見出し画像

卒業の裏を見たことがあるか

めちゃくちゃ早い一年だった。今年は花粉症がひどい。去年も同じようなことを言っていたな、と思いつつ鼻をかむ。憂鬱なようで、狂ったように寒かった冬を脱出できたことは喜ばしいことだった。
まだ桜は咲いていなかったが、確実に春が来ていた。

「卒業式に今年は在校生も出席する」と聞いたとき、私は怪訝な顔をしたに違いない。知らない先輩の名前がつらつらと呼ばれて返事をする苦痛を味わないといけない。暇が嫌いだ。だから卒業式は嫌いだ。ましてや接点ない人のなんて。
自分の時すら友達の名前が読み上げる時がもどかしいというか、早く終われ、と思った。
それでも卒業式という大きなイベントは少し面白いところがある。服装だ。
いっつもジャージで授業している体育の先生もよくわかんないアニメの服着ている理科の先生もスーツだ。なんだか似合わなくて面白い。
ただ、癒しは本当にそれくらいだ。

放課後、なぜだったか思い出せないが卒業生の教室を通った。恐ろしいことにみんな帰ってたのだ。荷物すらない空っぽの教室はどこか恐ろしかった。全クラス見たが、全部揃ってそう。
ただ、最後のクラスは1人ポツンと立っていた。誰だろう、ともならなかった。一目見てわかる。校長だった。
西陽が当たる教室に、物憂げに立っていた。そして徐に机を揃えた。時折立ち止まり、縦と横が合っているか確認した。なんか見てはいけないものを見た気がして、私はその場を立ち去った。

それだけだ。ただ、それだけなのに、なんかノスタルジックな風景だった。どっかの映画のワンシーンのような光の入り方、空気の冷たさだった。
校長はフカフカなクッションにドスンと座って腕組んでる私のイメージが大きく変わった。

そうして卒業式。私は体育館に向かった。グラウンドでは多分卒業生だろう、最後のサッカーをしていた。歳を取ってこの光景を見たらおそらく涙腺ぶっ壊れる。少人数だったので仲良し組なのだろうか。微笑ましい光景だった。

コロナ禍だからか、卒業式は名前を呼んだりいろんな人の話だったりが短くなっていた。ぼーっとすれば終わる式だったと思ってたから、あれれ、と思った。
式のことはあまりよく覚えてない。友達のお兄ちゃんが呼ばれた時に初めて兄弟がいたことを知ってビックリしたぐらいだ。

泣いている人は少しいた。でもほとんどは親だ。
親も先生も結局役割はあまり変わらないんじゃないかな、と思う。どっちも子供を立派に自分の元を巣立つように育てるんだから。校長の机を並べる姿はたまたま見てしまったけど、おそらく親も先生も陰で同じようなことをしているはずだ。
ただ、泣いている先生は見なかった。

式が終わると写真撮影にうつる。私はその様子を離れたところから見ていた。私より高校生をしていた。中学校では見られなかった、これ以上ない、はしゃぎっぷりだ。めちゃくちゃ絵になってるし青春だな、と思った。

少し前まで卒業といえば桜だったらしい。今は入学にフェードアウトしている。きっと先輩たちがどっかの大学に入学するころには桜が咲いているのだろう。暖かい陽の光が差していた。
桜はまだ咲いていなかったが、確実に春が来ていた。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?