【第5回】ベンチャー・研究者のための試作・製品化サポート~地域企業への橋渡しとその先に目指すもの~<前編>
こんにちは!つくば研究支援センター(Tsukuba Center Inc.)のnote編集部です。note第5回は、当社が茨城県と取り組む「ベンチャー・研究者のための試作・製品化サポート」事業を特集します。
<前編>ではこの事業の背景や目的、そしてその先に目指しているものをご紹介し、次回の<後半>では本年6月に開催した「ものづくり交流会inつくば -3rd」のレポートを通して、この取組みの盛り上がりをお伝えします。
研究者やベンチャー企業が地域企業と生み出す新たな産業への期待
背景とこれまで
筑波研究学園都市は世界有数のサイエンスパークであり、ここには様々な国籍の研究者やその家族、約8,000人の博士号保有者や将来を期待される若き研究者・学生が住んでいます。半世紀前に国家プロジェクトで作られたこの研究学園都市は、昔からこの地で事業を営んで来た人々と新たに国内外から流入してきた人々が共に暮らす、ダイバーシティが生活に根付いているまちでもあります。
少し周りに目を向けると、茨城県内にはつくば以外にもキラリと光る企業がたくさん存在しており、ものづくりが盛んな地域もたくさんあります。公益財団法人いばらき中小企業グローバル推進機構がまとめた「茨城県ものづくり企業ガイドブック」では高度なものづくり技術を有する中小企業167社が紹介されています。
工場や機械、熟練した技術者を擁するこれらのものづくり企業と、有望な研究シーズを有する研究者やハードウェアを製作するつくばのベンチャー/スタートアップ企業を有機的につなげ、“この地に新たな産業を生み出す”ことは、長年の課題であり目標でした。
これまでも、行政を中心に、企業と研究者等が連携して研究開発を行うための補助金など産業創出に向けた公的な支援が行われてきましたが、私たちつくば研究支援センターは、少し違う方法でこの目標にアプローチすることとしました。
私たちのアプローチ:大切にしていることと目指すもの
ものづくり企業が新しい製品開発や産業創出に取り組むにあたり、補助金ありきの体制で進めていくのではなく、研究成果を形にするための製品受注やベンチャー企業のプロトタイピングの受注など、地元企業が自立可能な事業として行う中から、最終的に地域に新たな産業が生み出せればと考えました。
すなわち、「受注して納品して対価を得る」という当たり前の経済活動から逸脱せず、事業活動として相互に関係性を構築してもらうことを出発点としました。
例えば、研究者が研究成果を装置として形にしたいと考えれば自分の研究費から対価を払って企業に製造を発注するし、新製品を開発したファブレスのベンチャー企業は、借入れや助成金などで資金を調達して、ものづくり企業に製造を委託し対価を支払うことになり、商流が生まれます。
“この地に新たな産業を生み出す”という大きな目標は、一朝一夕で達成できるものではありません。健全かつ自立可能な経済活動を育てていくために、まずは新たな技術や開発に関わるものづくり関連の受発注数をふやすことを短期的な指標としました。地域における産業創造という大きな目標は、地道な実績の積み重ね、地域における継続的な企業取引の先に達成されるものと考えています。
地域のものづくり企業が、最先端の研究開発成果のプロトタイピングやハードテック・ベンチャーの製品化を実現する
まだ始まったばかり
今年の7月で、本格的にこの取り組みを始めて1年、まだ始まったばかりです。昨年(2022年)の初夏に、茨城県内のものづくり企業に企画の趣旨を説明して、参加を呼びかけ始めました。1年間かけて種をまき、実際の受発注に繋がるのはまだ少しだろうと考えていましたが、思っていたより早く、かつ多くの案件が動き出し、実際に具体的な取引に結び付きました。
想定よりも良い結果を得ることができた背景には、「研究者」「ベンチャー企業」と「ものづくり企業」の両方の立場や実情をよく知り、両者を繋ぐ役割を担う「コーディネーター」の活躍があります。
また、ご協力をいただいた各研究機関が内部で広く研究者の方々に呼びかけるなど多くの支援を頂いたことも好影響をもたらしました。
さらに、当社がコンタクトすることが難しい県北の企業に対しては、同じく茨城県内の産業振興機関である日立地区産業支援センターやひたちなかテクノセンターのコーディネーターが力を貸してくださいました。
研究者・ベンチャーからの依頼(発注)が出発点
