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ミステリー馬鹿男【1話読み切り】

『小林結婚したんだって』


昨日、智也から聞いた言葉だ。
智也とは小学校の頃からの幼馴染だ。

小林と言うのは俺が中高仲良かった女子だ。
小林の事を好きだったという事は誰にも話したことが無い。
今後も話す予定は無い。

小林に6年間も片想いしてたなんて言ったら智也は笑うだろうか。
小林とはとても仲が良く、しょっちゅう二人で遊んだ。
仲良くなったきっかけは、中1で転校してきた小林の席が俺の隣だったことだ。
小林は、日を追うごとに色んな友達が増えて行ったが、なんだかんだ一番仲が良い友達は俺だと伝えてくれたことがあった。


俺の気持ちを小林に伝えた事は無い。
だけど、なんとなく小林は俺の気持ちに気がついてるような気がしていた。
お互い今の関係性が心地よく一歩踏み出す勇気が無かったのかもしれない。なんて考えるのは俺のエゴかもしれないが。

小林の気持ちはよくわからなかった。
怖くて聞けなかったし、俺の事を特別恋愛対象として見ているかどうかもわからなかった。
だけど、小林に彼氏がいた事は6年間で一度もいない。

そういう状況が続き俺は現状に満足していた。
特にアクションを起こさなくてもずっとこの関係が続けば良いと思っていた。
その心地良い状態がいつまでも続くわけもなく、大学に進学した後しばらくは小林と会ったりしていたが、徐々にそれも無くなった。
今では一切連絡も取らなくなっていた。

理由はある。
小林に彼氏が出来たからだ。

何となく、彼氏持ちの女友達を誘って二人で遊ぶのは気が引けた。
いや、というよりも俺が小林の事を好きだからというのが大きかった。
勝手に小林は俺の事を好いてくれていると思っていたが、俺は6年間盛大な勘違いをしていたようだ。

俺はどこで間違ったのだろう。

小林から恋愛相談があると大学の時言われたことがあったが、あの時に自分の気持ちをちゃんと伝えるべきだったのか。
いいや、もっと前、高1の時に小林が「修司って好きな人いる?」と聞いてきた時に俺は小林が好きだと伝えるべきだったのか。
それとも、高2の時夏祭りに行こうと小林に誘われたとき、智也と行くからごめんと謝ったあれが良くなかったのだろうか。
もしくは、高3の夏休み小林と一緒に勉強している時「私が大学で彼氏出来ちゃったらさびしい?」と不意に聞いてきたとき上手く返せなかったのが原因だろうか。

思い返すと間違いだらけで自己嫌悪に陥る。
俺、何回チャンス逃してたんだろう。
今冷静になって振り返ってみると、小林は俺のことが好きで何度も頑張ってアプローチをしてくれていたような行動ではないか。
いや、これは俺の気のせいかもしれない。

結婚の事を昨日智也に言われた事で俺の頭の中はぐちゃぐちゃだ。

心を落ち着けるため、散歩しに近くにある海に行った。
海岸沿いを歩き、波の音が俺を励ましているように聞こえた。
自然に右目から水がつたった。

俺ってホント馬鹿だ。

そういえば、昔小林と二人でよくここで歩きながら喋ったな。
先生の愚痴、友達の相談、家族の事。
色んなことをお互い話した。

「俺の、何がダメだったんだろう・・・」
お前の女々しさだよと心の声が聞こえてきた。

ああ、10年前に戻れたら俺は絶対小林に想いを伝えるのに。
後悔先に立たずとはこの事か。

家に帰る途中、ふと昔小林に貸した小説を思い出した。
小説の内容は、恋に不器用な名探偵の男が難事件を解決していくが
幼馴染の彼女に想いを伝えられないまま、彼女が殺人事件に巻き込まれ
一生会えなくなるという悲しい物語だった。
俺はその話が面白いと思ったが、小林はちっとも面白くなかったと言って本を返してきた。
そういえば、あの本どこやったかな。

何となく気になってきて、小走りで家に帰った。
部屋の本棚を見ると、本棚の下の方にほこりを被って左の端っこに並べてあった。
「なつかしいなあ」
手に取って小説をパラパラめくった。

すると、小さな紙が1枚落ちてきた。
俺は目を疑った。

“好きなのに想いを伝えないなんて、ほんとバカ男”
まぎれもなく、小林の字だった。

この小説を貸したのは確か高3の秋。
最後に俺にメッセージをくれていたのに、何も気が付かなかった。

俺は、本当に馬鹿野郎だ。


【終】

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