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『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(杉本昌隆・著)

 昨年(10/11)、第71期王座戦五番勝負に勝利し、藤井聡太八冠が誕生しました。
 その後、AIの評価値が6%から96%への大逆転となった「神の一手」が話題となり、これまでの歩みが情報番組で紹介されています。

 八冠誕生より少し前、“藤井さんの師匠” 杉本昌隆八段の『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』(文藝春秋・刊)を手にしました。
 本書は、週刊文春に連載中のコラム「師匠はつらいよ」の第1回から第100回までをまとめたものです。

 次々とタイトルを奪取し、将棋界を席巻する天才・藤井聡太。その師匠である著者が、瞬く間に頂点に立った弟子との交流と、将棋界のちょっとユーモラスな出来事を綴ったエッセイ集。
 週刊文春連載を単行本化。藤井聡太とのエピソード満載!
 先崎学九段との対談「藤井聡太と羽生善治」も特別収録。

 第1回の掲載は2021年4月8日号で、この時、弟子は“二冠”で、第100回(2023年4月27日号)には“六冠”でした。

 コラム連載の中で“驚異的なスピードで勝ちを積み重ねる”弟子の姿、弟子への思いが、その時ならでは“筆”となっています。
 『第3回 「一厘」の差』は、日本将棋連盟から功績を残した棋士に与えられる「将棋大賞」のことから始まっていました。この時(2021/4/1)に「最優秀棋士賞」が藤井二冠に決定し、「東京将棋記者会賞」に杉本氏が選ばれたそうです。
 このことがニュースになったのでしょうが、“最年少でのタイトル二つ”という驚きから、そして、次のタイトル(叡王)をいつ取るのかが話題になっており、本書を読むまで知りませんでした。
 将棋界の“その時”に、とても興味がわきました。

 著者は、インタビューで、この連載コラムについて次のように述べています。

 毎回毎回、藤井聡太七冠(20)の話を書く必要はない-。
 将棋界の大スター・藤井七冠の師匠が『週刊文春』でのエッセー連載を引き受けた条件だ。「毎週自分の話が載るのは藤井七冠も嫌だろうし、自分も弟子をエッセーの題材として見てしまう。お互いに良くない」と説明する。

 本書に“藤井聡太のいる日常”とあり、表紙には和服姿の師匠とスーツ姿の弟子が描かれ、読者は「あの弟子」のことが気になります。
 しかし、毎回の連載に登場するのは、筆が進まないでしょう。
 この条件で、コラムには、将棋教室などでの指導のこと、理事としての仕事、少し前の将棋界のこと、門下のこと、棋士や女流棋士のこと、棋士の食事などなど、さまざまな将棋にまつわる話が出てきます。将棋のことも難しい話は出てこないので、将棋ファンでなくても楽しめます。

 藤井八冠の成長に合わせ、第1回から順に読むのがお勧めですが、著者のテンポよい文章は読みやすく、興味のあるタイトル、時期を選んで読むのもよいでしょう。

 著者の「一話に最低一回、皆さんがクスッと笑う、また(ほほう)と感心するような内容にしたいものだ」とした文章にクスっとし、そして、“この師匠だから”の温かい話題にホッとします。
 みなさんにお薦めの一冊です。

   目次

まえがき
第1回 出会いの季節
……
第10回 一門の不文律?
……
第17回 藤井二冠の“弱点”?
特別編 先崎学×杉本昌隆 「藤井聡太と羽生善治」
第18回 棋士に向いている五輪競技?
……
第50回 兄弟子の引退に思う
……
第75回 将棋を愛する人たち
……
第99回 少数派は肩身が狭い?
第100回 連載百回の“感想戦”

【関連】
  ◇杉本昌隆 Masataka Sugimoto(日本将棋連盟 棋士データベース)
  ◇師匠はつらいよ(週刊文春 電子版)
  ◇藤井聡太 Sota Fujii(日本将棋連盟 棋士データベース)

  ◇将棋・藤井聡太八冠の最新ニュース・特集(日本経済新聞)
  ◇藤井聡太に関する最新ニュース(朝日新聞デジタル)

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