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#03 シェイクスピア&カンパニーカフェのピースフルな空気

こちらのエッセイはパリの珈琲にまつわるetcの連載マガジンです。その他の記事はこちらからどうぞ。


この連載で紹介したいカフェの基準をあたらめて考えてみた。無闇に訪れたカフェについて書くのはしんどいし、さほどよい印象を受けていないのにもかかわらず紹介するのも違うと思った。
ましてやガイドブックに載っているような有名店はこちらに住んでいると縁遠くなる。

そんなわけで、日々のカフェを巡りの中でも選りすぐりというとちょっとおこがましいが、「また行きたい」というカフェに絞って紹介しています。つまりあまり観光地化していなくて、いいお店。結構あるんですよ。
みなさんにとっても行って後悔の少ない店であることを願って。



さて、3軒目に選んだのは、いつ紹介しようか、前置きに反する気がして有名すぎるので省こうかと思い悩んだ「Shakespeare & Company Café / シェイクスピア&カンパニーカフェ」。正確には有名なのはお隣の英語圏の書籍を扱う書店である。もはやパリで一番有名な本屋となってしまい、連日観光客が列をなしている。そこにくっついているのがこちらのカフェである。書店に関しては以前に文章を書いたので、よかったら参考までにお読みください。

二代目店主の時代にはカフェは存在しなかった。現在の三代目店主(二代目店主の娘さん)が数年前に書店の隣を改装してカフェとして開店した。

さてカフェの中はというと、人気書店と比較すると狭い。書店は圧倒的に観光客が多いのだが、すぐ隣のカフェは地元民やパリっ子(って今でもいうのでしょうか)が多い印象だ。はるばる異国からパリに来る方々は、いわゆるタブリエを巻いた給仕がきびきびとテーブルからテーブルへと行き交うパリ的な老舗のカフェを訪れたいのだろうか。

書店では扱わない雑誌が売られている

そんなカフェに対してこちらはもう少しカジュアルで現代的だ。過去2回の記事で紹介したお店同様、いわゆるサードウェーブと言われるカフェなのだろうけれど、あまりそう言ったカテゴライズには興味がないので省く。興味のある方は、ざっくりと説明されているこちらをご参考までにどうぞ。

地元の焙煎の豆(Café Lomi)で淹れられたカフェはこなれたいい味という印象で安心して飲める。お菓子もピーカンパイ、チェリーパイなどイギリスやアメリカの匂いを感じるものが並ぶ。

店内は3テーブルほどと窓際のカウンター席。テラスはゆったりとしているけれど、大きなテーブルをシェアする感じだ。

私のお気に入りは窓際席。ノートルダム寺院がみえる。
鞄やコートを置いて細長いカウンターテーブル席に落ち着いた頃に注文が出来上がり「flat white 」と呼ばれる。

窓際のカウンター席で一杯

太陽を浴びることが大好きなフランス人たちは、気候のよい季節はテイクアウトし隣のちいさな公園で飲んだり、テラス派が多いのか、逆に店内は案外閑散としている。そんな店内でお気に入り席ができると、いよいよなんとも言えない心地良さがこの店にはある。

人々の日々の営みが無数に交差し、食器やスプーンがかちゃかちゃと音を立て、若い店員たちは英語でおしゃべりしながら楽しそうに仕事をして(店員さんも共通語は英語)、気持ちのよい湯加減で客は放っておかれる。その後ろで音楽が心地よく響き、誰かの注文が出来上がったよ、と声が聞こえる。
そういうひとつひとつに愛おしさを感じるような空気がある店は、そんなに多くはない。ポジティブに人生を謳歌している空気というか、なんだかいいなぁと感じるのだ。それはお隣の書店の精神を受け継いでいるように思う。そんな空気にほっとして、わたしは本やノートを開いて自分の思索の時間に入っていく。

よく考えるのだけれど、このいい空気というのはどうやって作り出されるのだろう。店側の配慮からくるものなのだろうか、客層がつくり出すものなのだろうか。
もちろん誰にとってもぴったりとした場所というのは難しいけれど、しみじみと感じるよい空気がある。これは本当に言葉にするのが難しい。

私にとってカフェとは何かという哲学すらできる境地に近づきはじめたところで、今日はこの辺で。
そんな思索を練るのもカフェの役割である。

あまりに有名になったお決まりのトートバッグを買うのもいいけれど、パリのその地にその時流れるいい空気を感じてみるのもなかなかいいものですよ。

トレーに敷かれているプルーストの人生の質問リストは
思索にふけることのできる素敵なアイディア


Shakespeare & Company Café 
37 rue de la Bucherie, 75005 Paris
mon-fri 9:30-19:00
sat & sun 9:30-20:00


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