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ショートショート。のようなもの#9『足壺屋』

 僕は、仕事終わりの疲れた体を癒すために、ふと目に止まった“足壺屋”へ入った。
 しかし、そこは所謂、足ツボマッサージを施すお店ではなく“足壺”を売っているお店だった。
 店内の棚には、小さな小さな壺が沢山並んでいた。
 すると、店の奥からしゃがれた声がした。
「これは、全部、お客様方の足の裏から採れたものです。
 人間の体には何百という数の壺がございまして、特に足の裏には、びっしりと壺がございます。
 我々は、その壺を採取しまして骨董品として販売しておるのです。」
 ヒゲを生やした老人がジーッとこっちを見ながら語りかけてきた。

「特に疲れてらっしゃる方から採取した“足壺”は、ぽたりぽたりと体中の老廃物を溜めておりまして、深みや味わいが出ていて、それはそれは愛好家に好まれるのですよ。」

 そんな素っ頓狂な話を聞かされている傍らで、足壺愛好家らしき男が、濃い緑と茶色の混じったような色の足壺を買って帰っていってしまった。

「今のは、いくらで売れたんですか?」
「3000万だな。」
「3000万!?」
「そのうちの半分は、元の持ち主、つまり、“足壺”を譲ってくれた方にお渡しするんじゃよ」

 ということは、僕も“足壺”を売ればそれだけでしばらくは食べていける。仕事もしなくていいということか。即決だった。
 僕はすぐに、その老人に足の裏をパカッと開けてもらって、たっぷんたっぷんに老廃物の溜まった“足壺”を取り出してもらった。
 両足合わせると、20個くらいは出てきた。
 中には、壺の壁面に、水虫や魚の目が出来ていて売り物にならないものもあったようだが、自分の足壺を買い取ってもらい、おまけに老廃物も抜けて、文字通り足どりか軽くなって、僕は家へ帰った─。

 後日、連絡があり、いくつもあった僕の“足壺”は全て完売したそうだ。
 そして、売上金の半分も約束通りに振り込まれた。
 図に乗った僕は、わかりやすく浮かれきって、会社をやめ、豪遊しまくった。

 しかし、そんな生活も永遠に続くわけはなく、3年が過ぎた頃に、貯金は底を尽きた。
 それでも、豪遊生活に慣れてしまった僕は、どうしても職につく気にはなれず途方にくれていた。
 気がつくと、フラフラと足が自然と、あの“足壺屋”へと向かっていた。
 幸い、あのときの老人はまだ、健在で店に立っていた。
 ことの顛末を説明するやいなや、どうにかならないか!?助けてくれ!と、僕は必死に訴えかけた。
 すると、老人は申し訳なさそうに答えた。
「…しかし、お客様は、もう既に、ありったけの“足壺”はお売りになってますのでのぅ…」
「そ、そんな…。じゃあなんですか、僕はこのまま野垂れ死ぬしかないんですか!?…なんとか、なんとかして下さいよ…」
 僕は、一縷の望みを絶たれた思い、思い切り膝から崩れ落ちてしまった。

「あ~あ~、あ~あ~!お客様!お客様!なんと言うことを…。もったいない…もったいないことを…」「…え?もったいない?というと?」
「いや、人体からは“足壺”以外にも、もう一つ貴重な骨董品が採れるのですよ。でも、今、あなたが崩れ落ちた瞬間に、残念ながら、自ら割ってしまわれた……」
「…え?割ってしまった?…ウソだろ…」

 僕は、その瞬間。確かに“膝の皿”に激痛が走ったのがわかった。


                ~Fin~

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