世の中にニーズがあり、それを解決する技術があることを知ったとしても、リソースに余裕のない中小企業が、開発から製品化まで担うのは難しいのが実情です。研究者と企業が共同で公的な助成金の採択を目指すという流れもたくさん支援してきましたが、ほとんどはベンチャー企業と研究者という組み合わせで、地域のものづくり企業を巻き込んで地域の産業として発展させるには至っていません。
そこで、公的助成金を活用した新技術の創出支援に加え、私たちは「ものづくり」のニーズ(個別の発注案件)を拾うことにも目を向けるようになりました。
多くのものづくり企業を巻き込むためには、実際の依頼(発注)ありきでないと、なかなかはじめの一歩は生まれないからです。このような経験を踏まえ、私たちは研究者やベンチャー企業とできるだけ接触し、作りたいもの、困っていることを聞き出す活動に大きなウェートを置くこととしました。
コーディネーターの活躍
全てはコーディネーターが研究者の方やベンチャー企業に話を聞きに行くところから始まります。それをものづくり企業や他地域のコーディネーターに繋ぐこと、一つ一つが経験と根気のいる仕事です。
地域のものづくり企業がベンチャー企業とつながった第1号案件は、研究とは遠い位置にあるアウトドア製品でした。しかもとても特殊な材料を使った難加工で、その後も依頼の多くは一筋縄ではいかないものばかりです。
例えば、ベンチャー企業の製品製造のための55点もの部品の調整、イメージからの図面作成、設計等々。また、企業と一緒に研究室に訪問して、金属とゴムで設計されていたものを難燃性ポリカに変え、価格と重量を劇的に下げるといった提案もたくさん行ってきました。
こうしたコツコツとした積み重ねこそ、コーディネーターが発揮する大きな付加価値なのです。そして、こういった活動の中で、ベンチャー企業の技術が研究者に提供されて新たな開発に繋がったり、研究者から助成金申請のために協力可能なものづくり企業の紹介依頼があったりと、少し先に考えていたこともぽつりぽつりと舞い込むようになりました。
加速、そして持続していくために
うまく動きだしたとはいえ、自転車で言えば一漕ぎめが何とか回り、二漕ぎめに入ったところ。ここから加速して、ずっと走り続けるためには何が必要かを考えています。
茨城県の委託事業として漕ぎだしたこの事業が、地域になくてはならない事業にまで発展し、自立化していくことができるかはまだまだ分かりません。
ただ、将来のために今できることとして、この4月から時間の許す限り若手社員がコーディネーターに同行し、ものづくり企業と研究者やベンチャー企業の間を行き来し、必要な人脈とノウハウを身に着けていくことにしました。ものづくり企業のOBであるコーディネーターと同じ水準の技術的専門性を身に着けることは難しいかもしれませんが、若手社員には、地元企業等との幅広く深いネットワークを構築していってもらえると期待しています。
実際、今もベンチャー企業からの注文の多くは、長年ベンチャー企業の支援にあたってきた当社の社員からもたらされています。橋渡しの窓口となり、多くの生きた情報が入ってくること、特に発注したい側の情報を扱う社員がいて、その窓口の存在が広く知られることが重要だと思っています。
次回予告:きっかけ作りの交流イベント「ものづくり中小企業とベンチャー企業と研究者たちの交流会」
コーディネーターの活動と並行して行ってきた活動の1つは、「ものづくり中小企業とベンチャー企業と研究者たちの交流会」です。これは、多くの企業と研究者やベンチャー、そしてコーディネーターが気軽に出会える場として昨年度(2022年度)始めたもので、これまでに計4回開催しました。
このイベントを一緒に運営するつくば市の産業振興課は、10年以上前からつくばのものづくり集団「つくばものづくりオーケストラ(MOTs)」(※)と公的研究機関の敷地内で中小企業の技術を紹介する展示会を開催してきました。そのノウハウと研究機関への人脈、担当職員の皆様の行動力にも大きな力を頂いています。
そしてこの「きっかけづくりの場」には次第に多くの企業が集まるようになり、ついに100名を超える熱気あふれる場に発展しています。
次回<後編>は、6月に開催した「ものづくり中小企業とベンチャー企業と研究者たちの交流会inつくば」の開催レポートをお届けします。
執筆:つくば研究支援センター ベンチャー・産業支援部 石塚万里
※本記事は、個人的見解・意見を述べるものであり、つくば研究支援センターの組織的・統一的見解ではなく、それらを代表するものでもありません。