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『コロナ漂流録』(海堂尊・著)

 新型コロナ禍に、海堂尊氏の『コロナ狂騒録』『コロナ黙示録』を読み、そこに描かれる社会・政治の姿を“今”と重ねました。
 そして3作目となる『コロナ漂流録』(宝島社・刊)です。
 新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが“5類感染症”となったことで、このシリーズも完結でしょうか。
 本書も、東城大学医学部の田口公平氏を中心に、これまでと同じ顔ぶれで、2022年6月から2023年1月までの出来事に合わせ、桜宮市、東京、浪速で活躍しています。
 その中に、第1部のタイトルになっている“暴走ラッコこと洲崎洋平が加わり、職場や働き方、思考を揺さぶっていきます。

 田口公平に高梨学長から、部屋の交換を提案され、初めての部下となる洲崎洋平を授けられるところから始まります。

 未知のウイルスが露わにしたものは――
 厚労省の変人役人vs中抜きハイエナ!?
 東城大学医学部付属病院に新しく赴任してきた中堅医師・洲崎は、医師のワークライフバランスを主張。
 さらに、病棟に「効果性表示食品」を導入しようとし、上司である田口医師と対立して……。

(あらすじ)
 2022年7月――コロナ新規感染者は一日10万人を超えていた。
 第7波、第8波と、波状攻撃で新型コロナウイルスは日本社会に襲いかかる。
 医療現場は医療崩壊の状況を超え、今や「医療麻痺」に陥っていた。
 その頃、ホスピス病棟とコロナ病棟の責任者を兼務している田口公平は、新任の中堅医師・洲崎に手を焼いており、この問題を解決するため、禁断の一手、厚生労働省の白鳥圭輔を東城大に召喚するが……。

 安保元首相の襲撃事件、奉一教会問題、ワクチン開発業者、効果性表示食品、浪速万博…。
 どれも、「あの話は…。」と、その頃の出来事が思い浮かびます。

 新型コロナウイルス感染症が、この国を“変えた”のか、変わってきていなことが“表に出た”のか…。
 著者の立ち位置で読むのか、著者に論争を挑むのか…。
 いろいろな読み方のできる、今を並走する物語です。お薦めの3部作です。


 読書メモより

○ 新型コロナウイルス・Covid-19は、世界の様相を一変させた。
○ こうして見ると、「コロナ」という言葉は、人々を思考停止に陥らせる魔法の呪文だと思う。
○ 「政府のコロナ対策は二転三転、右往左往していたよね。コロナ対策で三代目となる国崎首相は、聞く力といいながらその実、聞き流す力だからなあ」
○ 「桜宮駅前広場で演説していた安保元首相が狙撃され、佐藤部長が対応中だそうです」
○ 「洲崎センセ、この文章には医学的に大問題があります。さて、それは何でしょう」
○ それを受けて二日後、「梁山泊」の主要メンバーに、久々に本格的な招集が掛かった、
○ 「それは素人に消費者庁が安全や効果を担保しているように見せかける詐術なんだよ。仕切りは(略)
○ 「さすがに『エンゼル創薬』もジ・エンドです。僕は白鳥さんを出し抜きましたが、『浪速万博』にトドメを刺したのは結局、別宮さんの記事でしたね。恐れ入りました」
○ 市民はそうした光景に慣れた。いや、慣らされてしまった
○ 無力感を抱えた市民は無関心になり、権力者はやりたい放題をしている。
○ それなら俺も、たとえ見苦しく老残の身を晒そうとも、足掻き続けてみようか、とふと思う。
 若者は軋轢を恐れず、新しい社会の仕組みを作るために邁進してほしいものだ。
 たぶん年寄りには不快で、目障りな存在である若者こそ、未来の希望なのではないか。

   Contents

第1部 暴走ラッコ
 1章 衝撃の提案 2022年6月3日 東城大学医学部旧病院「黎明棟」・学長室
 2章 規格外の新人類 6月6日 旧病院「黎明棟」2F・医局員室
 3章 吹き荒れる青嵐 6月30日 旧病院「黎明棟」・学長室
 4章 二発の銃弾 7月8日 旧病院「黎明棟」・学長室
 5章 狙撃の真理 7月25日 旧病院「黎明棟」・学長室
 6章 問題児大集結 8月15日 旧病院「黎明棟」2F:医局員室
第2部 弔鐘
 7章 混沌たる盛夏 8月17日 時風新報社会部
 8章 補助金パラダイス 9月10日 浪速・菊間総合病院
 9章 黎明の謀反 9月21日 旧病院「黎明棟」・学長室
 10章 女王陛下の国葬 9月19日 旧病院「黎明棟」・学長室
 11章 大宰相の国葬儀 9月27日 旧病院「黎明棟」・学長室
 12章 誰がための弔砲 10月3日 桜宮海岸・「シー・パイナップル」
 13章 「緩和ケアユニット」創設 10月20日 旧病院「黎明棟」2F:医局員室
 14章 白鳥、愚痴外来を受診す 10月20日 旧病院「黎明棟」・学長室
 15章 創薬詐欺師のソネット 10月20日 旧病院「黎明棟」・学長室
第3部 ハイエナ退治
 16章 浪速奪還プロジェクト 11月7日 浪速・菊間総合病院
 17章 確研四天王の饗宴 11月22日 霞が関・中央合同庁舎二号館B1・捜査資料室
 18章 電光石火・鎌形班、再見 12月4日 浪速・帝山ホテル料亭「荒波」
 19章 ドラキュラ・エンゼル 12月8日 浪速大・インキュベーションセンター
 20章 赤い蝶のサンバ 12月16日 関西国際空港
 終章 天災と人災 2023年1月15日 東城大学医学部旧病院・不定愁訴外来
参考文献・資料


【関連】
  ◇海堂尊公式ホームページ

【海堂尊氏の本】
  ◇『医学のつばさ』(海堂尊・著)((2022/01/30 集団「Emication」)
  ◇『医学のひよこ』(海堂尊・著)(2022/01/23 集団「Emication」)
  ◇『コロナ狂騒録』(海堂尊・著)(2021/12/17 集団「Emication」)
  ◇『医学のたまご』(海堂尊・著)(2021/12/04 集団「Emication」)
  ◇『トリセツ・カラダ』(海堂尊・著)(2020/08/08 集団「Emication」)
  ◇『コロナ黙示録』(海堂尊・著)(2020/08/01 集団「Emication」)


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