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【特別編】アマテラス×筑波大学国際産学連携本部インタビュー~多分野のシーズと230超の認定ベンチャーがある筑波大学、国立研究機関と連携しディープテックで社会に貢献する~

こんにちは。つくば研究支援センター(Tsukuba Center Inc.)のnote編集部です。今回は、特別編として、スタートアップ特化型採用スカウトサービスを提供している「アマテラス」の藤岡代表による、つくばスタートアップ・キーパーソンのインタビューをお送りします!

アマテラスは、「次の100年を照らす、100社を創出する。」をスローガンに、”起業家ファースト”の採用サービスを展開しています。代表兼創業者の藤岡清高さんは、ドリームインキュベータにて1,200社以上の起業家・成長ベンチャー企業を支援された後、アマテラスを創業し、「スタートアップ転職・副業のプロ」としてこれまでに2,000人 以上からスタートアップ転職や副業の相談を受けています。

つくば研究支援センターとアマテラスは、つくば地域のディープテック。スタートアップの人材採用で連携しています。特設サイトでは、実際につくばのスタートアップに都内からジョインした高度人材や、行政や支援機関のインタビューを掲載しています。

今回は、アマテラス・藤岡さんによる筑波大学国際産学連携本部・野村助教のインタビューをお送りします。

筑波大学国際産学連携本部について

筑波大学は、学際的研究の推進を建学の精神として掲げて設立された、全国においてもユニークな総合大学です。筑波研究学園都市構想の中核都市として「つくば市」があり、つくば市の中核大学として、政府や企業の研究所、近隣大学、茨城県やつくば市と連携を図っています。国際的な産官学連携活動を推進するため、2014年4月には国際産学連携本部が設置されました。

同部署は、アントレプレナー教育による大学発ベンチャーの創出、研究成果の適正な権利化、技術移転によるイノベーションの創出、教員・学生による社会実装などをミッションとし、その実現にまい進しています。

≪国際産学連携本部のMISSION≫

1.産官学連携は社会貢献である。本学における研究成果の技術移転によりイノベーションを創出し、社会に貢献する。
2.知的財産管理は技術移転の核である。国際産学連携本部のマネージャーが目利きとなり、本学における研究成果を適正に評価し権利化し、知財の国際展開を推進する。
3.企業との共同研究を推進する。国際産学連携本部のマネージャーが本学のシーズと企業におけるニーズのマッチングを図り、本学における研究成果を社会実装する。
4.教員・学生による社会実装を推進する。国際産学連携本部によるアントレプレナー教育ならびにインキュベーションにより大学発ベンチャーを創出し、広く社会に貢献する。
5.筑波研究学園都市の中核大学として、政府系研究所・企業研究所・近隣大学等との連携を図るとともに、茨城県・つくば市等への地域連携により、広く社会に貢献する。
6.本学の優れた研究者による知は社会に還元されるものである。国際産学連携本部によるエクステンションプログラム等により、広く社会に貢献する。
7.上記に掲げる社会貢献を国際展開し、広く世界において貢献する。

今回お話を伺ったのは、筑波大学国際産学連携本部の野村豪助教。知的財産管理に興味を持ち、2018年から筑波大学の技術移転マネージャーとして国内外の民間企業との共同研究のマッチングや知的財産の創出などに携わってきました。筑波大学の強みや同大学の認定ベンチャーとなる要件などについて教えていただきました。

≪インタビュイープロフィール≫
筑波大学 国際産学連携本部 助教 野村豪氏

筑波大学大学院修了後、2010年に株式会社SUBARUに入社、車両研究実験部門にて衝突時における乗員保護性能の開発に従事。2018年より筑波大学の技術移転マネージャーとして国内外の民間企業との共同研究のマッチング、及び知的財産の創出・技術移転業務を5年間経験後、2023年より現職。つくば万博の年に生まれ、つくば市と共に育ってきたことの郷土愛をもって業務にあたる。



アントレプレナーシップ教育、創業支援、技術移転の3業務を担当

ーいま野村さんがどんな仕事に携わっているか教えていただけますか?

