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ショートショート。のようなもの#31『小学星人の襲来』

 朝、異様な物音で目を覚ました。
 ベッドから体を起こして窓の外を見ると、街はめちゃくちゃだった。
「な、なんだこれは!?」
 高層ビルよりも遥かに大きい巨大な小学生たちが街中に溢れ返っているではないか。
 私は、我が目を疑った。
 なぜ、私が彼らを小学生だと判別したかと言うと、半袖短パン姿で、頭には黄色い通学帽を被り、皆がランドセルを背負っている王道の小学生スタイルだからである。
 ウルトラマンサイズの小学生たちが目の前を横切っていく。

 私は、すぐにテレビをつけた。
 朝のニュース番組では、この巨大な小学生たちの話題で持ちきりだ。
 画面の右上の方には、テロップでデカデカと『小学星人襲来!』と書かれている。

「…ん?〝小学生〟ではなく〝小学星人〟…?」

 テレビの中では、天体関係の専門家らしき男が大真面目な顔でしゃべっている。
「この巨大な小学生たちの正体は、小学星という星からやって来た〝小学星人〟という異星人で、体こそ尋常じゃないくらい大きいですが、彼らの生態は、ほぼ地球上の小学生と同じような習慣を持ち、そういった行動をとる。と、されている…」
 私は、意味がわからず一気にパニックに陥った。
 しかし、その言葉を受けて再び窓の外を目をやると、確かに専門家の発言通りに巨大な〝小学星人〟たちは小学生のような動きを見せている。

 ある者は、街中のビルの至るところにシールを貼り…。
 また、ある者はピアニカのホースを振り回して唾液をピュンピュン飛ばしている…。
 そして、またある者は、巨大な土管を口に咥えて川の中に突っ込み水をブクブクさせている…。
 ティッシュペーパーの空き箱を靴のように履いてシュイーン!シュイーン!と高速移動してる者もいる…。

 テレビの中では、専門家がさらに続ける。
「彼らの目的は、どうやら蝉の脱け殻です。小学生男子がなぜかファッションアイテムよろしく衣服につけて楽しむ、あの蝉の脱け殻です。やはり〝小学星人〟も小学生同様に蝉の脱け殻が大好きなのでしょう。彼らは、地球上にある全ての蝉の脱け殻を強奪しようと目論んでいるようです…」

「なんやそれ、勝手にしろよ。」と、私は思った。

 番組のコメンテーターも「それなら、持って帰らせたらいいんじゃないですか?」と、発言するが、専門家は返す。
「それでは、地球上の小学生たちの情緒が不安定になり、発育過程で多大な影響を与え、この星の未来はありませんよ…」と、答えた。

 ──それから、数週間が経ち、政府は対策本部を設置して、蝉の脱け殻の代わりに給食の揚げパンやピカピカに磨いた泥団子などを製作して〝小学星人〟に献上してみたが、反応はいまいちだった…。

 夜になると、街中で枕投げを始めるわ、朝になるとお寝しょをしている者もいて周辺地域一帯は床下浸水となり刺激臭が鼻腔を突き刺す…。

 政府は、何か対策を練っては実行し、その度に、失敗に終わる…そんなことを何年も何年も長年繰り返した。

「…もう、ダメか。」

 と、諦めかけた、そんなある日、街中を闊歩していた1000体以上の〝小学星人〟たちが一斉に、ランドセルのフタ部分をパタパタ!パタパタ!と羽ばたかせ始めた。
 そして、天高く飛び上がったかと思うと空の彼方へと消えて行ったのだ。

 彼らが、地球上に襲来してから早6年が経っていた。
 どうやら〝小学星人〟たちは、めでたく卒業の時期を迎えたようだ。

 「よかった!これで、地球上にも平和が戻るぞ!」世界中が、歓喜に沸いた。

 すぐに、街中のビルに貼られたシールを剥がしたり、お寝しょで受けた水害の復旧作業も始まり着々と進んでいった。
 〝小学星人〟のいない平穏な日常が戻りつつあった。

──しかし、安心したのもつかの間だった。
 それから二週間ほどしたら、彼らは、ぶかぶかの学ランをパタパタと羽ばたかせながら、再び地球へと襲来してきたのである。
 もう一回り大きな、〝中学星人〟となって。
 
「…ん~、仕方がない。私がやるしかない!」
 〝中学ノ先星人〟の私は、チョークを空へ掲げて巨大化した。


                  ~Fin~

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