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『自然知能』(外山滋比古・著)

 1983年に刊行された“旧い本”でありながらも、現在も大学生など若者に人気の『思考の整理学』(ちくま文庫)をはじめ、著作に学ぶことが多くあります。
 2020年7月に亡くなられた著者の新刊『自然知能』(扶桑社・刊)です。

 帯に書かれていた

大ベストセラー
『思考の整理学』著者が遺した
幻の1冊!
 人工知能(AI)は泣くことも笑うこともできない
生まれ持った能力(NI)を誇れ!

「幻の1冊」が気になりました。
 亡くなられる前に書かれたものでしょうが、AI(人工知能)が話題になってからでしょうし、古くはなさそうなのに“幻”とは…。

 巻末の「刊行にあたって」で、外山みどり氏(著者の長女)が、本書について

(略) 外山滋比古本人が、死の三年前、二〇一七年の春頃に執筆したものである。その原稿は、未完のまま、扶桑社内に保管されていた。
(略) ただし本書が、人工的な技術の産物であるAIの進歩に対する漠然とした危機感から出発して、人間が本来持っている広い意味での知能、自然知能と呼べるようなものの重要性を論じ、人間が潜在的にもつ能力の花王製を伸ばし、開花させるのはどうすればよいのかを考えつつ書かれたものであることは確かである。

と紹介しています。

 「自然知能」という言葉は、「人工知能」という言葉に対して、外山氏による造語(言葉)で、人間が生まれながらにして持っている“知能”のことを意味しています。

 見開き左ページから始まり、さまざまな話題、視点についてコンパクトに述べられたエッセイ集です。
 見出し、小見出しから、気になるテーマから読むのがお勧めです。
 AIの進歩、生活へ浸透している今、あなたの“自然知能”について考えてみませんか。お薦めの一冊です。


 読書メモより

○ 人工というのは、自然に対比されることばである。人工知能というからには、自然知能がはっきりしていなくてはおかしい。
○ 自然知能を引き出すのは、時間との競争である。ぐずぐずしていれば、取り返しのつかないことになる。大変残念だが、そういうことを考える思考力がなかったのだから、しかたがない。
○ 日本にはソロバンという便利なものがあって、数字処理に苦労しなかった。(略)
 計算機は、そういうソロバン文化を亡ぼしたのである。ソロバンのよいところも忘れようとしている。
○ 人工知能とは別の、それよりも先に存在する自然知能というものをはっきりさせ、新しい人間の出現を期待する人間がなくてはならない。
○ 人間の持っている自然知能を充分に発揮するには、よけいな知識を持たないことである。
おもしろそうなことを見つけるのは大した才能で、自然知能の中でも、とくに重要なものであると考えてよい。
○ 日本人、かつての日本人にとって、足し算、引き算の暗算は自然知能だったのである。
○ いったん捨てられた自然知能、ふたたび蘇ることはないであろう。
○ いちばんの問題は高齢者の生活力であり、それを支える経済である。生活力は自然知能によって支えられている部分が多い。年を取るとその自然知能も働きが悪くなる。しかし、それを改変、改良するなどということは考えられもしない。
○ 人工知能は泣くこともできないし、ましてや、おもしろいことがあっても、笑うことはできない。
○ その“おもしろさ”の感覚が成長するのは、幼少のころに限るということがポイントで、万人が天才的可能性を持って生まれてくるのに(略)
○(略) 忘れっぽい頭は、ものを知らない頭と同じように、新しいものを取り入れることができる。頭がよくなるのである。忘れる頭もよい頭であるということになる。
○ 「目で考える」と言われた日本人が、「手で考える」人間であることを示しつつあるように思われて愉快である。
○ 子供は、ことばについても、溢れるほどの自然知能を持って生まれてくる。なるべく早く、それを引き出す必要がある。
○ 自然に生まれた子守歌に比べて芸術としてつくられた童謡が見劣りするのは是非もない。
○ 歩くのは、自然知能による思考力の強化にとって、かけがえのないものであるということを認めてもよいのである。

   目次

01 “自然”知能が泣いている
02 生まれながら
03 人工知能
04 生得的能力
05 気配察知
06 リズム
07 計算力
08 経験知
09 マイナスがプラス
10 愉快力
11 忘却力
12 嗅覚
13 味覚
14 手のはたらき
15 口のきき方
16 聞き分け
17 しゃべる
18 歩く
刊行にあたって 外山みどり

【参考;これまでの記事】
  ◇『日本語の個性』(外山滋比古・著)(2020/09/11  集団「Emication」)
  ◇『消えるコトバ・消えないコトバ』(外山滋比古・著)(2020/02/19 集団「Emication」)
  ◇『100年人生 七転び八転び ―「知的試行錯誤」のすすめ』(外山滋比古・著)(2019/07/20 集団「Emication」)
  ◇『老いの整理学』(外山滋比古・著)(2017/07/01 集団「Emication」)

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