筑波大学国際産学連携本部 野村豪助教 (以下敬称略):仕事は大きく3つあり、1つは大学の教員として学生にアントレプレナー教育を行っています。2024年の春はつくばクリエイティブ・キャンプ・ベーシックという、学生たちがチームを組んでビジネスプランを作る授業を担当していました。下期にはBizDev講座というアントレプレナー教育プログラムを開講します。これは大学の知見を社会貢献の一環として一般に公開するエクステンションプログラムのひとつで、教員や研究者向けの内容です。50人以上の方に受講いただいた昨年度は、産総研、NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)、JAXAといった研究所の方が来てくださいました。

2つ目はスタートアップ企業の創業支援。つばさ事業と呼ばれる本学のGAPファンドプログラムで学内のメンターとして選定されたチームを支援したり、ベンチャー企業相談室というバーチャル組織を構えて、学生や先生からのさまざまな相談に対応したりしています。

3つ目は技術移転活動で、大学の研究成果の社会実装に取り組んでいます。教員と民間企業との共同研究のマッチングであるとか、特許の創出・移転などです。

野村助教

ーBizDev講座というのが筑波大学らしいですね。

野村:そうですね。自分の研究成果を自ら社会実装したいと思っている研究者がシーズオーナーとなって講座を受ける。あるいは、シーズを持っていなくても事業化について学びたい人はフォロワーという形式で受けられます。シーズオーナーとチームを組んで活動するためにフォロワーとして入ってくる人もいます。5~6人から成る1チームに外部から招いたプロのメンターを付けて3~4ヵ月でビジネスプランをつくるというもので、本当に筑波大学らしい講座だと思います。2023年は10程度の国立研究機関が視察に来てくださいました。

研究を守る知財管理に興味を持ち、会社を退職して筑波大学へ

ーこれまでのご経歴をお聞かせいただけますか?

野村:大学卒業後に自動車メーカーに入社し、約10年間自動車開発に関わっていました。そのうち、知的財産を学んで将来的にはそこに主眼を置きたいと考えるようになり、退職して2018年に筑波大学に入学しました。最初の5年間は技術移転マネージャーとして共同研究のマッチングや特許を作るなど技術移転業務をやり、2023年から教員として働いています。技術移転の仕事をしていたときからアントレプレナー教育に関わっていて、それが今メインになっている感じです。

ー知財に関して学びたいと思われた背景を教えていただけますか?

野村:人口が減っている日本では、製造業はこの先厳しくなってくると予想しました。では日本はどうやって生き残っていくのか。ひとつは研究力だろうと思いました。研究者ではない私が研究という領域で力を発揮するにはどうしたらいいか考えたとき、興味を持ったのが知財管理です。知的財産法を学んで価値ある研究を守ることができれば、自分も研究という領域で生きていけるのではないかと。それで、母校である筑波大学で学びつつやっていこうと思いました。

インタビューは筑波大学の敷地内にて行った。
筑波大学・野村氏(右側)とインタビュアーのアマテラス・藤岡代表(左側)

国立研究機関が集積するつくば市、幅広いシーズがある筑波大学

ーつくば市あるいは筑波大学発のスタートアップ企業に参画する魅力についてはどのように考えていますか?

