ショートショート。のようなもの#49『子ンタクトレンズ』
ぼくが、体を屈めて道端で〝子ンタクトレンズ〟を探してると頭の上からおじさんに声をかけられた。
「どうしたんだい?ぼく?何か探しているのかい?」
「…そう、〝子ンタクトレンズ〟を探しているんだ。お散歩をしていたら逃げ出しちゃったから」
「え?逃げ出した?コンタクトレンズが?…落としたってこと?」
「落としたんじゃなくて逃げ出したんだよ。カラダを縦にしてタイヤみたいにコロコロと逃げていったんだよ」
「おもしろいねぇ。まるで生きてるみたいな言い草だ」
「生きてるよ、ぼくの〝子ンタクトレンズ〟は」
「え?生きてる?…あ、そう」
「信じてないでしょ?〝子ンタクトレンズ〟っていうのはメガネの赤ちゃんなんだ。だから、生きてるよ。それで〝子ンタクトレンズ〟を大切に育ててあげると立派な〝メガネ〟になるんだよ」
「…あ、そう。で、落としたのは1つだけなの?」
「今は1つだけど、もう少ししたらフレームも生えてきて2つになるよ。柄も生えてきて〝メガネ〟になるんだ。だから栄養を与えるためにお散歩をしていたんだ」
「栄養?」
「そう、いろんな景色を見せてあげるんだ。それが〝子ンタクトレンズ〟の栄養。家の中で教科書だけ見せていても分厚い〝マルメガネ〟にしかならないからさぁ。でも、お外で散歩をして悪いものを見すぎたら真っ黒の〝サングラス〟になっちゃうから気をつけないとダメなんだ。
クラスで人気者のたかし君の〝子ンタクトレンズ〟なんかお笑い番組ばっかり見せられてるから、この間、〝オモシロハナメガネ〟になったんだよ。
それをマネした隣のクラスの友だちの〝子ンタクトレンズ〟は失敗して、フレームの上にキラキラで大きく『Happy Birthday』って形の角が生えてる〝ゲキサブパーティーメガネ〟になっちゃって恥ずかしそうにしてたなぁ。
…ねぇ、おじさんも一緒に探してよ。
…ボーッと突っ立ってないでさぁ。
もう、しょうがないなぁ。ママに手伝ってもらうしかないかなぁ。ママの〝子ンタクトレンズ〟はすごいんだよ。銀色の立派なボディーを持った〝オペラグラス〟になってるんだ。たぶん韓流アイドルのライブにばかり連れて行かれてたからだと思うけど…
あーぁ、もう~どこ行っちゃったんだよ~!子ンタクトレンズ~、出てこいよ~!ちゃんと面倒みてあげるから~」
「ねぇ、僕。もういいかい?これで〝子ンタクトレンズ〟を飼うのは大変だってわかっただろ?おじさんも子ンタクトレンズショップの店長としては売ってあげたいのは山々だけど、ちゃんとママに許してもらってからにしないと逃げ出したら大変だってことがバーチャルで体験できただろ?」
───そうだった。ぼくは、夢中になりすぎていて忘れていたけど、ママに内緒で〝子ンタクトレンズ〟を飼うために、お店で〝子ンタクトレンズ〟のバーチャル飼育体験ができるVRゴーグルをかけていたんだった。
ぼくは、肩を落としながら、おじさんに返すためにVRゴーグルを頭から外してテーブルの上にそっと置いた…。
その瞬間、〝VRゴーグル〟はピョンっと床へ飛び降りたかと思うと、ベルト部分をフリフリしながら一目散におじさんの元へと駆けていった。
~Fin~
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