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ささやかな人生の灯り「Sempé」の世界

 今まで人生でたった一度ファンレターを書いたのは、フランスのイラストレーターのサンペ氏へでした。数年前パリで年に一度開催される書籍の大規模な見本市、「Livre Paris」に行った際に、彼のサイン会がありました。一世一代の思いで手紙を手渡しました。ファンレターと言っても、特に気の利いた文章も思いつかず、ただ「あなたの作品はわたしのささやかな人生に灯をともしてくれています、Merci」という短いものでした。

彼の簡単なプロフィールです

ジャン=ジャック・サンペ(Jean-Jacques Sempé,1932年8月17日 – 2022年8月11日)
ボルドーに近いペサック生まれのフランスの漫画家、イラストレーター。筆名として「Sempé」で知られる。
友人でもあった作家ルネ・ゴシニと共作した『プチ・ニコラ』で知られる。雑誌『パリ・マッチ』『ル・フィガロ』『ニューヨーカー』、などでも執筆。

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  パリの街角、左岸の小さなギャラリー、様々な場所で彼のイラストに出会います。次第にその世界に心惹かれていきました。
 「プチ・ニコラ」のイラストといえば思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。それが彼の一番の出世作かもしれませんが、私には雑誌「The New Yorker」の表紙や「パリマッチ」の挿絵というイメージ方がよりしっくりくるのです。
 淡いパステルトーンに目を惹く構図で描かれる人間の様々な側面、人生のほろ苦さ、喜びや切なさ。「そういう気持ちになることってあるよね、」という共感や人生への憧れが、軽やかに、洗練されたタッチで描かれています。風刺画家としての作品も多く、笑いを誘うものからアイロニーに満ちたものも多数。パリの街を歩いていると本当にサンぺの描いたような人々がいたりするのです。

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あぁ、人間ていいなぁ

 この絵は作品集「Ames Soeurs (ソウル・メイト)」の表紙です。夜のパリのアパルトマン街に明かりの灯るふたつの窓。人間すら登場しない絵でありながら、都会の中の人の繋がりと温もりを感じさせる大好きな作品です。

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 言葉にできないような気持ち、でも確かに感じたことのあるなんともいえない感情、それをシンプルかつ繊細に描くサンペ。フランス人たちのスノッブさ、滑稽さ、憎めない愛嬌を描いたイラストを眺めていると、「人間ていいなぁ」と感じます。その観察眼の素晴らしさは個人的にどこか長谷川町子に共通する部分があるように思います。

 近年では、サン=ジェルマン・デ・プレの老舗カフェ「Café de Flore」のペーパークロスに彼の描いたフロールとパリの様子が。パリ人にとっても重要な作家です。

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 昨晩、寝る前に息子が夫と本を読んでいる楽しそうな笑い声が聞こえてきました。私の本棚からサンペの画集を出してふたりで眺めていました。そのふたりの横顔にじんわりと温かい気持ちになりました。

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日本語版で出版されているいくつかの作品です

サン・トロペ
ジャン=ジャック・サンペ(著), 荻野 アンナ (訳)
出版: 太平社 (1999)

今さら言えない小さな秘密
ジャン=ジャック・サンペ(著)荻野アンナ(訳)
出版: ファベル(2019)

とんだタビュラン
ジャン=ジャック・サンペ(著), 荻野 アンナ (訳)
出版: 太平社 (1997)

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