野村:つくば市には29の国立研究機関があり、そこには2万人の博士がいると言われています。おそらく日本で最も多く博士が集まっている場所でしょう。つくば市には、アカデミア発のディープテック系のスタートアップ企業が生まれやすく、創出時に技術的な差別化がやりやすいという特徴があります。それがうまく社会課題にはまれば、世の中にインパクトを与えられます。そこにつくば市の面白みがあります。

本学は非常に幅広い分野のシーズが生まれる場所なので、筑波大学発のスタートアップ企業としてはその点が魅力でしょう。国立大学の中では比較的新しい方ですが、総合大学ということもあってロボティクス、マテリアル、ライフサイエンス、バイオなど多様な研究成果が数多くあるのです。そういった分野からはもちろん、体育専門学群や芸術専門学群といった珍しい分野の卒業生からもスタートアップ企業が生まれています。将来起業したいから筑波大学に来たという学生も多く、他大学と迷ったものの面白い研究ができそうだからと本学を選んだ学生もいます。そのように研究力や起業力がブランドとして認知されている点も筑波大学の強みでしょう。

やはり医学部や付属病院があるとライフサイエンス系が生まれやすいのでしょう。つくば市との連携で臨床研究ができることも強みです。産総研(産業技術総合研究所)やNIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)で研究を進めていて治験を実施するとき、筑波大学と一緒に共同研究を行ってシーズをつくることができます。そうした意味で筑波大学は地域に貢献していると思います。

ーつくば市の住みやすさや働きやすさという点はいかがでしょうか。

野村:以前は陸の孤島と言われていましたが、TX(つくばエクスプレス)ができてからは都内にも1時間以内にアクセスできるようになり、スタートアップ企業にとって不利な点はなくなりつつあると思います。投資家に会いに行くにも、イベントに出かけるにも日帰りできますから。都内に比べればオフィスも安く借りることができ、住みやすく働きやすい環境ではないでしょうか。

認定ベンチャーはプロジェクトに採択されると研究棟に入居できる

ー筑波大学でスタートアップを起業するとどのような支援が受けられますか?

野村:民間企業に対して利益供与とみられるサポートはできませんが、ある程度認められた範囲のサポートは可能です。まず、大学発ベンチャーとしての認定を行っています。2024年7月時点で、筑波大学には230を超える認定ベンチャーがあります。認定されると認定ロゴを使えるので信頼性を得られ、会社の成長につなげられます。次に、本学にある産学リエゾン共同研究棟ともうひとつの建屋に計30ほど私たちが管理している部屋があり、認定ベンチャーに貸し出しています。年に2回公募しているプロジェクトに採択をされると入居できます。大学の教員と共同研究するために使えるので、オフィスとして登記し、会社としての信用につなげられます。家賃は面積換算の料金が決まっていて原則実費ですが、その会社の財務状況によっては減免措置があるので、スタートアップ企業にとってはメリットがあると思います。

ー筑波大学発スタートアップ企業に認定されるには、主にどんな要件を満たす必要があるのでしょうか?

野村:まず、本学と関係があること。例えば本学の教員もしくは元教員であること、本学の学生あるいは卒業生であること。そうでない場合は、会社設立後5年以内に本学と共同研究を行っていること、あるいは本学の研究成果や本学の知的財産を活用しているなど、さまざまなパターンがあります。そうした要件を満たしたところが認定の俎上に載り、事業内容が公序良俗に反しないことや財務状況など細かい要件が確認された上で、国際産学連携本部の会議で認定されます。

ー大学発ベンチャーに認定されると、他にどのようなメリットがありますか?

野村:毎年、スタートアップや事業会社、投資家、銀行などを招いて筑波大学発ベンチャーシンポジウムを開催しています。その場でプレゼンをすることで会社の成長につなげてもらい、認定されたベンチャーには登壇のお声がけをしております。

【ベンチャー起業相談室】ベンチャー起業相談室では、起業を考え始めた方、既に活動をしているがアドバイスが欲しい方など、様々なフェーズにいる方の相談に対応している

筑波大学では大学教員とベンチャー企業の代表を両立可能

ー筑波大学らしいスタートアップ企業の事例があれば、ご紹介いただけますでしょうか。

野村:本学で一番有名なのは、医療・介護用ロボットを開発・製造するサイバーダインでしょう。国立大としては珍しく、教員をやりながらスタートアップ・ベンチャーの代表にもなることができます。大学院の教授をやりながら活躍されているサイバーダインの山海嘉之先生は、その最たる例だと思います。本学には教員をしながら事業にも関わる人が多いと思います。最近も落合陽一先生のピクシーダストデクノロジーズがアメリカで上場したように、IPO(新規株式公開)するところも増えてきている気がします。

