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『おばちゃんに言うてみ?』(泉ゆたか・著)

 先日見たテレビ番組で

 大阪には派手なヒョウ柄の服を着たおばちゃんが多いという話をよく聞く。しかし、街中で見たことがない。ヒョウ柄のおばちゃんは本当にいるの。

と取り上げていました。
 その番組では、街中では出会えなかったようで、すでに“絶滅危惧種”となっているのかも…。
 みなさんが出会ったのは、いつでしたか。

 本書の“おばちゃん”は、

 ヒョウ柄のおばちゃんが…(略) 蛇柄スパッツに覆われた逞しいふくらはぎが…(略) 首にはショッキングピンクのおはじきを繋げたみたいなネックレス。耳には地球を模した青くて大きなイヤリング。斜め掛けにした…(略)

と、典型的な姿です。
 そんなおばちゃんが主人公(?)の『おばちゃんに言うてみ?』(新潮社・刊)です。

 カバーを広げると、おばちゃんを先頭に、4人の女性、そして男性が続き、列になって走っているようです。
 おばちゃんと5人の物語が始まります。

溜め込んだらあかんよ。人に話したら、そんだけで楽になんねんで。
 東京から大阪の夫の実家近くに引っ越し、関西のノリについていけず疲れ果てた沙由美。モデルの仕事を餌に、詐欺師まがいの男にマウントされる華。ネグレクト育ちで転売ヤーとして荒れた生活を送る達也。
 大阪は岸和田のおばちゃん・小畑とし子が人生の袋小路で立ち往生する人々の背中をドンと押して勇気づける、抱腹絶倒&ちょっとほろりのヒューマンドラマ!

 おばちゃんの名は、小畑としこ。岸和田で義母、夫、息子と暮らす主婦です。そして、芸能事務所に所属するタレントです。

 とし子さんは、大阪のおばちゃんについて、こう言います。

 うち、平気やで。大阪のおばちゃん、やから。どんなしんどいことがあっても、大阪のおばちゃんはいっつもにこにこ日本の太陽や!

 この元気なおばちゃんが、出会った5人に話しかけ、話を聞き、引き回し(?)ます。

 おばちゃんが沙由美の掌の中に次々に飴を捻じ込んだ。
「なんか悩んでることあんなら、おばちゃんに言うてみるか? あんまし溜め込んだらあかんよ。人に話すと、そんだけで結構楽になんねんで」
 見ず知らずの人に甘えるなんて嫌でたまらないのに、涙は後から後から流れ出す。

 おばちゃんの元気が、相手の心を開き、心のなかに“光”を注ぎます。

 でも…。
 とし子は「大阪のおばちゃん」なのか、“大阪のおばちゃん”を演じているおばちゃんなのか…。
 沙由美、華、達也、光代…、それぞれの話を聞き、話をし、行動するうちに、とし子の人生、生活が見え…。

 すぐ近くに“大阪のおばちゃん”がいるのは、ちょっとしんどいかもしれません。
 でも“とし子おばちゃん”には、逢ってみたい。

 ちょっと疲れた方、元気がなくなっている方、大阪のおばちゃんが語る“大切なこと”を味わってみませんか。

   目次

岸和田でヨガ
代官山酵素スムージー
道頓堀の転売ヤ―
宝塚のティッシュケース
だんじり祭

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