと思っていたが、読んでみると都市設計において、ショッピングモーライゼーションの思想が中核をにあることがよくわかった。
 郊外型のショッピングモールに対抗策としての都心のショッピングモールというのはどこか皮肉めいたものを感じるのは私だけだろうか。
 都心の空洞化を解決しても、結局は大手資本に回収されることとなり、商店街VSショッピングモールの二項対立的な図式は残ったままだ。これを是として捉えるか否として捉えれるかは、人によって分かれるだろう。
 
 読んで気になった点を一つ。

 本書で登場する街はほとんど首都圏のみである。
 このような点から、ショッピングモーライゼーションは結局大都市圏でしか機能しないのではないか。
 そのような疑問が浮かんでくる。
 本書において著者は語っていないが、地方でもショッピングモーライゼーションの動きは見て取れるのだ。
 本書を補論する形で、地方のショッピングモーライゼーションの事例を紹介したい。

 香川県高松市丸亀町商店街が、そうである。


 3.補論



 香川県高松市の商店街アーケードの長さは総延長約2.7kmで日本最長。、兵庫町商店街、片原町商店街、高松丸亀町商店街、ライオン通商店街、南新町商店街、トキワ新町商店街、常磐町商店街、田町商店街から構成されている。
 例によって例のごとく大規模小売店舗法等により、影響を大きく受け、シャッター商店街となっていた。
 これに危機感を感じた高松丸亀町商店街振興組合が再開発に乗りだした。高松丸亀町商店街再開発である。1995年に1日に2万8000人を記録した通行量は、その後9500人にまで落ち込んだが、現在2万5000人に持ち直している。
空き店舗率は、なんとゼロである。加入テナントは、昔ながらの商店はほぼなくなり、若者向けのチェーン店が多く入っている。
 メインストリートには、直径25メートルの大きなガラスのドームに覆われた広場に作り変えられ、イベント空間となっている。ガラス天井で覆われた遊歩道の両側には西欧風テーマをベースに3階建ての建築物が並び、吹き抜け構造となっている。雨を気にせず、歩けるようになっている。
 ここで面白いのが、丸亀町商店街はショッピングモーライゼーションと言えるのだが、隣接する南新町商店街は、何も変わらない既存の商店街にである。しかし、通行量が増えている。丸亀町のショッピングモールを起点として、既存の他の商店街に人が流れるという面白い現象が起きている。
 ここで大事なことはショッピングモールによる排他性を持ちつつも、一定の開放性を持つ、ということだろう。排他性のあるシームレスな空間。相対する概念であるが、しっかりと人の流れをコントロールすれば、既存と新規の共生が可能なのではないか、と思う。


 



丸亀町街の記述は下記サイトのおかげです。
参考HP
『中心市街地のにぎわいを取り戻す:復活を遂げた高松丸亀町商店街』
https://www-nippon-com.cdn.ampproject.org/v/s/www.nippon.com/ja/in-depth/d00466/amp/?amp_js_v=a3&amp_gsa=1&usqp=mq331AQFKAGwASA%3D#aoh=15977275452714&referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com&amp_tf=%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B9%3A%20%251%24s&ampshare=https%3A%2F%2Fwww.nippon.com%2Fja%2Fin-depth%2Fd00466%2F

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