ー筑波大学のスタートアップ企業で働くにあたり、注意すべきことや転職者の失敗事例などあれば教えていただけますでしょうか。

野村:本学発のスタートアップ企業でうまくいかなかった話は聞かないですね。設備への資金投入や固定費となる人の雇用は経営の算段がついてからすべきであるなど、会社設立前に基本的な指導はしているので、逆に言えば人を雇える企業なら問題ない労働環境だと思います。あとは教員が代表になっていることが大きいでしょう。本学のことをよく知っているので意思疎通がスムーズで、何事もトラブルに発展しにくいのだと思います。

技術に興味があり経営に意欲的な人は、筑波大学発スタートアップ企業に合う

ー筑波大学のスタートアップ企業で働く人について、向き不向きがあれば教えていただけますか。

野村:技術に興味を持っている人、ディープテックを分かっている人に向いているでしょう。また技術者ではなく、技術の事業化や経営、会社の規模拡大への意欲がある人はより本学発のベンチャーに向いていると思います。

反対に向いていないのは、短い時間軸で考える人。ディープテックなので、研究開発にある程度時間がかかることが想定されます。それこそ創薬などは10年単位で考える必要があります。そこを我慢できて、苦しみや喜びを教員と共有しながら一緒にやれるかどうかが重要だと思います。最近は地方大学発のベンチャーにも投資の目は向いてきているので、資金調達については心配も少なくなってきました。いかにあきらめずに続けられるかが鍵になるのではないでしょうか。

【産学リエゾン共同研究棟】起業済みのスタートアップや起業を計画している準備中のチームに対し、開発研究を促進させるために学内インキュベーション施設を貸与している

国立研究機関のシーズを活用してスタートアップ企業として育つ

ー「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」についてもご紹介いただけますか?

野村:事の発端は、政府が2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、国内投資活性化施策のひとつとして掲げられたスタートアップ育成5か年計画です。文科省に大学発スタートアップ企業を支援する予算がついて、計988億円が全国にある9つの拠点に分けられました。本学が参画しているGTIEという東京のプラットフォームが、大学発新産業創出基金事業「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」の採択を受け、環境整備を進めているところです。

同事業におけるつくばでの活動を2024年度からスタートすることになり、先日キックオフミーティングを開催しました。基礎研究から応用研究、もしくは応用研究からPoC(試作開発に入る前の検証)など、スタートアップの芽が出るあたりを重点的に支援するプログラムの提供を始め、シーズの発掘と醸成に注力した企画を行う予定です。並行して、私たち支援部隊の横のつながりを強化するため、地域、国立研究機関、大学などと課題や解決法を共有する勉強会を立ち上げようと思っています。

ー他に、今後予定されている取り組みやお考えがあればお聞かせください。

野村:筑波大学には連携大学院という制度があり、国立研究機関で研究を行うことで大学院を卒業することができます。筑波大学の学生として修士・博士の研究をNIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)でやるような事例です。去年BizDev講座に来てくれた人の中にも、NIMSで研究している筑波大学生がいました。そういう例をもっと増やしたいと思っています。大学は教育機関であって、やはり学生は宝ですから、筑波大学から国立研究機関に行ってもらって、国立研究機関のシーズを活用してスタートアップ企業として育つという流れが理想です。学生だけでなく、客員起業家のような人に来ていただいて大学や国立研究機関と一緒に事業化を目指してもらうことも考えています。経営者が足りていないので、シーズを事業化するためのシステムを提供することができればと考えているところです。

ー筑波大学発ベンチャーの成長支援について知財管理、事業開発など幅広く取り組んでいらっしゃるのですね。筑波大学認定ベンチャーが享受できるメリットも理解できました。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。