映画『ヤクザと家族 The Family』それでも生きてゆくには
行き場を失った元ヤクザはどう生活すればよかったのか。いわゆる任侠映画ではありません。けっして美化されることなく、彼らの生活がストレートに描かれた作品です。「新聞記者」の藤井道人監督・オリジナル脚本。2021年製作。スターサンズ配給。
1999年、父親を覚せい剤で失った山本賢治(綾野剛)はその日暮らしの荒んだ生活を送っていました。ある日、賢治は、たまたま店に居合わせた柴咲組組長・柴咲博(舘ひろし)の命を救います。自暴自棄であった賢治に柴咲は手をさしのべて、二人は親子の契りを結びます。
2005年、賢治は柴咲組のなかで地位を築いていきますが「ファミリー」を守るために、ある決断をして14年の刑に服すことになります。
2019年、出所した賢治が見たのは、暴対法の影響で、以前とはまるで変ってしまった柴咲組の姿でした。
暴対法とは、1992年に施行された法律で正式名称は「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」です。暴力団の取り締まりを主な内容とします。現在、各自治体で暴力団排除条例が施行されています。
山本賢治の20年間を綾野剛が演じるのですが、違和感はありませんでした。目に涙がじわじわとたまっていくところを見せる演技には、とても心を動かされました。
1999年から2005年の間に数回ある暴力シーンは、殴る蹴るが手加減なしで描写され、見ていてかなりしんどいシーンもありました。ただ、主人公の「痛み」が、ストーリー上重要になるので、必要なんだろうと思いましたが。
賢治が組長・柴咲と出会い刑務所に入るまでと、出所後では映画の内容はかなり変わります。
2005年、賢治が刑務所に入るまでは、組内での結束がどんなに強固なものであるかが、色々なエピソードの中で語られます。血縁関係はなくてもやはりそれはひとつの「家族」であると映画は描いています。
2019年、賢治が出所してからは、一転して苦しく生きづらい生活が描かれています。
14年の年月の間に組員の数は激減し、暴力団排除条例により携帯電話の契約もままならない状態です。
組長が嫌っていた覚せい剤の売買も行われるようになっていました。
死の間際の柴咲組長の親心から、組織脱退をうながされ、賢治は除籍されます。
賢治は元恋人である由香(尾野真千子)に14年ぶりに会いに行きます。
由香は14歳の娘を育てながら、役所で働いています。裕福ではありませんが、娘と仲良く堅実な生活を送っている様子です。
そこに突然あらあわれた、元ヤクザである昔の恋人。
つっぱねようともしますが、賢治が娘の父親であることから、受け入れます。娘には実の父親であることは知らせずに。
賢治は仲間の紹介で産業廃棄物の仕事にも就き、3人の暮らしが始まります。
その暮らしも、ネットに賢治の過去が流出したことから破壊され、由香は職場も住居も失い、娘も転校することになってしまいます。
14年間、だれにも頼らず一人で娘を育て、生活をなんとか安定させた。
今の生活を築くために、どれほどの努力をしたことか。
賢治と再会したことで、すべて消えてしまった。
「あなたと出会わなければよかった」
と、泣き叫びながら
賢治に出ていくよう告げるシーンは悲痛です。
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劇中、刑事が言っていた言葉。
「お前らはもっとひどい事をやってきた」
当事者にしかわからないところがあると思います。
この作品は同情するのではなく
「こんなことが起こっている」という事実を
フィクションですが
少しだけ見せてくれたように感じました。
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柴咲組の中村を演じた北村有起哉が印象に残ります。覚せい剤を売買する中で自分自身も薬を使用してしまうという役どころです。この俳優は沢山の作品で出会いましたが、どの役でも彼らしい味わいが出ていて、人間の弱い所を表現するのが本当に上手な役者だと思います。
組織に属さない翼を演じた磯村勇斗の存在感。地下格闘技をやっている設定なので身体つきがしなやかで美しかったです。
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