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お父さんお母さん、死にたいなんて言ってごめんなさい

「気付いてあげられなくて本当にごめんなさい。」

中学の卒業式、親からの手紙にはそう書いてあった。
むしろ僕の方が、ごめんなさい。

中学生、僕は吃音に苦しめられていた。小学校の時からどんどん酷くなる吃音に、笑われて、積み上げられてしまった劣等感。毎日、明日が来るのが怖くて、最悪な気分で目覚める。どう足掻いても「普通」になれない自分が、惨めで、恥ずかしくて、大っ嫌いだった。

それでも、吃音で悩んでいることを家族には言えなかった。僕自身も吃音のことを話すことさえ恥ずかしかったし、両親は発達障害のある妹の世話でいつも疲弊していた。だから僕は、親の負担になりたくなくて、決して相談せず、何も不自由なく楽しく学校に通う優等生のフリをした。親に聞こえないように、声を押し殺して毎晩布団の中で泣いていた。

中学の途中までは、それで上手く隠せていた。が、ある朝目が覚めたら身体が重くて、起き上がる気力も無くて、どうしても学校に行きたくなくて。もうどうにでもなれと思ってずっと布団に篭っていたことがあった。いつもの時間になっても起きてこない僕から母親が布団を剥がそうとしたが、僕は抵抗した。母親から学校に行かない理由を聞かれたが、お腹が痛いと嘘をついてそれ以上何も言わずに布団に篭もり続けた。母親も諦めて欠席の連絡をしてくれて僕はその日初めて「学校に行きたくない」という理由で学校を休んだ。

その頃、僕は「惨めで恥ずかしい」「みんなと違う」「普通になれない」という自己嫌悪に駆られ、毎日毎日、死にたい、消えてしまいたいと思うようになっていた。自傷行為もだんだん増えてきて、かなり限界が近かったんだと今では思う。

そんなある日、僕と担任とで二者面談があった。そこで吃音について話すことになるとは思わなかった。学校では吃音が出ていたけれど、僕はそこでも気にしていないフリをしていたので、担任から吃音の話が出たのは初めてだった。
吃音で困っていることがあったら、スクールカウンセラーと一度話してみないか、とのことだった。正直この頃は限界で本当に精神的にしんどかった。僕は、親には絶対に知られたくなかったから、それが守られるならということで話すことになった。

今まで一度も吃音について誰かに相談したことが無かったからか、スクールカウンセラーさんに自分の吃音の話をして、本当に気持ちが楽になった。こんなに楽になるとは思わなかった。その後何回かお話して、吃音で困ってること、悩んでいること、などなどたくさん聞いてもらった。そこでふと、死にたいって思っちゃう時もあるんですよね、と言ってしまったのが良くなかったのかもしれない。

その話をよく聞いてくれて、本当に心強かったし、人前で話す機会を極力減らしてもらえることになった。すごく有難かった。でも、そのことが親に伝わった。緊急性が高かったから親にも報告する、カウンセラーや教師としては当たり前のことだ、今ではそう思うけれど。僕があんなに隠して、必死で何も見せないように頑張っていたことが、一瞬で伝わってしまった。親とカウンセラーさんで話したと聞いた時、今度僕と親とカウンセラーさんの3人で話そうと言われた時、終わってしまったと思った。今までの苦労はなんだったんだろう。親にとてつもない心配をかけてしまう。吃音でこんなに悩んでいることが知られて恥ずかしい。余計に死んでしまいたくなった。

たしかにその後、人前で話す機会も少なくしてもらえて、すごく不安は取り除かれた。でも過去のトラウマが消えなくて、思い出すと手が震えて涙が出てくるような状態。加えて親に対して、死にたいと言ってしまった、思ってしまった僕が悪いんだ、申し訳ないと自分を責めるようになっていた。

だから僕は心療内科に通うことになった。親も仕事を早退して僕を送ってくれた。不安を軽くする薬をもらって、吃音の改善のために言語聴覚士さんと練習したり、トラウマの治療を受けたりした。家庭でも、病院への行き帰りの車内でも、吃音や精神状態について親は何一つ聞いてこなかった。

心療内科に通ったからといって劇的に良くなる訳は無かったが、だんだん気持ちは楽になっていった。
その後もつらいこと、苦しいことはたくさんあったけど、高校入試の面接でも配慮してもらえて、合格した。そして、卒業式。

みんなそれぞれの家族から手紙を貰う。そこに、
「こんなにつらく苦しんでいること、気付いてあげられなくて本当にごめんなさい。」
と書かれていた。
僕が必死に隠して、わざとそんな姿見せないようにしていたんだから、気付かないのは当たり前。悪いのはお父さんお母さんじゃないのに。僕が死にたいとか口に出してしまったから、死にたい消えたいなんて思ってしまったから悪いのに。全部、僕のせいなのに。親は何も言わないでいてくれたけど、やっぱり親につらい思いをさせてしまっていたことが本当に申し訳なかった。

お父さんお母さん、死にたいなんて言ってごめんなさい。

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