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第5回 Torus-(a,b)-Leaper

前回の続きです。


前回、例4.1でトーラス盤上の桂を考えました。同様に、トーラス盤上の$${(a,b)\textrm{-Leaper}}$$を考えます。

まずは、以前に定義した$${(a,b)\textrm{-Leaper}}$$とその性質を復習しましょう。

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定義(Leaper)
整数$${a,b}$$に対し、$${(a,b)\textrm{-Leaper}}$$を下記で定める。

$$
\begin{align*}
&(a,b)\textrm{-Leaper} \\
=&\{(\pm{a},\pm{b}), (\pm{b},\pm{a})\} \;\; \text{\small{(複号任意)}} \\
=&\{(a,b), (-a,b), (a,-b), (-a,-b), \\
&\;\;(b,a), (-b,a), (b,-a), (-b,-a) \}
\end{align*}
$$

簡単のため、$${L(a,b)}$$と表記することにしました。
定義から下記が成り立ちます。

$$
\begin{align*}
&L(a,b) \\
=&L(-a,b) \\
=&L(a,-b) \\
=&L(-a,-b) \\
=&L(b,a) \\
=&\cdots
\end{align*}
$$

つまり、$${L(a,b)}$$は引数の符号を反転させても順番を逆にしても不変です。

ーーーーーーーーーー

無限盤上の$${L(a,b)}$$は$${\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}}$$の部分集合でしたが、これを$${\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/9\mathbb{Z} }$$の部分集合と見なせば、$${9\times9}$$トーラス盤上の$${(a,b)\textrm{-Leaper}}$$になります。

つまり、下記の右辺で$${9=0}$$のルールが適用できる、と考えるのがトーラス盤上の$${(a,b)\textrm{-Leaper}}$$です。

$$
L(a,b)
=\{(\pm{a},\pm{b}), (\pm{b},\pm{a})\} 
$$

少し具体例を計算してみましょう。

例5.1
$${9\times9}$$トーラス盤上の$${(1,6)\textrm{-Leaper}}$$は

$$
\begin{align*}
&L(1,6) \\
=&\{(\pm{1},\pm{6}),(\pm{6},\pm{1})\} \\
=&\{(1,6), (1,-6), (-1,6), (-1,-6), \\
&\;\;(6,1), (6,-1), (-6,1), (-6,-1)\} \\
=&\{(1,-3), (1,3), (-1,-3), (-1,3), \\
&\;\;(-3,1), (-3,-1), (3,1), (3,-1)\} \\
=&L(1,3)
\end{align*}
$$

と書き下せる。なお、上記では$${6=-3}$$や$${-6=3}$$を使用している。当然、トーラス盤上でも$${L(a,b)=L(a,-b)}$$が成り立つことがわかる。

例5.2
$${9\times9}$$トーラス盤上の$${(9,10)\textrm{-Leaper}}$$は

$$
\begin{align*}
&L(9,10) \\
=&\{(\pm{9},\pm{10}),(\pm{10},\pm{9})\} \\
=&\{({0},\pm{1}),(\pm{1},{0})\} \\
=&L(0,1)
\end{align*}
$$

である。

これまで、「トーラス盤上の駒」という表現を使っていました。

フェアリー詰将棋では、ある駒$${A}$$だけがトーラス盤にいるかのように振る舞い、それ以外の駒は通常通り動く、という問題設定があります。その場合、駒$${A}$$を$${\textrm{Torus-}A}$$と呼びます。つまり、トーラス盤とは、盤上の任意の駒$${A}$$が$${\textrm{Torus-}A}$$であること、と解釈できます。

「トーラス盤上の$${A}$$」と表記するのは面倒なので、今後$${\textrm{Torus-}A}$$と書く場合があります。

ところで、例5.1と例5.2ではわざわざ$${L(a,b)}$$を$${\{(\pm{a},\pm{b}), (\pm{b},\pm{a})\}}$$と書き下してから$${9=0}$$の関係式を使っていましたが、実は$${L(a,b)}$$の表記の段階で$${a}$$や$${b}$$に$${9=0}$$のルールを使用する事ができます。

例えば、$${10=1}$$より$${L(2,10)=L(2,1)}$$と直接計算して問題ありません。

それは、$${(a,b)\in\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}}$$から$${L(a,b)\subset\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}}$$を作る写像を$${L}$$、$${\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}}$$から$${\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}}$$への標準写像を$${\pi}$$、$${\pi}$$から自然に定まる写像$${2^{\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}}\to2^{\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}}}$$を$${\overline{\pi}}$$としたとき、$${\pi}$$の普遍性から写像

$$
\overline{L}\colon\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}\longrightarrow2^{\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}}
$$

がただ一つ存在し、下記の図式が可換になるからです。

本記事では、$${\overline{\pi}\circ{L}}$$のことを$${\textrm{Torus-}(a,b)\textrm{-Leaper}}$$と定めています。

$$
\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}\overset{L}{\longrightarrow}2^{\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}}\overset{\overline{\pi}}{\longrightarrow}2^{\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}}
$$

これが$${\overline{L}\circ\pi}$$と等しいので、$${L(a,b)}$$の$${a,b}$$を$${\mathbb{Z}/9\mathbb{Z}}$$の元と考えても、最終的な計算結果は変わりません。

なお、$${\overline{L}}$$を$${\textrm{Torus-}(a,b)\textrm{-Leaper}}$$と定めるのも自然に見えるのですが、今後$${P(n)\textrm{-Leaper}}$$を定義するときに少し困ることがあり、$${\overline{\pi}\circ{L}}$$のことを$${\textrm{Torus-}(a,b)\textrm{-Leaper}}$$としています。

次回は$${9\times9}$$の$${\textrm{Torus-}(a,b)\textrm{-Leaper}}$$の分類を考えます。


次回はこちら。


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