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『和算に恋した少女』(中川真・脚本/風狸けん・作画)

 図書館の書架に、“和算”がタイトルにある『和算に恋した少女』(ビッグコミックス/小学館・刊)が1~3まで並んでいました。
 2011年~14年頃にビッグコミック誌に掲載されていた作品で、2013年から3年、1月30日に発行されたものでした。
 面白そうなので、3冊まとめて借りました。

 江戸時代に隆盛を極めた日本独自の数学「和算」。和算家の父に育てられた主人公・米倉律(よねくら りつ)は、ひょんなことから知り合った南町奉行同心で、飄々とした中年男・深井転(ふかい うたた)とともに江戸で起こる難事件を次々に解決していく。
 律の目にはすべてが和算の問題に写り、問題を解くことは三度の食事より歌舞伎役者より大好き! そしてその夢は、失踪した父といつか巡り会うこと…… 計算によらず思考で勝負する、思わず解きたくなる問題が全編にちりばめられた和算ミステリードラマ。

 みなさんは、神社や寺院を訪れたときに「算額」を目にしたことはないでしょうか。
 江戸時代、武士も町民も一緒になって楽しみ、競ったものの一つに「和算」があり、その問題や解法を“絵馬”にして神社や寺院に奉納されました。

 「第1話 美しい形」で、すぐに風神社の算額が登場します。それを見た南町奉行同心の深井転が、「なんだァ、この妙ちきりんな図は? これでも絵馬か?」と口にすると、

 算額ってんだそうです、なんでも算術好きが解いた問題を額にして奉納するんだとか。
 その額を奉納した侍と見てた娘が口論してんですよ。

と説明を受けますが、「どうやってケンカすんだ、そんなもんで!?」と。
 侍と口論した娘が、主人公の米倉律、和算家の父に育てられた、三度の飯より問題を解くのが大好きな少女です。

 ある日、殿から、旅に出ている父親から預かったという言葉を伝えられます。

 「算数の心は学ぶものではない」
 いいかい律、おまえは算数で算数はおまえなんだ。
 計算の作法なんかいつだって学べるんだ。
 それより自分の心に問うてごらん、「」とはいったいなんなのか。
 どうしておまえの心の中に、この世の中のどこにもない「まんまる」はあるのか。
 そして──。
 「己の心一つをもって思うさま算数の世界で遊ぶがよい」

 父親が言葉通り、律は“算数の世界で遊び”、その目、その発想をもって、日々を過ごしいきます。


 江戸を舞台に、さまざまな問題を、算術(和算)を使って解決していきます。和算の面白さが伝わってきます。
 「算数、数学は苦手だから…」という方も、律の“解決・解法”を、そのミステリーを、楽しむことができます。
 みなさんにお薦めのマンガです。


【おまけ】
 本書の登場人物について、「マンガペディア」に紹介がありました。その一部を転載します。

    米倉 律 (よねくら りつ)
 和算家の父に育てられた算術家の少女。頭脳明晰で気が強く、怖いもの知らず。普段は算術塾で和算を教えている。算術を使って江戸の町で起こる様々な事件を解き明かしていく。失踪した父親が残した算額を解くため、独学で日々算術の腕を磨いている。広いオデコが特徴。

    深井 転 (ふかい うたた)
 主人公・米倉律の相棒。南町奉行同心の中年男。ひょんな事から律と出会い、江戸で起こる様々な事件をともに解決していく事になった。普段はボケっとして頼りないが、洞察力に優れ、いざという時に頭が切れる。御奉行のお節介により、律の算術塾で和算を習っている。

    米倉 円 (よねくら まどか)
 主人公・米倉律の実父。和算家。人並み外れた算術の才能を持ちながら、どの流派にも属さず、独自の算術の世界を築き上げた男。10年前、自分の研究ノートを律に残し、旅に出たまま行方不明になっている。

    御奉行 (おぶぎょう)
 深井転の上司で、主人公の米倉律をヒイキにする人物。律の算術の腕を見込み、江戸で起こる難事件の解決を依頼してくる。深井を律の塾に入塾させコンビを組ませるなど、何かと深井を振り回している。優しくおちゃめな性格で、律にかなり懐かれている。

    建部 彦次郎 (たけべ ひこじろう)
 和算最大の流派「関塾」の塾頭。どこの塾にも属さない米倉律を関塾に誘うも、いつも断られている。律が生み出す独特の算術世界に魅了されながらも、その浮世離れした才能に恐怖を感じている。

    関 孝和 (せき たかかず)
 和算最大の流派「関流」をつくった人物で、算聖と称される。米倉律に自分の正体を明かさずに、算術が得意なただの通りすがりとして、何かとヒントを与える。モデルは実在の和算家・関孝和。

    有馬 (ありま)
 米倉円を知る大名。主人公・米倉律の算術の腕に目を留め、「天元術」の技比べに招待する。実は律の父・米倉円をよく知る人物で、円から律へのメッセージを託されていた。算術家として挫折している律を呼び出し、父の言葉を伝える。

    ヤン・ゼンデン
 長崎・出島の和蘭陀商館の最高責任者。江戸参府のため長崎からやってくるが、惚れた女性を探しだすため行方をくらます。その途中で律に出会い、互いの国の数学について語り合う。実は長崎で律の父親に会っており、その時譲り受けた物差しを律にプレゼントした。

    光圀 (みつくに)
 主人公・米倉律を誘拐し、律の塾生である子供たちを人質に算術の腕試しをする。見事にお題をクリアした律に感銘し、水戸や江戸を騒がしている天狗の正体を突き止めるため、協力を求める。モデルは水戸黄門こと徳川光圀。

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